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仲間の知恵を借りて逆転の手を打つロディと第二の刺客の登場

啖呵を切って格闘の構えを見せ戦闘続行を示すと、鬼の棍棒が右から迫ってきた。


跳躍しようとしたが間に合わず、肋骨に強烈な一撃をもらってしまった。並の人間なら即死だろう。


しかしロディは幸か不幸か超人キャンディーの効力により身体機能を強化されていたので、何本か肋骨が折れる程度で済んだ。口から吐血し片膝をつく。


鬼は瞳孔のない黄色い目で見下しているが追撃を行わない様子から完全に嘗められているとロディは察した。


確かに体格も劣り武器もなく負傷しているのならば見下されても不思議ではない。


しかし何一つ有効打を与えられていない現実と鬼の態度がロディの心に火をつけた。歯を食いしばってダウンを拒否。再び立ち上がると高らかに笑い出した。自らの頑丈さをアピールしているのだ。


「全然効かねぇなあ。お前の攻撃なんざ不動のパンチに比べりゃ屁でもねぇ!」


言葉が通じたかはわからないが精一杯の虚勢だった。しかし、ロディの本音でもあった。


あの鬼神がいたらこの程度の鬼などワンパンチで跡形もなく消滅させてしまうだろう。


正真正銘の化け物。スター流の上位陣は文字通り神であり、強さの次元が違う。


彼らにとってロディなど足元にも及ばないだろう。


けれど強さではなく誇り高い正義の心を彼らは尊重し仲間だと認めてくれていた。


過度に慣れあうわけではないし、特にジャドウとは犬猿の仲だ。ロディの脳裏に白髭で鶏ガラのように痩せた老紳士の狡猾な笑みが浮かぶ。ここで負けたら俺は一生アイツに嘲笑される。


誰に馬鹿にされても構わねぇがあいつだけはごめんだ。憎き相手を思い浮かべ口を歪めた。


と、再び負傷箇所を狙って棍棒が迫りくる。


敵のウィークポイントを狙うのは戦いの定石だと、素手戦闘は素人のロディも知っていた。


「そう来ると思ったぜ!」


ギリギリまで引き付けてから上体を反らして回避、棍棒が巻き起こした風がロディの鼻先を掠める。


空振りしたことでほんの一瞬だが鬼に隙が生まれた。そこを突いて彼は棍棒を握りしめている右手に飛び蹴りを打ち込んだ。


完全な不意打ちで筋肉が弛緩しているときを狙われたので痛烈な一撃となり、思わず棍棒を手から落としてしまう。右手の甲を左手で抑え、呻く。再びあの棍棒を掴まれたら勝ち目がない。


次へ攻撃を繋げないと。こんなとき、仲間ならどうするか。


自分ひとりではこの状況を乗り越えることはできない。だからこそ仲間と交わした会話や戦闘から知恵を借りる。真っ先に頭に出てきたのは闇野美琴だった。


任務の関係上、スター流本部に足を運んでも留守のことが多かったが美琴は違った。


食堂で顔を合わせては、ロディはハンバーガー、美琴はライスボール日本でいうおにぎりを頬張り雑談に花を咲かせたものだ。あの別嬪べっぴんの姉ちゃんならどうするか。


確か美琴ちゃんは柔の動きが得意だった。平和が大好きで争いは好まない。


だから戦闘は後手に回る。


自分から攻撃を仕掛ける機会はほぼない。だったらこの場合も彼女に倣って――


ロディは深呼吸をして酸素を身体の隅々にまで行きわたらせて体力を回復させる。無駄に動き回って体力を消耗するのではなく、じっくりと相手の出方を伺う。


「ウガアアアアアアアアッ!」


鬼は鋭い犬歯を覗かせ咆哮すると渾身の力で棍棒を振り上げた。大振り。故に隙も大きい。


ロディは突進してきた鬼の勢いを利用して足首にスライディングキックを慣行。


尖った靴先が足にめり込み激痛で鬼はついに倒れた。うつ伏せになったところでロディは自らのブーツを外して中をひっくり返す。中からは細い縄が出てきた。非常時に隠し持っていた縄だ。


投げ縄で鬼の太い首にはめて渾身の力で引っ張る。右手から血が流れ落ちるがかまってはいられない。全体重をかけて絞める。ところが鬼も立ち上がって首を振って抵抗し始めた。


体格差があるので振り回されるロディだが離してなるものかと縄を引っ張る。しかし、力を入れすぎたのが災いして縄は切れてしまった。


絞めつけられた喉が緩み、気管へ大量の酸素を送り込んで鬼は元気を取り戻した。喉には絞め跡がついたが、それだけだ。鬼は余裕で立ち上がろうとして足首が縄で強固に縛られているのを知った。


ロディは鬼の眼前で笑った。


「縄は二つあったんだよ。左右でな」


最初の縄は囮でふたつ目こそが本命だったのだ。鬼に地を這わせることには成功したが、いつまでもつかわからない。足の自由こそ失ったが両腕は健在だ。


鬼は憤怒の形相でロディを掴もうとするも、手の甲を両足で踏まれてしまう。


先ほど痛めつけられた箇所だけに苦悶に顔を歪めて唸る。ロディは最後の力を振り絞って鬼の背後へ回り、両足を捉えて絞り上げる。


うまく出来たか自信はないが彼なりに関節技を仕掛けているのだ。


逆エビ固め風に両足と腰を反らされ、鬼は絶叫し続け、やがてがっくりと意識を失った。


勝ったのだ。両肩で息をして流れ出る汗に任せる。疲労は限界に達して両膝から崩れてしまったが、辛勝には違いない。


ロディは口元を弱く緩ませた。ロディの頭にあったのは美琴の戦闘法だった。

相手の力を利用して勝つ。そして、いつもの自分なら犯罪者の命を奪うこともやむを得ないと判断するが、美琴は違う。相手の自由を奪った時点で勝利は決まっている。命を絶つのは避ける。


これなら美琴もロディを祝福してくれるに違いない。


勝利の余韻に浸り、周囲への警戒をつい怠ってしまった。


何か来ると思った時には遅く、激痛が走る。胸に触れてみると真っ赤な血が付着していた。


霞む目の先にカボチャ頭に緑の衣装を身にまとった針金のように華奢な身体、身の丈ほどのある大鎌を獲物にしたモンスターが立っていた。


「テメェはカボチャお化けだな」

「ケケケケケケケッ」


奇声を発して満面の笑顔を向ける化け物に抵抗するだけの力はロディには残されていない。


両手足を放り投げて天を見上げる。青い空に彼と親しくしていた美琴と川村の顔が浮かぶ。


「すまねぇ。俺はここまでみてぇだ。いつまでも半人前かもしれねぇが、せめて今日だけは、合格点が欲しい、ぜ……」


ロディは一度だけ吐血すると首を垂らし目を閉じた。それから彼の身体が光の粒子となっていく。


スターにより元の世界へと転送されるのだ。


スター流本部の会長室に設置された大画面のテレビでロディの激闘を観察していたスターはグラスに注がれたトマトジュースをひと口飲んだ。


テレビ画面にロディ 脱落の文字が表示される。


皿に盛られたポテトチップスを一枚摘まんでから、スターは独り言を呟いた。


「最初の脱落者はロディ君か。熱い良い試合だったよ。さあ、次は誰の出番かな?」


【ロディ 脱落】

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