第三話
スキルを使った瞬間、なぜかとても懐かしい感じがした。授業中に空気と同化する感覚。ある程度どうすれば周りから気が付かれないかを感覚的に掴んでいた。それを更に補助してくれる存在なんだな、これは。
暗闇に溶けるように息を潜める。心臓の鼓動を整え、呼吸を浅くする。
一つ目の足音が真後ろで聞こえ、じっとしている僕の横を駆け抜ける。
ギョロッとこっちを見ている気がする、気がつかれたら死ぬ、けど大丈夫、日本で一番影が薄い自信だけはある。
まさかこんな風に役に立つとは夢にも思わなかったけれども。
一つ目が奥の暗闇へと消えたのを確認して緊張が解けた瞬間、どっと恐怖が蘇ってきた。よく考えれば考えるほど近かった死。
今まで人生で間違いなく一番『死』に近かった…
(迂闊に動けないなこれは…)
こんなところでずっと寝っ転がっている訳にもいかないので、隠密を使いながら慎重に安全な場所を探す。
恐らく至る所にあの一つ目がいるのだろう。
そして気になるのは視界右上の3割近くになったピンクのゲージの下にある、減り続けている青いゲージだ。普通に考えると隠密を使っている間MP的なのが減っているのだろうか。
後で色々と確認する必要があるな、と思いつつ歩いていると青いゲージがなくなり隠密の効果が切れたのが感覚的に分かる。
少し立ち止まっていると青いゲージが少しずつ回復していくのが確認できたので、一旦火の灯りが当たらない場所で色々と整理する事にする。一つ目が来ないことを願って。
まずはこのホログラムだよな…『開け』と言うと出てくるこれ。
何回か繰り返してメニューという文言は必要ない事が分かった。なんなら、オープンでもいいらしい。なんかかっこいいからオープンっていうことにしよう。そんな事は置いておいて
ホログラムには
暗殺者Lv1 ステータスpt : 0 武器スキルpt : 0 exp:0
メッセージ : 1
耐久:1.00 筋力:1.00 魔力:1.00
速度:1.00(×1.20) 技量:1.00
職業スキル: 隠密1.00
武器スキル:
所持トランス: Lv:1
food⚫️ drink ⚫️ clean⚫️
と書かれてある。今までそこそこゲーム経験はあるのでステータスptやらスキルptの意味、スキルの存在にはなんとなく馴染みがある。
速度に1.20が掛けられているのは職業の暗殺者による補正だろうか。
レベルが上がればポイントが貰えて各ステータス、スキルを上げることが出来るはずだ。
そしてfoodとdrinkとcleanと書かれてある右にそれぞれ黒い穴がある。手のひらを広げたのと同じくらいの大きさだ。
恐らく何かをここに入れたら食糧と水が手に入るのだろう。cleanは直訳すると清掃的な意味なのは自分でも分かるがどの程度なにを綺麗にしてくれるのかはよく分からない。
ローマ字と日本語が混在してるのがちょっと気になる。
あと気になっているポケットの中に入ってたやけに手に馴染むこの軽い棒。
ホログラムに翳すと『トランスLv.1』という表記が出る。
これで戦えってことか…?まさかね、職業暗殺者なら普通定番は短剣だろ…棒って…と思った瞬間、急にこの短い棒が短剣へと変化した。
本当に一瞬のことで驚いたが、なるほどこれは自分の想像した武器に変化する便利な棒なんだな、という解釈に落ち着いた。
メニューをもう一度覗いてみると
暗殺者Lv1 ステータスpt : 0 武器スキルpt : 0 exp:0
メッセージ : 1
耐久:1.00 筋力:1.00 魔力:1.00
速度:1.00(×1.20) 技量:1.00
職業スキル: 隠密1.00
武器:短剣Lv.1(同調率:+1%) 同調率:1%
武器スキル: 強襲1.00
所持トランス: Lv:1
food⚫️ drink ⚫️ clean⚫️
と追加されている
強襲はアサルトと読むらしい。強襲をタップすると、効果:5秒間の間、筋力・速度を1.10倍 同調率+10% 技量:0.20使用と書かれてある。
同調率というのがよく分からない。同調率が上がるにつれて自分の体の一部が短剣になっていくわけでもなかろうし。普通に考えるなら短剣の扱いが上手になるってことかな?
試しに隠密もタップしてみると、効果:使用者依存、敵の自身に対する認識パラメータに影響を及ぼす。技量:2秒に0.01使用と書かれてある。2分は持たないんだな。
最後にずっと気になっていたメッセージをタップする。
『100層を突破せよ。願いは叶う。』
100層…?ここは当然1層目って事だよな、100層…?
100層を突破しないと日本には帰れないってことだろうか…?100層ってどれくらい大変なんだ…?
色々と質問させて欲しい。とりあえず100層を突破すれば願いが叶って日本に帰れるという事で、いいんだよな?
いや、別に願いとかいいから今すぐ日本に帰してくれ…絶望で視界がクラクラする。帰してくれよ…。
小一時間絶望のあまり何回か感じた気配をよそに座り込んでいた。しかし、女の子座りしてても何も変わらないよな。次の層を目指さなければ。
ん?階段を探せばいいのだろうか?