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李は全ての力を出して奮戦し、カイザーへの想いを叫ぶ!

スライムは李の放つ掌底の嵐を全て食らい続けている。


有効打になりはしないかと夢中で攻撃を繰り出すがスライムの水色の身体はプニプニとした弾力で無効化するだけだ。先ほどから同じ攻防が続いている。


ある意味でこのスライムは受けの美学を体現していた。


下等な生物の攻撃など自分には通じないという有能アピールだ。李は掌底をやめて一旦手を下す。


それから数回深呼吸をしてからグルグルパンチで猛然と向かっていった。


塔の上から彼らの戦いを見守っていた中世の騎士の甲冑を着込んだ兵士は、李があまりの力の差に絶望して正気を失ったのかと判断した。


実際グルグルパンチというものは頭を押さえてしまえば意味のない打撃にしかならない。


それをスライムもわかっており、掌で李の小さな頭を押さえてニヤリと笑った。


だが、拳を固めていた李が開掌をしたかと思うと、それは手刀へと変化する。


猛烈に回転する丸鋸と化した両腕による斬撃はスライムの肉体を少しずつ削っていくではないか。


急な変化に対応できず切り傷を負ったスライムだが、ここにきて初めて跳躍して恐るべき丸鋸から回避行動を選択。


宙へ舞ったスライムを追いかけるように、橋を蹴って飛び上がった李は服の袖からヌンチャクを取り出し、スライムの慣れない空中戦を展開。


足先から炎を放つことである程度浮遊時間を伸ばすことができる。


短い棍を鎖で繋いだ形状を持つ武器は李が高速で振るうことにより遠心力が加えられ、単なる打撃以上の破壊力を有していた。


おまけに未知の武器であるためか軌道が読みづらく、スライムは滅多打ちにされてしまう。


地面に落下したときは身体に幾つもの凹みができていた。スライムは目を吊り上げ、憤怒の形相で身体を再生する。しかし動きが止まった。


李はスライムの動きが鈍った瞬間を見逃さなかった。体力の消耗が起きているのだ。


能力は強大であればあるほど能力の消耗が激しい。


能力頼りの戦闘では一辺倒になり体力が尽きた際に不利になるということで、スター流は格闘技術の強化を優先させている。


彼らは能力と格闘を組み合わせることで独特の戦闘形体を確立するに至った。


体力消耗は李も例外ではないが、それはスライムも同様ではないかと考えた。


度重なる身体変化は確実にスライム自身の体力を削っていた。


これまでの攻撃は決して無駄ではなかったのだ。最後の好機。


次の技に全身全霊をかけなければ敵は倒せない。自分が失敗すれば敵は容赦なく城へ侵入し大勢の人が犠牲になるだろう。もう人を失うのはゴメンだと李は思った。


彼女は数百年前、暗黒星団というスター流の敵組織により家族を皆殺しにされたことで復讐のためにスター流の門を叩いた。


当時は女性の入門とメンバー間の両想いは禁じられていたが、男装をするという条件で受け入れられて入門した。


男装が解かれたのは最近だったが、中性的な容貌だったこともあり美琴に一目惚れされるというアクシデントが起きたこともある。


流派の中では比較的古参にあたるメンバーなだけに様々な戦闘を体験してきて、命を落としたことも、記憶を失い敵のコントロール下にあったこともあった。


様々な思い出が走馬灯のように李の脳を短い時間に駆け巡る。


彼女の脳にとりわけ強く印象に残っているのは、カイザーとの思い出だ。


筋骨隆々で常に白いコックコートに身を包み最前線で戦うカイザーの姿に李は強く惹かれた。寡黙ながら慈愛に溢れ、敵に対しても愛を説き慈悲を与える。


情け容赦のない自分とは対極に位置すると李は思い、ずっと彼を憧れ続けた。


憧れが恋に変化したと気づいたときはいつだったのか思い出せないが、李は密かな片思いを続けてきた。両想いは禁じられていたが片思いは認められていたのだ。


そして、つい近頃、美琴が鉄の掟の撤廃を申し出、受け入れられた。


数億年にわたる禁が解かれたのだ。


経緯はどうあれ、これでやっと想いを伝えることができる。嬉しかった。


喜びいさんでカイザーの元へ向かい、彼に声をかけた途端に今回の事態が起きた。


また、告白できなかった。いつもこうだ。


告白しようとすると邪魔が入る。


「恋の神様はボクが嫌いなのかもね……」


皮肉を言って全身に闘気をみなぎらせる。カイザーは太陽と同じ温度になれる。


太陽超人とも言える異能を持っている。彼が能力を発動すれば敵は蒸発し地上は廃墟と化す。


宇宙規模の戦闘でもない限り、決して地上では本気で能力を使ってはならないとスターにより枷がかけられているほどの力。発動よりも調整に繊細な力加減が求められるバカげた力。


一方の李は炎を操る能力だ。太陽とは比較にすらならない。しかも火炎放射器の台頭で能力自体がそこまで強力なものとはみなされなくなった。


体力を消耗する能力と指先ひとつで同威力の炎を噴出できる火炎放射器。


性能の優劣は歴然だった。しかし、李は敵を見据える。


だからこそ証明しなければならない。決して火炎放射器にはできない芸当を。


少しでいい、一歩だけでもいい。カイザーに近づきたい。大好きな人に認められたい。


今がそのチャンスなのかもしれないと気を入れ直し、大きく足を引いて構える。


パッと李は飛び出した。スライムは右腕を突き出すと槍状にして貫かんとするが、左胸を貫かれ背面をスライムの槍が貫いてもなお、李の前進は止まらない。今の李の覚悟は違う。


満身創痍の相手に勝利を確信したダメ押しの気の抜けた攻撃と命がけの玉砕攻撃。


信念の差は肉体と精神に強く影響する。黒い中華風の衣装が血で赤く染まっていく中、スライムの鳩尾に渾身の膝蹴りを食らわせ、更に顎を蹴り上げて上空へ飛ばす。思い切り橋を蹴って跳躍。


スライムの腹につま先を当てる鋭い蹴りで更に彼の身体を舞い上がらせる。


城が豆粒のように見え白い雲がかかる場所まで到達した李はスライムに両腕と両足を絡ませて抱きつき、自らの身体を引火させる。業火がスライムと李の身体を焼いていく。


「スター流奥義! 鳳凰火炎弾ーッ!」


錐もみ回転をしながら凄まじい勢いで落下していく。目指す先は渓谷だ。


落ちながら李は最期の言葉を叫んだ。


「カイザーさん! ボクはずっといつまでもあなたのことを愛しています! あなたのことが大好きです!」


渓谷が迫ってくる李の目からポロポロと涙が溢れた。


「やっと、言えた……」


異世界からの言葉が届くかはわからない。だが彼女は数百年抱き続けた思いを叫んだ。


その直後、渓谷の遥か下から爆発音と黒煙が轟いた。


激闘をポップコーンを食べながら観戦していたスターは手を叩いて歓喜した。


「素晴らしい! 素晴らしいよ、李ちゃん。まさか相打ちにまで持ち込むとは……わたしは負けると予想していたのだが、結果は外れてしまった。だが、ありがとう。おかげでカイザー君がどれほどわたしにとって危険な存在か再認識させられたよ。さて、次は誰がわたしを楽しませてくれるかな?」


【李 脱落】

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