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ヨハネスの死

枯れ木のように細い手足の自由を奪われたジャドウだが、四肢に力を込めて髪を引きちぎり技から抜け出すと邪魔な剣の鞘と白マントを放り捨てた。装飾を外した分、身軽となる。


すぐさま間合いを詰めて拳の乱打撃ちを開始。機関銃かと思うほどの打撃だが、ヨハネスは優れた動体視力を活かして繰り出される拳に威力がなく錯乱させるのが目的と察知し、眉間に放たれた一撃をキャッチし、彼の脇腹に蹴りを入れる。だが、蹴った方のヨハネスが苦痛で顔を歪めた。


蹴り足を腕で掴まれてしまったのだ。ジャドウは片腕をヨハネスは左足の自由を失って膠着状態に突入。ヨハネスの脚がブルブルと震え、顔には玉の汗が浮かぶ。


一瞬のスキを突いて腕を引き抜き、再度ヨハネスの美しい顔面に拳を食らわせる。


鼻梁に炸裂した拳は彼の皮膚を破って鮮血を噴出させ、白い軍服を赤く染めていく。


後方にのけ反ったのに合わせて脇腹に挟んだ左足を外してやると、ヨハネスはダウン。

倒れたところにジャドウの靴裏が迫る。間一髪で回避し、再び髪による拘束攻撃を試みるが、ジャドウはタロットカードを放って絨毯のように敷き詰められた金髪を切断。技を未遂に終わらせる。


ふたりはガッチリと両肩を掴んで力比べに突入。体格差が影響したのか力比べに勝利したジャドウは彼女の身体を持ち上げ、ヨハネスにニークラッシャー二連発を仕掛け左右の膝の皿を破壊。


宇宙一の硬度を誇るジャドウの膝を前にしてはヨハネスの膝はガラス同然。


剥き出しになっている膝小僧から血を流し、姿勢を崩しながらも辛うじてダウンは拒否。

上半身に力をみなぎらせファイティングポーズを取るが膝の出血は止まらない。


ジャドウと相対した瞬間から戦闘は避けられないとヨハネスは踏んでいた。

話がどう転ぶにしても自分たちが戦いをしない未来はない。必ず衝突する。

ジャドウは豊かな髭を撫でて片頬だけを上げて嘲笑した。


「吾輩を相手にここまで持ったことは褒めて遣わすぞ」

「君はいつも上から目線だね。そういうところが僕は嫌いだ」

「嫌われるのは吾輩にとって光栄の至り。さて、止めといくが長年のよしみもある。最期の言葉があるなら言うが良い。どうせ記憶には残らんだろうが」

「君たちがどれほど策を練ろうとカイザー隊長は決して負けない」

「健気なことで。だが吾輩とスター様はお前たちよりも遥かに奴を知り尽くしている。

今回に限っていれば我らの負けはあり得ぬ。まあお前は黄泉の国から最愛の隊長殿の最期を見届けるがよい。きっと奴も喜ぶであろう」


ジャドウは両掌を天に掲げ呪文を唱えた。


「我が冥府の門よ、開け! 死霊に生贄を与えてやろう」


ヨハネスの足元にタールのように漆黒の池が出現し中から無数の腕が伸びてきてヨハネスを捕らえる。全身を腕に拘束され、僅かに身を動かすことも声を出すこともできない。


死霊たちの腕は驚くほどに冷たく、体温を奪っていく。

ヨハネスの顔が青白くなり目も虚ろになって碧眼の輝きも殆ど失われてしまっている。

ジャドウは背中から天使と悪魔の翼を展開すると空へ向かって舞い上がる。

逃げ去ったのではない。技の発動に必要なのだ。


「冥府ニードローップ!」


死霊で相手の動きを拘束してから放たれる膝爆弾はヨハネスの喉に命中。

ゴキュッという首の骨の折れる音が木霊し、彼女の瞼は閉じられた。

彼女の亡骸をジャドウが抱えると黄金の粒子となって飛散。

しばらく無言で佇んでいたジャドウだが、やがて喉の奥から笑いが出た。


「スター様、これでいちばんの邪魔者は葬り去りましたぞ! あなたの人気も回復いたします! 全てはスター様のために!」


たとえどれほどの美貌の持ち主で仲間であろうとスターに敵対するものは殺す。

それが冷徹なジャドウの行動理念なのだ。


ヨハネスの返り血を指を鳴らして洗い流しその場を去ろうとしたジャドウだが頬に強烈な一撃を受け、吹っ飛ばされてしまう。全身が痺れるほどの打撃力。どうにか上半身を起こしてジャドウが目の当たりにしたのは茶色のショートヘアが特徴の美少年だった。

背中には一対の天使の翼を生やしている。


「貴様は、星野……!」

「その通り。僕は星野天使ほしのてんし。その名の通り天使です。

それ以外の何者でもありません。

あなたの振る舞い、同じスター流……いえ。天使族として許せません」

「何を言い出すかと思えば笑止千万。吾輩は半分しか天使の血は流れておらぬ」

「半分は天使です」

「どうやら強引な理屈をつけてでも吾輩と戦いたいらしいが、いかに珍しいこととはいえ、吾輩も暇ではないのでな。失敬させていただこう」


優雅に紳士的に一礼すると、星野は無言で接近し右フックを浴びせてきた。

再び吹き飛ばされるジャドウ。


吐血し息を整える。老体に星野のパンチは極めて効果的だった。

星野は無機質な淡々とした声質で言った。


「逃げたら僕はあなたをどこまでも追いかけます」

「どうやらまたひとり冥府の生贄になりたいもの好きがいるようだ……」

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