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生徒心得(Ⅱ).嵐の部活動④



リズミカルに鳴る、デッサン中の鉛筆の音。


鼻を刺すような、油絵の具のにおい。


筆を洗う、軽い水の音。



戻ってきた、平和な時間。



キャンバスを前にした私は、

真澄くんがいることも忘れ、

自分の手元に集中してしまっていた。



はっと気づいた時には、

部活終了の約20分前。



あれ以降、

真澄くんは黙々と作業をしていたようだ。



ちらっと彼の様子を見てみたところ、

心ここに在らずというか……

どことなくぼーっとしていて、

手だけを動かしている?みたいな感じだった。



…やっぱり、難しかったのかな。


いや、絵の経験ないって言ってるのに、

無理矢理描かせたから面倒に思ってるのかもしれない。



どちらにしろ、申し訳ないな……。



謝罪の言葉を伝える前に、

彼の手元を覗き込んでみると——



「え……?う、うそ………


すごい!!!!!」


「えッッ!?」



真澄くんは、驚いたようで目を丸くしている。



まあ当然か。

私が急に大声をあげたんだから。



でも、仕方ないよ。

私だって相当驚いたんだ。



だって、彼のスケッチブックには——



写真通りの、見事な猫の姿。



サイズ感、影の入る位置、周りの風景さえも細密に再現されていて。

……悔しいけど、すべてが完璧だった。



「ちょっ、ま、真澄くん……!

どういうこと!??経験ないんじゃ……!」


「え?え?これ……俺が描いたんですか?

いつのまに、こんなん描いて………?」


「…えっ?」



……なぜか真澄くんは、

自分のスケッチブックを見つめて、困惑している。



一体、何を言ってるんだろう。

今の時間、そのページに触れた人は、

真澄くん以外いないのに。



「い、いつのまに……って。

どういうこと…………?

もしかして………無意識?」


「う…は、ハイ…

ちょっと考え事しとった…というか……」


「ええ…………?」



ごにょごにょと口ごもる真澄くん。


俯いちゃったから、表情は見えないけど、

黒髪からちらっと覗く耳が赤くなっている。



考え事しながら?

無意識のうちに?

こんな完璧な、猫ができていた…………?

そんなはず、なくない………??



それに…

なんでこんな挙動不審なんだろう……???



「ふっ………ふふ…………」


「……?」


「………ふふふっ………あははっ」


「!?」



考えるほど、もうよくわからなくって、

だんだん面白くなってきちゃって……

ついに堪えきれず、吹き出してしまった。



「あはははははっ」



私は、

困惑の表情を一層強めた真澄くんや、

何事?と言いたげな部員のみんなを置いて、

ひとしきり笑った。涙が出るほど。



「はー……おっかしい」



こんなに笑ったのは、久しぶりかもしれない。



「真澄くん」



「な、なんスか」



「うちにこない?」



「え!?」



ピタッと彼の挙動が止まった。



「今までコンテストで入賞したことのないうちの部だけど……

真澄くんのこの実力なら、

絶対いいところまでいけるよ………!」



「あ、ああ……なんや部活のことか……。

ええと……ちょっと考え…

「しーちゃん」



突然、

思わぬ方向からの、私を呼ぶ声。



その方向に目を向けると、

開いた窓のサッシ部分に両腕をのせて、

こちらを見る流星がいた。



「りゅ、流星!?どうしたの?」


「んー。なんか、

しーちゃんの笑い声が聞こえたから」



……真顔だけど、どことなく不機嫌そうだ。



「で?なにやってんの?」


「なにって……部活だけど……」


「ふーん」



流星がジロっと、

冷ややかな目を真澄くんに向ける。



わぁ!ちょっと!

そんな風に見ると、気弱な真澄くんが萎縮しちゃうじゃない…!



流星から庇うため、

慌てて真澄くんに視線を移すと……



私の心配とは裏腹に、

真澄くんは、強く鋭利な眼差しで流星を見ていた。



…気のせいかな。

2人の間に、バチバチとはじける火花が見えるのは。


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