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不動仁王は数十万人もの兵士を往生させ、帰還しようとする。

小国は隣の大国に戦争を仕掛けられ、圧倒的に不利な状況になった。


武器も兵力も全てが三十倍以上も差があり、このまま蹂躙されるのは目に見えていた。


女子供老人は敵国の騎士に容赦なく殺されてしまうだろう。


愛する者を守ろうと僅かな兵士達は立ち上がろうとするが、敵国は数十万の大軍を仕掛けて容赦なく叩き潰そうとする。


刹那、ひとりの男が天より舞い降りた。


弱小国の兵士達の先頭に降りた男は深く低い声で言った。


「ここは俺に任せろ。お前達は城で見物するがいい」


男の一声に小国の兵士達は無言で男に任せてみることにした。


背中まで伸びた長い長髪。端正ながらも凶悪無比に見える顔立ち。その原因は男の目にあった。


猛禽類の如く鋭く威圧的で見たものを恐怖で硬直させるほどの凄まじい眼力を放っているのだ。


極限まで鍛え上げられた筋骨隆々の上半身を晒し迷彩色のズボンを穿いている。


身長一九八センチ、体重一四〇キロ。威風堂々とした体躯の漢。


スター流の鬼神、不動仁王ふどうにおうだ。


彼は鋭い瞳孔で遥か先の兵士達を見て片頬を上げると、歩を進めた。


百万人近い兵士が相手でも一切の恐怖はない。


「弱者を踏みにじるガキ共は俺が全て往生させてやるッ」


不動は宣言し、兵士達に向かって突撃を開始した。


無数の槍、火矢、投石、砲弾、銃弾が撃ち込まれたが不動はそれら全てを受けても傷一つない。


人知を超えた頑丈さを発揮しながら赤子の手を捻るように兵士達を往生させていく。


銀の鎧も不動の素手の前では紙も同然だった。


次々に頭を潰され身体を貫かれ屍の山を築き上げていく。


業を煮やした敵国の皇帝は魔導士の軍団を派遣し、一斉魔法攻撃を行った。


箒に乗った魔法使いや魔女達が上空から太く緑色の魔法光線を放つと不動は好戦的に笑い。


「ガキ共に見せてやろう。俺の十八番を!」


不動が真上に向かって放ったパンチの拳圧で全ての魔法攻撃は相殺され、魔女達の身体や箒はその威力に耐えきれず消滅していく。


続いて地に拳を打ち込めば地割れが発生し、馬に乗っていた兵士達は深い地に飲み込まれ消えていく。


不動は彼らの最期を一瞥し、滑空すると海辺に降り立った。


海では戦艦が大砲を構えている。


撃ち込まれる砲弾を蹴りや手刀で軌道を曲げて不発に終わらせた不動は海中に潜って船底から十二万トンはある船を野球ボールのように持ち上げて隣の戦艦へと落としたり、遠方に投げて爆発させていった。


腕を大きく引いて拳を放てば衝撃で海が割れて地面が顔を出す。


海を泳ぐよりも歩いて行った方が早く着くと考えたのだ。


単騎で強国へ乗り込んだ不動は空から奇襲を仕掛ける鳥人軍団を地面に叩き伏せ、大鎌を振るうカボチャ怪人軍団を裏拳一発で塵にして、通常の打撃が通じないはずのスライムと単なる拳や蹴りだけで再生不可能なほど破壊してしまう。


金棒を振るう鬼達も鬼神の前では分が悪すぎた。赤い腕を掴まれ背負い投げで絶命される。


背骨折りで切断され、踵落としで身体を真っ二つに裂かれてしまう。


遂に皇帝の前へ現れた不動は彼の首根っこを掴んで言った。


「戦争をやめて往生されるか、今すぐこの場で往生されるか選べ」


どちらを選んでも死は変わらない。理不尽な選択だ。


皇帝が恐怖で顔面が蒼白になると不動は目を血走らせて告げた。


「思いあがったガキは俺が往生させてやるッ」


皇帝を城の屋根を破壊して青空高くまで放り投げ、上空でバックドロップの体勢に捉えると凄まじい速さで落下していく。


「不動倶利伽羅落としーッ!」


不動の最強必殺技を食らった皇帝は肉体ごと消滅し、落下の威力で国そのものが消滅した。


強大な国がたった一夜にして異世界の神に滅ばされるという現実を目の当たりにし、小国の人々は畏れながらも感謝を口にした。


ある村の老人が涙を流して深々と頭を下げる。


「なんとお礼を申し上げてよいのやらわかりませぬじゃ……」

「礼など要らん。怒りをもって人を救いに導くのが俺の役目だ。ご老人、穏やかな日々を過ごすことだ」


不動は穏やかに笑って空気を殴り異世界と元の世界に繋がる穴を出現させた。


通常の人間やスター流の者にもできないものがいるが、不動にとって別世界を行き来するのは鍵のかかっていないドアを開けるようなもので、空気を殴れば簡単にできた。


異世界人に別れを告げて穴の中に入った途端、不動の全身が異変を感じ取った。


通常はすぐに元の世界に帰還できるはずが時空間の壁に入ってしまった。


拳で亀裂を走らせようにも、いくら殴っても反応がない。


自分に対しこのような芸当ができるのは全宇宙にひとりだけ。


不動は鬼のような形相で吠えた。


「スター! 俺を罠にかけたな! ここから出せ! 地球のガキ共の平和は俺が守る!」


ドンドンと壁を叩き叫び続ける不動の姿をテレビ画面で見たスターは朗らかに笑って。


「不動君。少しの間だけおとなしくしておいてくれたまえ」


不動仁王はスター流屈指の強豪である。


鬼の父と天使の母の間に生まれ、幼少期に幼馴染を守ってやれなかった苦い過去が影を落とし荒れた暮らしをしていたがスターに見込まれ三番目の弟子となった。


スター流に入門してからは元来の戦闘力を極限にまで高めることに成功しカイザーに勝るとも劣らない実力をつけた。


ストイックな性格で厳格のため、初対面の印象こそ悪く思われがちだが、根は熱く心優しい。


自分が認めぬ他者を「ガキ」と見下す尊大な面こそあれど、自らを超える存在になってほしいと願う彼なりの期待の表れである。


少しでも自分を超えたと判断すればすぐに名前を呼んでくれるため、名前を呼ばれるか否かが相手の実力を測るポイントのひとつになっている。


そんな不動をスターは気に入っていた。己の正義に真っすぐで師匠相手でも不遜な態度を崩さない。


しかし、今回に限っては彼に首を突っ込まれると面倒だと危惧し、ジャドウの提言もあり異空間へと幽閉したのだ。


豊かな金髪に宝石のように輝く碧眼が特徴的な三つ揃えスーツを着こなした紳士、彼の師匠でありスター流の創設者スター=アーナツメルツは激辛のカレーライスを口にして微笑した。


【不動仁王 異空間に幽閉】

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