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いきなり転移させられたロディはゴブリン相手に拳銃で戦う

太陽が照り付ける灼熱の砂漠の真ん中にひとりの若い男が立っている。身長は一八〇センチ。


薄茶色のテンガロンハットをかぶり、赤いスカーフを首に巻いている。


水色のウエスタンシャツの上から薄茶色のウエスタンジャケットに紺色のジーンズを穿き、黒いウエスタンブーツを着用している。腰のガンベルトには二挺拳銃を装備している。


癖のある金髪を風になびかせ、青く輝く瞳は砂漠に生えるサボテンを見据えている。


彼はロディと呼ばれている。


本名ではない。


孤児として育ち、西部開拓時代のアメリカで銃の腕を磨いて無敵のガンマンとして名を馳せた。


その腕を見込まれて、スター=アーナツメルツにスカウトされた経緯を持つ。


アメリカで銀行強盗を愛馬との連携で追い詰め、捕縛したところでスターの突然の提案で異世界へと飛ばされてしまった。


愛馬と離れ右も左もわからぬ異世界へ送られたのは不満だったが、実力を示せば元の世界に帰れるという。ロディは帽子のつばを持ち上げて口角を上げた。


地中から緑色や赤色をした表皮に黒い小さな角を生やした鬼が出現し、円を囲むようにロディに接近する。


ロディは目にも止まらぬ速さで腰の銃を引き抜き、鬼の額に銃弾を撃ち込む。


額から鮮血を飛ばし倒れた鬼は塵となって飛散する。


鋭い爪をはやして襲いかかるゴブリンの群れを百発百中の銃の腕で次々に仕留めていった。


「スターさんよぉ。そういうことなら相手になってやるぜ。ヒーハー!」


どのような危機的状況でも陽気さを忘れずに戦い抜くロディは、口笛を吹いて余裕で倒し切り、砂漠の砂を払い落とす。


と、背後からの殺気を覚え一発放ったところに立っていたのは先ほどのゴブリンよりも遥かに巨大な鬼、異世界ではオーガと呼ばれる存在だった。


巨大な棍棒を持ち、赤い皮膚、筋肉の山のような巨体に頭の頂点には一本の角が生えている。


「なるほどな。お前さんが俺の相手ってわけかい?」

「グルアアアアアアッ!」


鬼はリンのように目を光らせ棍棒を振るうがロディは寸前で後退して回避。砂地に凹みができる恐るべき威力だ。


当たったら頭蓋骨が砕けるだろう。


ロディは銃口を向けて引き金を引いたがカチカチという空しい音が響くばかり。


引きつった笑みに脂汗が浮かぶ。


「ヤベェ。こんなときに弾切れかよ」


ロディは猪突猛進な性格で考えるより行動が先にくる。


アメリカで凶悪犯を追跡する際も愛馬で街中を突っ走り住人の迷惑も考えずに威嚇の発砲をすることも日常茶判事で、犯人よりもずっと街へ損害を与えている規模が大きい。


全ては悪人を捕らえ街に平和をもたらすため。それ以外に考えはない。

単純だが正義感は誰よりも熱い。しかし、それがオーガの戦闘では裏目に出た。


残弾数も考えずに突兵クラスのゴブリンを相手に銃撃するものだから貴重な弾を無駄遣いしてしまったのである。否、ロディの性格を見越してスターがそうなるように仕向けたかもしれない。


真相はスターのみが知るが、ロディは窮地に追い込まれた。


主力武器である二挺拳銃が使えない今では丸腰で戦うしか道がない。


再度、鬼が棍棒を振るったので屈んで回避したが、返す刀で二撃目が迫ってきた。


青い目を見開き、回避。


寸前で躱すことに成功したが正に紙一重だった。鬼は無軌道に棍棒を振り回し続ける。

どれほどの怪力があれば巨大な鉄の塊である棍棒を自在に扱うことができるのか。


ロディには見当もつかなかったがひとつだけ言えることは、この鬼の力が桁違いということと、これまでの攻防で全く疲労していないことだけだ。


普通、あれだけ重いものを武器にすれば汗だくになっても不思議ではないのに、鬼は汗ひとつかかずに軽々と振るっている。


ロディの脳裏に日本の諺『鬼に金棒』が浮かんできた。


目の前の鬼こそ諺を忠実に再現しているではないか。


回避し続けながら滅多に使わぬ頭を働かせ逆境を跳ね返したかった。


西部の若い男は舌打ちをして鬼を睨んだ。考えたところでラチがあかねぇ。だったら何も考えずにタイマンした方がシンプルで俺らしい。


腕を大きく引いて、鬼が棍棒を振るってきたところに合わせて自らも拳を放つ。


金属と拳の衝突。初めてロディは攻撃に出たのだ。


ロディの固めた拳から鮮血が噴き出し、握った拳が潰された。


彼は他のスター流のメンバーとは異なり、生まれた時から超人ではない。


スターに見込まれ犯人を検挙して実績を上げ、過酷な修行を免除されて、流派の卒業資格である超人キャンディーを与えられた。


このキャンディーは食べたものに特殊能力と不老長寿を与える飴玉でスターが発明した。


通常ならば食べたものに異能を与えるはずがロディが食べたものはハズレだったらしく、多少の肉体強化能力と不老長寿以外は目立った力を授けてはくれなかった。


キャンディーはひとりにつき一個しか支給されないので、この時点でロディの運命は決まった。


銃の扱いに長けただけの人間。それがロディに与えられたスター流でのポジションだった。


流派は素手を主力武器として研鑽するため武器使いは重宝される。


しかし時代が流れ歴史の中で新たな拳銃が開発されていくようになりロディの使用する銃は超骨董品の価値しかつけられなかった。時代に取り残され続けるガンマン。


不老長寿を与えられたので、同じガンマン仲間もこの世にはいない。


結果、化石のように生き続けた。


燻っていた時代もあったが屈せずに正義を貫き続け、徐々に生き方も受け入れて貰えているようになった矢先、スターの気まぐれで異世界へと転移されたのだ。


「全く。時間を司る神様ってのは何でもありだね」


思わず形式上の師に毒づくが、ポタポタと鮮血が流れ黄色い砂地を朱に染めていく。


鬼の金棒にはロディに血がベッタリと付着しており、悲しいかな、欠片さえも砕けていない。


「さて、こっからどうするかねぇ」


拳は砕けた。拳銃は使えない。


援軍を期待しようにも仲間からの念は来ないし、こちらからも念を送ることもできない。


完全な孤軍奮闘だ。


もしかすると仲間が助けに来てくれるのでは? という微かな期待も戦闘序盤にはあったが今では絶たれた。


否、仲間を頼りにしているようではいつまで経っても半人前だ。


鬼の背後に微かに見えるのは森か街か。


ここからそう遠くない場所に異世界の住人が住んでいるとすれば、俺がここで負ければ住人達が被害に遭う可能性が高い。どれほど残虐で惨いことをされるか想像がつく。


咆哮を上げて棍棒を振るいまくる鬼に情などあるはずがないのだ。


ロディはニイッと片頬を上げて笑った。


つまり俺が最後の防波堤。俺が負けたらその背で多くの悲しむ人がいる。


それならばたとえ敵がどれほど強くても心が折れるわけにはいかない。


拳が折れても心は折れず。


「負けられねぇな……俺は西部開拓時代の正義の保安官ロディだ! ここから先は一歩もいかせねぇぜ、鬼さんよ」

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