第七話
それから僕たちはとりあえず歩いてみている。道中、敵と遭遇した時のことについて打ち合わせをする。
とりあえず折原さんに初手に魔法を放ってもらって失敗したら二人でカバーするという簡素なものではあるが。
「あ、そうだ。今のうちに魔力矢<<マジックアロー>>の試し打ちして感触を確かめた方がいいんじゃないかな?」
折原さんは魔力矢に炎と氷の魔力を込めることができるみたいだとさっき聞いた。
でもまだ打ったことはなさそうだったので一発くらい打ってみたほうが敵と会った時ちょっとでも落ち着いて対処できるかもしれない。
折原さんも意図を汲んでくれたのか、
『うん!そうだね!打ってみるよ!』
といって壁に向かって魔力矢を打った。炎と氷の矢を一発ずつ。
「浩太君!すごいね!!ほんとに私魔法が使えちゃった!」
さっきまでの少し緊張していた表情が和らぎ、はしゃいでいる。魔法を使うのは男の夢みたいなところもある。羨ましくないと言ったら正直嘘になる。
とりあえずなんて返せばいいのか分からなかったから、「お~」と言いながら拍手をしておいた。
炎は威力重視、氷は相手の足とかに当てれば行動阻害なんかもできるだろうか。
そうしてひとしきり魔法の練習も終わり、僕が先頭に立って慎重に歩いていると奴がこっちに来ているのが見えた。
「一つ目がこっちに来てるよ。魔法打ってみて」
小さい声で折原さんにそう言うと
「分かった。やってみるね」
と言っているがやはり彼女の顔がこわばっている。それはそうだろう。僕だって最初は怖かった。
折原さんが「マジックアロー!」と言い終わらないうちに一つしかない目を見開いて奴が走ってくる。
この暗闇では火は目立つか。
しかし奴が袴を着て腕を振って走っている姿はシュールだ。
「えええ!ちょっと!ちょっと待って!」
折原さんが動揺している。照準を定めかねているらしい。何か言葉をかけてあげなきゃ。
「まだ距離に余裕はあるから落ち着いて一回打ってみて」
「う、うん分かった!マジックアロー!」
赤い火を纏った矢は敵の方に一直線に向かっていき着弾。と思いきや奴にかすっただけらしく、まだ走り続けてきている。若干ダメージが入ってはいるだろうか。
「ご、ごめんん!浩太君!」
「大丈夫!余裕があったらもう一発お願いね」
と言うのと同時に自分も敵に向かって走り出す。なるべく折原さんと敵の間に立たないように意識しながら。
正面から戦うのはなんだかんだ言ってあまりやってこなかったが、レベルが2になったんだ。大丈夫、僕ならやれる。
敵が短刀を腰から取り出す。僕と同じ武器か。
「アサルト」
お互いの短刀が交わり合う。自分の方が少し押しているだろうか。
2合目、敵の短刀を弾き、勝ったと思った瞬間奴が左手をこちらに伸ばしてくる。
(まずい!)
奴は右手で持っていた短刀を落とした瞬間、左手にも腰から武器を取り出していた。もしかしてわざとこちらの油断を…?
と思った瞬間、バリンという破砕音とともに奴は態勢を崩した。よく見ると氷が奴に突き刺さっている。
折原さんがやってくれたんだ。なら自分はとどめを…!
特にスキルを使うことも無く敵の首を掻き切る。いつものように奴が粒子となって体に入ってくる。その光は折原さんの元へも。
「へ!?なに!?」
自分も最初はそんな反応だったなと思いつつ
「最初はなんか気持ち悪いよね、それ。」
と折原さんに言うと
「うん、気持ち悪いねこれ」
と言いながら笑っていた。
「とりあえずナイスだったよ、折原さん」
あの氷のマジックアローには助けられた。コンビを組むのもやっぱり戦力的にも悪くないかもしれない。
「ううん!前で浩太君が戦ってくれたおかげだよ!やっぱり強いね!」
屈託なくこちらを褒めてくれてなんかちょっとこそばゆい。今まであんまり褒めてもらった事なんて無かったから。
「とりあえず、水飲む?トランスが手に入っているはずだよ」
「そっか!乾杯しよしよ!喉乾いた~」
といいながらトランスを取り出し、彼女も僕に倣ってホログラムの中に入れる。
「「乾杯!」」
やっぱりぬるくてまずいただの水だ。彼女も絶妙な顔をしている。でも渇きは満たされた。
「もう少し戦う?」と折原さんに問いかけたら、うん!頑張ってみるよ!と言ってくれた。