第六話
すぐさま身構え短剣を取り出して女性と思しき声の方向を向く。
良く見ると杖のようなものを抱えて制服を着た女の人が部屋の隅で体育座りをしている。
花の方に意識がいって全然気がつかなかった。袴も着てないし多分、人間…だよな?
………
………
………
「あの…誰ですか?」
再度怪訝そうに問われる。な、なんて返そう。
「あ、あの一応、人間です」
なんでこの答え方をしてしまったんだ…急な事で頭が回らない。
いや、回ってても人間と喋るのは苦手だけど。女性となら尚更だ。
「なんですか、それ」
と言いながら彼女はふふっと笑う。
でもまだ警戒は解けていないらしく体操座りしたままこちらに杖を向けてきているのが見える。
こちらも短剣向けておいてなんだけど。折角出会えた死体では無い人間だし、協力できるならしたいけど…
短剣をしまって攻撃の意思が無いことを示しつつ
「あの、すみません、えっと、ここから出て行った方がいいでしょうか…?」
となんとか問いかける。
……
間を置いて
「ここってどこなんですか?」
という返事が返ってくる。
全然自分の問いに対する答えにはなっていないが、恐らく会話から危険な人間かそうで無いか測ろうとしているのだろうか。
「えっと、ここがどこなのかはよく分からないです…大きい塔が見えて、一番近い塔に来てみたらこうなっていて…」
「えっ一緒だ!誰も見えないって言うんだもん、凄い気になって私も来ちゃったの。」
「あっそれ僕もです」
「そうなんだ!やっぱり…。そうだ、一つ目の男の人に追いかけられなかった?」
「追いかけられました、なんとか何人か倒せましたけど…」
「え!すごい!強いんだね!私は怖くてなんとか逃げて気が付いたらこの花見つけてずっとここにいたんだ…
そういえば、名前聞いてもいい…?』
「灰本、浩太です…そちらは…?」
「浩太くんね!私は折原美里、高校二年生!よろしくね」
と言いながら彼女も部屋の奥の隅から花の方に移動してきた。
自分と折原さんが花を通して向かい合うような形になる。
こんな状況だが女性と喋るのなんていつぶりだろうか、中学の時に一回くらいは喋っただろうか。緊張するなんてもんじゃないなこれは。
そういえば折原さんの制服、隣町の結構頭のいい進学校のやつのはずだ。綺麗な紺色のブレザーに、赤の混じった特徴的なチェック柄のスカート。頭、いいんだな。
遠くの火の光に当てられた彼女の顔を見て、整ってるな、と感じた。綺麗な髪が一つ結びで纏められている。
そして色々と話した。
自分も高校二年生な事、同じだね、と微笑んでくれた。
トランスは敵を倒せば手に入れられる事、そして食糧や水に変えられる事。
10人倒せばレベルアップ出来ること、もう自分はしたこと。
10人も倒したんだ!凄いね!と驚いていた。
折原さんの職業は調節系魔術師というものらしいとのこと。ポケットの中のメモとトランスにはすぐ気が付いたこと。
最初にメニュー画面で火炎重視か氷結重視か両方重視か問われて両方を選んだこと。そして今は火と氷の矢を放てること。どうやら氷と火を操れる職業の事を調節系魔術師というらしい。
けど敵に撃つ勇気はまだ無かったこと。僕がメニューもトランスも知らないまま追いかけられてギリギリのところで気がついて転んだけど隠密を使って逃げ切ったエピソードを話したらびっくりしていた。
あと浩太君本当に影薄いんだね!いきなりいた時びっくりしたんだから!と言っていた。
話は変わって僕は学校では友達が全くいないこと、なんなら同年代の人と喋るのも凄い久しぶりなこと。
折原さんも明るくて凄いコミュニケーションを取るのが上手に見えるのに高校の人間関係はあんまり上手くいってないらしい。勉強もなかなかついていけず悩んでいるのだとか。
父親を亡くしていて貧乏だから国立に行かなきゃなのに!と言っていた。
住んでるところが思ったより近かった事。叶えたい願い。働きたくないからお金が欲しいと言ったらなんか浩太くんらしいねと笑ってくれた。
本当に色々話した。最初は折原さんの言葉の語尾に微かな震えを感じたけど時間が経つにつれ自然に話してくれるようになった。
そして僕の拙く下手くそな話しを相槌を打ちながら丁寧に聞いてくれた。
途中折原さんのお腹がぐぅとなっていて恥ずかしそうにしてたので僕のトランスを食料に変えて渡した。
「ありがとう!けどまずいねー!」
と笑いながら食べていたけどどうやらお腹はいっぱいになったみたいだった。その笑った顔がとても印象に残った。
結界に表示されている残り時刻が2:55:35を示して仮眠を取る事にした。体感だが結構な夜の時間のはずだ。たくさん話したな。
初めて会った女の子と多少距離は離したとはいえ同じ空間で寝るのはドキドキした。
パリン!という音と共に二人とも跳ね起き、結界が割れた音だと認識したが眠すぎたのでもう一本自分のトランスを刺した。
そして花が枯れたりしないことに感謝してまた寝た。
結界の残り時刻が1:05:14を示した時起きた。どうやら僕が後に起きたみたいだ。
後ろで一つ結びにした髪をいつのまにか解いた折原さんが足を伸ばして座ったままこちらを見ながら、起きたんだね、と微笑んでいる。
恥ずかしくて目を逸らしてしまった。地面で寝たからか痛い部分がところどころある。
奴を倒しに行こう、と言ったら緊張した顔でそうだね!と言っていた。
僕が守ってみせるから、なんていう漢気のある台詞を吐けるような男になりたかったもんだ。
メニューを開いたまま折原さんを見たらパーティー申請可能と表示されていたので、パーティー組みませんか?と言ったら、
『いいよ!チームになるってことだよね?』
とすぐに返事をくれた。信用してもらえたのかな、そうなら嬉しいな。