デジタルアート研究社の独白(短編小説 お題:「静かなる反乱」)
2153年 11月27日に公開されました:
ついにやったぞ! 最後のひとつを手に入れた。
喜びのあまり事情の説明が後回しになってすまない。
私はあるアーティストの研究をしているものだ。
そのアーティストは21世紀に活躍した。都市ひとつをデジタルアートとして表現する作風で知られている。ただ3Dモデルがあるというだけではない。鑑賞者が仮想空間上のカメラを動かすと、それにあわせて最も美しい形に姿を変えるのだ。
西から見れば日の出、東から見れば夕日。遠くから見れば都市の建築美を味える。逆に、拡大していけばひとつひとつの部屋までもが芸術的な配置となっている。
まさに一生楽しむことができるアートだ。
彼が生前、最後に発表した作品はその技術と様式の究極系ともいえる作品だった。そのデジタルアートは128点の連作だった。同じ都市の128年間の姿を、1年ごとに製作したのだ。作品には個別にトークンが設定され、すべてが唯一だった。複製することはできず、取引されればその記録も作品内に保存される。
つまり、128の連作にひとつとして同じものがないのに、それぞれを所持できるのは世界でひとりだけだった!
連作はオンラインで取引が行われ、目がくらむほどの高値がついた。その後もたびたび売買が行われ、値は上がり続けた。
2082年には、連作のうち《1番》が史上最高額で取引されたアート作品として記録されていた。ところが、翌年に《128番》がその記録を塗り替えた。そのどちらも、買いとったのはS氏という大富豪だった。
話はここからだ。さらに翌年、S氏は驚くべき情報を発表した。連作に設定された個別トークンに一定の法則性が見られるというのだ。S氏の言葉を借りれば、「この連作には巨大な暗号が仕込まれている」。
1番と128番のトークンを合わせることで、暗号の一部が浮かび上がるというのだ。これによって、また連作の取引価格は跳ね上がった。
そして、幾人かの所持者が複数のトークンを照らし合わせることで、暗号の一部が解読できることを確認した。
そのころ、すでにアーティストは他界している。財産の管理を任されていた彼の妻も世を去り、事情を知るものはひとりもいなかった。
暗号の正体はアーティストが残した財産を示したメッセージだという噂がまことしやかに流れた。とある銀行のオンライン口座にキーを打ち込めば、彼の遺産が手に入るというのだ。
連作を手に入れていた大富豪たちは、共同で研究チームを立ち上げた。
研究チームの責任者に選ばれたのは、私の師である。私は彼からプロジェクトを引き継いだのだ。そして人生の大半をささげることになった。
トークンの解読には、少なくとも全体の半分を手に入れる必要があった。半分までわかれば、残りは高度な人工知能で推測ができる。
だが、悪いことに研究チームはわれわれだけではなかった。各国で同じようなプロジェクトが発足されたのだ。その数は徐々に減っていったが、最終的には三機関にまで絞られた。解読には半分が必要なのに、機関は三つ……当然ながら、どのチームも決定的な解読ができないまま時間が流れていった。
私は粘り強い交渉を続けた。個人所有されていたデータも数多くあったから、彼らからデータを譲り受けるために様々な手を試した。
時には金にものを言わせ、時には政治的な駆け引きも行った。そしてついに今日、解読に必要な64作のデータを手に入れたのだ。
ようやく終わらせることができる。私は隠し財宝に興味はなかった。
私の目的はアートを取り戻すことだった。いまや、アーティストの名が挙がるときは必ずこの暗号についての話題だった。誰もアートとしての価値に目を向けていなかった。
暗号を解き、それを公表してしまえばこの熱狂も終わる。そうすればようやく、私は彼の芸術性を研究する本来の役目に戻ることができる。
ああ、ここまで書いたところで、人工知能が解析を終えたようだ。技術は彼が生きていたころよりはるかに進歩している。データがそろってしまえば、解読には数分もかからない。
暗号から導き出される暗号、さらにそこから算出できる暗号……それらが自動的に解析されていくのを、ただ眺めているだけでよかった。
長く複雑な計算を終えて、1世紀に及んで世界を騒がせた暗号が解かれていく。解析された最初の文字は「W」だ。二文字目が表示されるまでがやけに長く感じた。だが、実際には30秒ほどで全文が表示された。
解析された秘密のメッセージの全文は、こうだ。
『私の妻は、いくつもの商店からもっとも安い卵を選ぶ買い物上手だ』
世紀の暗号文の答えは、どうやら隠し口座のキーではなさそうだった。
アーティストは作品の価格高騰を予測し、批判したのだろうか。それとも、最後の作品を妻にささげたのか。あるいは、単なる遊び心か。どう受け止めるかは、ここではまだ判断しないことにしよう。
それでは、私は本当の研究を始めることにする。
2000文字の掌編作品を書くため、ChatGPTにお題を出してもらって書いた作品です。