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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第九章
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008 感染拡大5




 日常的に邂逅(かいこう)する芸能人、有名配信者。

 極端さで言えば、大御所ハリウッドスターなど。日本中、果ては世界中に名を馳せた彼ら彼女らが跋扈(ばっこ)する異界・東京。

 そんな彼らが(ちまた)に現れても驚くことが極端に減っていた首都東京の人々は、それでも奇異を感じざるを得ないほどの異様に思わずギョッと視線を向ける事になった。



 突如として品川駅のホームに降り立った異形の頭部たち。

 内二体は肌面積のやけに多い巨木と枯れ枝。

 そしてその二体に囲まれるは、今やアメリカでその名を知らぬ者はいない、次世代マジック界の新英雄(ニューヒーロー)三四四一(ミシシッピ)・ピカタその化物(ひと)であった。



「おいおいおい、ここが東京かぁ! 人という人が(ひし)めいてるぞジョージ、地元(あっち)とは全く景色が違うなぁ!!」

「ガーハーハー! 三四郎、お前東京も初めてな田舎モンだったか! 東京はいいぞぉ、日本どころか世界中のンマい物も、日本どころか世界中の工芸品も、日本どころか世界中の面白いものも集まる全くもって混沌(おもしろい)ところだ!」

「oh...さんしーごーハ、ハシャギ過ギネ。チョト恥ズカシイヨ。じょーじモ一緒ニ興ジナイデ少シハすとっぷカケテネ」

「すまんすまん、ガーハーハー!」



 愉快にじゃれ合う三体は人間となんら変わらぬ態度で構内を練り歩き、遂には公道に至るまで人目を気にすることなく移動した。

 余談ではあるが、向こうからの新幹線の中や乗り換えた電車の中でもその声量は変わらず、肌面積の異常さも相俟(あいま)って、乗り合わせた人々は見たくもないにも関わらずその脅威に視線を外す事は叶わなかった。

 ある母親は、子供の目を自らの手で塞いだ。

 ある父親は、彼らを指差して子供に何かを説いていた。

 現場はちょっとした混乱に包まれていた。



 そんな(やかま)しさに構わずグングン進む三体。

 思わずスマートフォンを取り出す若者、あんぐりと顎を落として立ち止まる老人、吠える犬。

 楽し気に笑う異常×3の進行は、人々の波のうちに道を作り、人々の歩みを止めるになんの特殊行動も必要なかった。



「おぉ…」



 そこは三四郎にとってテレビの中の世界だった。

 あれはこの前テレビで芸能人が歩いていた道、あれはテレビでインタビューされてた飲食店、あれに関しては誰が注目をする事があるのだろうか分からぬニッチな雑誌に掲載されていたニッチな店。どれもこれも見た事がないのに、どれもこれも見た事あるものばかりで溢れている場所であった。

 世界各国を旅した三三(さんのじじょう)や世界を股に掛ける三四四一とは違い、初めて踏む首都の地面。

 大阪や京都とは違う、異様なギラつきの舞う日本の中心。

 洗練された見てくれに隠された欲望を目の当たりにして三四郎は思わず感嘆を漏らし、膝の力が抜けて行くのを感じていた。



「凄いところだな東京は……。来た事がない場所なのに、まるで自分が実際に生活して親しんでいる場所の様に見た事のある景色ばかりだ。それを記憶に刻み込んたメディアの騒ぎ立て具合も凄いが、とは言っても流石にここまでとは………」

「ソウデショウ。我ガ母国アメリカ(ステイツ)デモ、ココハ見覚エノアル建物バカリサ」

三四四一(ガイタレ)もそうなのか。でも、ここでもまだ東京の本当の中心じゃないんだろ?」

「そうだ。ここは少し南で、北に向かえば日本の文化と歴史の象徴、天皇がいる皇居があるんだ。ネットで地図見た事ないか? 蜘蛛の巣みたいに張った幹線の中心があっちにはある」

「はぁ~」



 気の抜けた三四郎の返事に、やれやれと言ったわざとらしい身振りをしたのは三四四一だった。

 彼は決して三四郎の無知を馬鹿にしたのではなく、初めて見る巨大な人工物の集合体に気圧(けお)されている三四郎の無邪気さに自分の子を見る様な気持ちになっていたのだ。



「サァ、今日ハ従兄弟(イトコ)同士水入ラズノ東京観光ダ。早速じょーじニ先導シテモラッテ楽シモウジャナイカ」

「そうだったそうだった! 変に気持ちで負けちゃいけないな、都会だからなんだってんだ。こっちは西の田舎モンだぞ!」

「マルデ自分ヲ人間ノ様ニ言ッテイルケド」

「うるさい! おうジョージ! 東京の地を踏んだからには、東京のンまい物も食わないといけないよなジョージ!」

「おぉ!」

地元(あっち)や関西にはンまい物が沢山あった! 東海や九州にも、各地方に古くから伝わるンまい物があると聞いている! ここにもンまい物が沢山あるんだろジョージ!?」

「おぉ!」

「そうだろうそうだろう!」

「おぉ!」

「で、そのンまい物ってのは、どんなもんだ!?」

「おぉ!」

「ジョージ?」

「…………………」

「さんしーごー、僕ガ代ワリニ答エヨウカ?」

「頼む! もうンまい物と聞くだけで、何にも分かってないのに涎が止まらんのだ!」



 乗用車の幅にも負けない広さの肩幅をブルブルと震わせながら、大量の涎を垂れ流すビルパン一丁の巨大な肉塊。同類とは言え、三四郎のその姿を見て流石に一瞬言葉を失った三四四一だったが、一呼吸置いて気持ちを取り戻してから口を開いた。



「……(キラ)ビヤカナ東京、研ギ澄マサレタ日本経済ノ中心。寝ル事モ(ママ)ナラヌママ経済闘争ニ明ケ暮レ日々ヤツレル精神、草臥(クタビ)レル体。都会ニ憧レ、夢ヲ見テ上京シタ人々ハ僅カナ栄光ノ光明ニ(スガ)ッテ毎日齷齪(アクセク)働キ、体ニ、心ニ汗ヲカイテイル。目ハ(ウツ)ロデ、希望ナンテマルデ感ジラレナイノニ……。ソンナ人々ノ目ニ光ガ戻ル瞬間ガ有ル。日本人ノDNAニ刻マレタ逃レラレナイ味。時代ニ合ワセル、ナンテ通ジナイ大和国ノ伝統ヲ直接(クスグ)ル古ノ薫リ。疲レ果テタ人々ノ腹ヲ満タシ、心ヲ癒ス、ソノ料理トハ………」



 長い長い口上の合間、三四郎は「うん! うん!!!」と両手を構えて首を振る。

 その顎(?)は、はしたなくも大量に流れ出でる(よだれ)によって保湿は有り余り、それでも追いすがる次々の水流に決壊を起こしていた。



「ド」

「おや? こんな所で会うとは、随分と久しぶりだね」



 聞き覚えのある声だった。

 三四郎が声の主を確認する間もなく、三三が動いていた。



「おう…、イヤーン先生。ここで会ったが百年目、本当に久しぶりだな」

「うぐぐ、な、なぜ私を拘束するのかね?」



 イヤーンは文字通り、瞬きの瞬間に腕を後ろ手に取られて動きを止められていた。

 三三が高速で動いた証拠に、三三の元居た場所のコンクリには彼の足の指の跡が残り、周りには突風が吹きあがった。



「それに、その台詞、なんだか私を敵として見ているかのような言い分だね」

「違うのか?」

「本当に敵だったとして、今の状況で『そうだ』と言うかね? ……私は敵ではないよ」

「じゃあよ、なんであの後何も言わずどっか行ったんだ?」



 イヤーンを拘束したまま三三は質問を続けた。

 東京の往来のド真ん中、化物たちが矢庭に揉め始めたものだから、通行人たちは先程よりも更に化物共を避けてチラ見するなりスマートフォンを取り出すなりしていた。



「じょーじ、積モル話モアルンダロウ。込ミ入ッタ話モアルンダロウ。デモ、チョット目立チ過ギルカラ場所ヲ変エナイト周リノ迷惑ダヨ」

「あん? ……確かに悪目立ちし過ぎか」

「と言っても、東京ってどこ行っても人の目があるだろ。どっか人気の無い場所ないのか?」

「あー、あるにはあるが」

「話をしたいと言うのであれば、こちらも(やぶさ)かではないがね。こちらも久しぶりに知人と会えたからね。思い当たる場所があるんだろう、早くそこに行こうではないか」



 自身の敵愾心に対し、その場所へ催促するイヤーン。

 いやに柔らかな口調に毒気を抜かれて少々落ち着いた三三は、怒りの少し収まった事を悟られない様一呼吸の後に「わかった」とだけ言い、その場所へ化物共を誘導した。






「……おーい。何かあったら言えよ? 呼べよ?」

「言っても呼んでもどうしようもないだろ、大人しくどっかで飯でも食ってろ」

「……なぁ、どうしても入れないかな? なんか、こう、俺達の化物的な能力を使ってさ、俺の体を少しだけ小さく、肩幅だけでも折りたためるようにしたらさぁ、な?」

「そんな能力があったとして、ここにいる誰がその能力持ってんだよ」

三四四一(ガイタレ)ならどっかからコピー出来ないか?」

「僕ノ周リニソンナ能力持ッテル化物イナカッタヨ。諦テネ」

「………せめて、せめてオススメの時間潰せる所教えてくれないか?」



 細い通路の向こうで、背後から日の光を受けた三四郎が寂しく懇願した。



 東京の明るい雑踏を避ける様に、人一人分の幅しかない狭く設けられた小路。そこを抜けるとまるで放置されて時の止まったような空き地がある。四方は背の高いコンクリートの建物に囲まれ、地価の高い東京において、そこは商業的な利用価値は全く望めない場所であった。

 この空き地を何とか出来ないか、と誰もが考えていたがどうしようもなく、ゴミ捨て場としての利用がせいぜいであった。往来の目から離れて、また臭いも漏れにくいというメリットがあったため、『まぁこれが正解か』と建造物のオーナーたちは正式にその空き地をゴミ捨て場として利用することにしたのだ。



 通路の両側は運よく飲食店であり、そこに従事する店員らは営業終了後に清掃を終えると、裏口から出てそのゴミ捨て場へゴミを置いていく。そして、清掃業者はこの狭い通路を通る手間をかけて、早朝にゴミを回収していくのだ。

 狭い、とは言っても清掃業者が通れるくらい、つまり一般人が通り抜けるのに少し狭いくらいで、両手にゴミ袋を持って体を横にして通ればそこまで難はない。しかし、分厚い岩石の様な巨躯を誇る三四郎にしてみれば、猫にグレーチングの格子(こうし)の間を通れと言っているように、無理のある話であった。



「ちょっと東に行けばカレー屋の見た目したボロい喫茶店がある。カレーを出していないのに謎のスパイス臭のする店だ。その店の中、奥の方は人の目がつきにくいから、そこ行っとけ」

「分かった。……何かあったら言えよ?」



 寂しく一言残し、三四郎がその場を後にすると、巨大な肉に遮られていた光が通路を照らし、建物から突出する換気扇の姿がよく確認出来るようになった。



 三三と三四四一がイヤーンを伴って、ゴミ捨て場へ辿り着いた。既にゴミは回収され、広々とはいかないが三体が体の動きを自由にさせるくらいには十分な広さが確保されていた。



「いや、ここは臭いねぇ。ハエも凄いよ。嫌な汗が出て来る。でも、換気扇から吐き出される料理のいい匂いが時々気分をリラックスさせてくれるね。もう片方の建物からは、清涼感のある臭い……トイレの芳香剤かな? これもリラックス効果が高い。さながら空気版のサウナと言ったところ、ここは東京の名スポットなのかね?」



 イヤーンの戯言を無視して、三三らの会話が開始された。

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