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生徒心得(Ⅱ).嵐の部活動⑥



『ビーッ』



グラウンドから、

いつもの笛の音が聞こえてくる。



いろいろあったけど、今日の部活も終了だ。

……なんだか今日は長く感じたな。



「真澄くん」


「…………」


「…おーい、真澄くん。部活終わったけど……」


「……えっ?!あ!すんません!」


「大丈夫?帰れる?

あ。画材とか、そのままでいいからね」


「あ、は、ハイ……。

あの、今日はありがとうございました」


「ううん。気をつけて」



真澄くんと、部員のみんなを先に帰し、

私は、一人残って後片付けをしていく。



うーん。しかし。


何回見てもうまいな、この猫。



……あ。


結局、入部どうするのか聞くの忘れたな——



『——ガラッ』



手元のスケッチブックを眺めてぼんやりしていると、

つい先ほど閉めたはずの美術室のドアが、

誰かによって開けられた。



「!」



驚いて振り向くと、

目に映った正体は……



「ま、真澄くん!」



——先ほどまでここに居た、真澄くんだった。



「どうしたの?忘れ物?」



キョロッと辺りを見回してみたけど、

別に、それらしき物は落ちていない。



「……………」



彼は何も言わず、

俯き気味でツカツカとこちらへ向かってきて………



ハガキより一回り小さいサイズの、

白い紙を私に差し出した。



「えっ…………?」



……見てもいい、ってことだよね?



真澄くんから受け取った用紙に目を通す。



「………えっ!?

ま、真澄くん、これ……!」



——そこには、『入部届』と書かれていた。



ってことは………!


嬉しい!

うちに入部してくれるんだ………!



………と喜んだのも束の間。



「………ん?


ん?!あ、あれ?」



落ち着いて、

よくよく届けの内容に目を通すと……



「——————さ、サッカー部?」



入部先となる[部活動名]の欄には、

見間違う隙も与えないくらい、

達筆で大きく[サッカー部]と書かれていた。



……どういうこと?



当然だけど、

『サッカー部』の入部届の提出先は、

決して『美術部』の部長ではない。



強めの筆圧で堂々と書かれているから、

書き損じってことはない……よね。さすがに。



…それでは一体、

どうして、これをここに………。



……真澄くんの行動の真意がわからない。



「すんません……。

せっかく栞さんに誘ってもらったけど……。


俺やっぱり、

いっちゃん得意なサッカーやろう思います。


……ほんまにすんません」



ようやく口を開いた彼の声は弱々しく、

肩を落として申し訳なさそうにしている。



……ああ、そうか…………。


『うちにこないか』なんて、

私の軽はずみの一言が、

こうして彼に謝罪をさせてしまってるんだ。


いや、うちに来て欲しいと思ったのは事実なんだけど。



困らせるつもりはなかったから、罪悪感がすごい。



「いやいや、ぜんぜん!気にしないで!

他にやりたいことがあるなら仕方な……

「そんで!」



真澄くんが、パッと顔を上げた。

また、私を射るような瞳が飛び込んでくる。



……真剣な眼差し。



その瞳と視線が合い、

私の心臓は、一度だけ強く脈打った。



「そんで……

絶対レギュラーなって、ええとこ見せるんで、

栞さん、試合見に来てくれませんか……!」



静かな美術室で、

その声は残響となる。



「……う、うん。

……わかっ、た……よ?」



真澄くんの勢いに圧倒され、

そう返事をするのがやっとだった。



「………」

「………」



数秒の沈黙。



異変はすぐに起きた。


みるみるうちに、

真澄くんの顔が赤くなっていく。

汗の量もすごい。



「………ほ、ほなこれ、出してきますんで」



パッと、彼はまた俯いて、

美術室を出て行ってしまった。



………なんでだろう。

その足音が、やけに耳に残った。



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