第五話
この《隠密》というスキル、結構強いのでは無いだろうか。道路幅は一定しておよそ6〜8メートル、奴らはプログラムされてるかのようにど真ん中を歩く。
光の当たってない壁際、暗闇に紛れれば正面から向かってきても気が付かれない。
ある程度近くなってきたら隠密を使い、奴が横を通り過ぎるのは何回経験しても慣れないが、呼吸を落ち着かせて待つ。
そして背中を向けた瞬間強襲を用いて首を刺す。
一回立て続けに奴が来て強襲を使う技量が無くなってしまったが、気が付かれず背後から倒すことが一応できた。
そしてスキルを使った時と使わない時では体の軽さも、短剣が手に馴染む感じも違った。
同調率はいわば自分が短剣を持った時の動きを最適化してくれるものなのだろうか。
プラス10%の違いはまだよく分からないけどなんか効果は大きいような気がする。
手に入れたトランスは合計5個、結構頑張った。
それにそろそろ休みたい、壁際じゃ気が休まらない、そこら辺の地べたで寝なきゃいけないのだろうか。
自分は22時には寝るタイプだ、もうそろそろ本当なら寝る時間のちょっと前なんじゃないだろうか。
分からないことが本当に多い。もう少し説明が欲しい。。
とりあえずレベルを上げてから動きたい。キリ良く10個EXPに投げるのをまず目標に頑張ろう、と思った矢先また奴が来る、よりによって何故かくしゃみをしてしまった瞬間に。
違う、奴じゃない、目が二つ。遠くから、顔のおでこあたりに上下に揃った双眸がこちらを捉えている、ような気がする。遠くといえど静まり返ったこのフィールドの中音は聞こえていてもおかしくはない。
そして自慢ではないが自分は結構目がいい、いくらゲームをしても目が悪くならない体質らしい。前に学校で視力を測った時2.0という数字だったのを覚えている。
その自慢の目と奴の目が合ったのが分かった。もう今から隠密を使っても遅いだろうか。あれと正面から戦うのは直感だがまずい。
そう思った瞬間にはもう足は奴に背を向けて駆けていた。後ろを向くと奴も走って追ってきている。
あいつに追いつかれたら絶対にまずい。幸いにして距離は結構取れているので十字路を使い複雑になるべく奴が追いにくいように逃げる。
途中また3方向を壁に囲まれた違和感のある綺麗な花が目につく。
(多分撒けたかな。。)
速度のプラス20%の恩恵だろうか、多分本気で逃げれば結構追いつかれない。
速度はやっぱり大事だ、いざという時に物を言うのは耐久じゃない、きっと速度だ。
呼び方に迷うが二つ目がまたこちらにふらふらっと来る可能性もあるので一応離れるようにして慎重に移動する。
道中、こちらに背を向けて楽しげに歩く、さっきの件もあり恐らくだが一つ目を見つけたので今まで通り隠密で近づいて強襲で首を刺し倒した。
数十分ほど歩き狩場にちょうどよさそうな暗がりを見つけ、身を潜める。
じーっとしていると眠くなってくる。
でも寝たら次の瞬間には死んでるかもしれない、だんだん日が昇ってしまったら壁際の今は火の当たらないところにいようと一瞬でバレるに決まっている。
眠い。正面を火の光に当てられた人影が通る。
ドキッとした、だってその人影は紛れもなく袴姿の一つ目だったから。
心臓が冷えた、なんとか口から声を漏れないようにする。
一応バレてはいないみたいだ、もう遅いよな、と思いつつ隠密を使う。こちらに背を向けたので強襲を使い、心臓を狙って体重をかけて刺し倒す。
一瞬で目が覚めた、これは本当に良くない。何かが違っていたら死んでいた、本当に危なかった。
(歩くか。。)
じっとしているよりリスクはあるだろうが寝てしまうよりはマシだ。
一つ目、あるいは二つ目とのエンカウント率は上がるかもしれないけど歩こう。
寝れる場所、ないかな。
短いスパンで奴が来て連戦のような形になってしまった。3人は隠密を駆使して倒せたが、最後の1人とは相対して戦うような感じになってしまったのでとりあえず逃げてきた。
いつも歩いている時は大体平均して20分から30分に一人見かけるかどうかという感じだったのに、畳み掛けるようにくるので焦ったけど、なんとかやり過ごせた。
結構この半日で成長したかな、自分。
メニューを見てみる
暗殺者Lv2 ステータスpt : 0.10 武器スキルpt : 0.05(!) exp:0
メッセージ : 0
耐久:1.05 筋力:1.05 魔力:1.05 速度:1.05(×1.20) 技量:1.05
職業スキル: 隠密1.05
武器: 短剣Lv.1 同調率: 1%
武器スキル: 強襲1.00
所持トランス: Lv:1×8
お、レベルが1上がってるな。
それに伴ってステータスと職業スキルに関しては全体的に0.05ずつ上がっている。
レベルが1つ上がると0.05ずつ上がっていくんだろうか、0.05がどの程度効いてくるのかはよく分からない。
しかも小数点以下で数値が動いてくなんて珍しい。。
武器スキルの強襲は1.00のままだがこれは武器スキルptを使わなくてはいけないのだろう。
武器スキルの横についてる(!)をタップすると新スキル獲得可という表記が出る。でも今は新しいスキルより強襲を育てるのが先かな。
速度がもっと上がれば倒せる確実性が増すだろう。筋力が上がるなら尚更だ。
武器スキルの0.05をタップすると強襲の文字が黒色から赤色になり、強襲をタップすると強襲:1.01となる。続けて4回タップし武器スキルptは0になり、強襲は1.05になった。強襲をタップすると
強襲1.05 効果:5秒間の間、筋力・速度を1.15倍 同調率+10% 技量:0.20使用と書かれてある。
同調率は強襲のレベルが上がっても増えないのだろうか。あれ、職業スキルはどうやって増やすのだろうか。
一旦置いておいて、悩むのはステータスptの割り振り方だ。ステータスptをタップすると耐久、筋力、魔力、速度、技量に加えて隠密まで文字が赤くなる。
(え、職業スキルもステータスptで上げるの。。)
これは相当悩む。上げなくてもいいのは多分魔力だけ、他は全部必要だ。
強いて言うなら耐久はいらないかも、耐久が必要な戦いはあまりしたくない。いざとなったら粘って戦うより逃げれる方がいい。それに速度は1.20倍の補正があるから上げれば上げるほどお得だ、0.05振ったら実質0.06振ったと同じ事になる。
よく考えた結果、筋力に0.02、速度に0.06、技量に0.02振る事にした。隠密状態でバレたことは無いし隠密はまだ大丈夫と踏んでの選択だ。
ただこのステータスpt、武器スキルptは相当貴重だ。今後も良く考えて使わないといけないな。
割り振りが終わったのでまた慎重に歩く。折角だし戦ってみたいなという気持ちもちょっとだけあるがこういう時に限って敵が来ないのは何故だろう。
さっきはあんなに来たのに。
と思っていると、またあの綺麗なやけに存在感のある花と出くわす、前みたいに3方向を壁にそこそこ大きく囲まれている。前に2回見たけどどっちも敵に追われてる最中だったんだよな。
ホログラムを通して花を見てみると安全花<<セーフティフラワー>>という表示が出る。ん、安全花…?!
よく見ると花の中央、柱頭と言うんだったっけ、にトランスを差し込むのにちょうどいいくらいの穴が空いている。
ここまであからさまだとあれだろう、やっぱり差し込めばきっといいことがあるんだろう。
8つ余ってることだし1つ差し込んでみよう。
カチャ、という花に相応しく無い機械音と共に結界のような膜が中心から広がり、四方を囲む。同時に4枚の大きな葉っぱが花から広がる。
結界の大きさとしては自分の家の部屋と同じくらい、確か8畳だったっけな、それくらいだ。
元から壁に囲まれていなかった方向を向くと5:59:58と白い文字で大きく表示されている。
これは6時間はここは絶対的な安全スペースって事だろうか、6時間だけでもこの暗い部屋の中で下が地面だろうと緊張を解いて仮眠でもできるなら相当嬉しい。
良かった、眠るスペースは用意されてた。
肩の力を抜き、安心して『ふぅ〜』という声が漏れる。
『へ!?だ、誰ですか?!!』
ビクゥ!