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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第九章
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001 三四復活1




 城下町少年の電話の相手は化物一家の食卓を任されているミ一(みひ)からであった。

 化物らと関わり、毎度何かしらに巻き込まれている城下町少年らは何かあったら互いに連絡できるよう一家の全化物共と連絡先を交換していたのだ。



 『安宅(あたか)真白(ましろ)が三四に取り込まれた』

 


 要領を得ない(しら)せは、人智の到達し得ない化物らが惹起させる特有の緊急事態であることを示唆(しさ)しており、これを聞き、城下町少年らは直ぐに三四郎の『亜空間』を使用して山奥の化物邸へと臨んだ。

 移動の際、狂乱にあるグパック教員は皆の脳のメモリを無駄に侵すとしてとりあえず『亜空間』へ置き去りにされた。



 化物邸の(そび)える山は静かな陽に照らされていた。

 初秋の陽射しは苛烈さを潜めており、浅い茜色から深い紫色へのグラデーションで空を染め上げていた。

 山だけでなく茅葺(かやぶき)屋根の映える化物邸もまた同じ空の下同じ様に照らされ大きな影を作っていた。

 化物である三四郎の帰宅が影響したのか家屋の周囲にあった動植物達の息遣いがピタリと止み、その不自然な静寂の降りる環境が不穏の影をより巨大なものへ変化させ、この地へ足を踏み入れた皆々の焦燥感を無闇に煽った。



 通常であれば玄関口に開く三四郎の『亜空間』は、三四の部屋の前に開かれた。

 この場へ急行した各々の経験した化物関連の出来事の中でも、此度の件は緊急の度合いが一段上であったからだ。

 準化物(セミ)による傍迷惑な被害ではなく、正真正銘化物による被害。化物からの直接的な被害と言うのは、準化物(セミ)のものとは比にならないレベルでの想定外が起きる……皆の考えは同じであった。



 今回も、(かつ)て虎姫と伊吹が体験した様な破壊的な内容であっても何ら不思議ではなかった。

 それを考えれば、いつもと同じく丁寧に玄関口へ『亜空間』を繋げ、そこから三四の部屋への移動にかかる時間は惜しんで(しか)るべき対応であった。

 三四の部屋の前へ直行した事自体はミ一から告げられていた訳ではなかった。誰が提案したのか、半ば当てずっぽうではあったもののその選択は間違っていなかったらしく、入口の開け放たれた部屋の前にはミ一が狼狽(ろうばい)を隠さずに一人立ち(すく)んでいた。



 空間を不気味に裂いて『亜空間』が開かれたと同時に、複数の人影が弾かれた様に飛び出して来た。

 バタバタと化物邸を賑やかす四体の影は一報を聞いた城下町少年と三四郎、それから先程一悶着を起こした相手、虎姫と伊吹であった。

 



「お袋! 三四は!?」



 三四郎が表情の変わらぬ顔面で焦りを言葉にすると、ミ一は(すが)る様な面持ちで、ゆっくりと部屋の中を指差した。



 一同がミ一の指差す先に視線を送ると、日暮れに闇を増した薄暗い部屋に不自然な程濃い極黒の樹木が鎮座し、安宅真白を深く絡め取っていた。



…………………………



 三四の部屋は消灯されており薄暗かった。

 三四が大君ケ畑(おじがはた)の一件から引き籠り始め、それからずっと電気が()けられることのなかった部屋は、日の入り間際の威を借りその暗然(あんぜん)たる表情を殊更に見せつけていた。



 それだけでも十分に不気味であるのに、視界の効きにくくなり始めたその闇の中でも更に目立つ漆黒の影が異様を放っていた。



 それは一本の、約九尺半ある天井にまで届きそうな巨大な樹であった。

 幹は太く、葉を付けていない数多の枝は数える事が億劫(おっくう)な程で、不規則に()じれ、(から)まり、(ゆが)み、そして不確かだった。

 また、薄闇の部屋で異常な存在感を露にする樹はあまりにも黒く、光の反射すら飲み込んでいるためか奥行きが全く感じられなかった。その一枚絵の様な、まるで現実的でない立体感の無さは不安や恐怖の本能を刺激するもので、時折ズルズルと音を立てて動き、淀み、曲がり、不祥(ふしょう)に溢れていた。



 部屋の中央、禍々(まがまが)しく生える影の樹に見知った人物の顔や手足が覗いていた。

 絹のような長髪が特徴的な彼女は、安宅真白で間違いが無かった。

 胴体は無論の事、手足、顔の一部にまで枝や職種の様な(つる)が複雑に蔓延(はびこ)っており、正に『取り込まれた』と称して相違無い様相であった。

 そのあまりにも痛々しい様子を見て、城下町少年をはじめとした一同は思わず息を飲んだ。



「あ、……」

「何だこれ…」

「姫さん、この光すら飲み込む黒色は…」

「あの時の物と一緒の…」



 それぞれのグループで反応は違ったものの、その異常さを皆が認識した。



 それまでドタバタとやかましかった一同の思考が停止し、沈黙が訪れた。

 どのようにして、このようになったのか。

 主因は分かっているものの、その後どのような過程でどんな要因が何に作用して三四をこの大樹へと変化させたのか分からなかった。



 過去の準化物(セミ)らの様に何か行動に起こしている、いっそ暴れでもしてくれていようものなら、それを鎮める事で解決の糸口を掴む事も可能だったかもしれない。

 (しか)し、これでは一体どんな処決(しょけつ)を取り状況を解決させるのか見当の付けようもなかった。



「なぁ、これ……三四ちゃん言うてたけんど、伊吹さんの能力で斬れへんの?」

「見たところ『化物因子』の塊が渦巻いて形を作ってるだけでやんすから、斬る事自体は…」

「でも彼女は化物なんでしょう? この間の三四郎さんみたいになりますわよ?」

「ちょっとややこくて、化物言うても『混血(ミックス)』っちゅうてスリークォーターなんやけど……せやんなぁ、三四郎程ではないと思うけんど復帰には時間かかるかも分からんよなぁ」

「三四は俺程強くない、もしかしたら想像以上のダメージになるかもしれない」

「……斬るのは得策ではなさそうでやんすね」



 三四への物理的な対処も実質封じられている状態だった。

 三四へのダメージを織り込んで実施しその後の心身ケアを十全に行う案も出たが相手は化物、一体何が起こるか分かったものではないので安易に実行する事は躊躇(ためら)われた。



 一同は一瞬途方に暮れかけ再度訪れた沈黙が場を支配したが、その思考停止の時間を許さぬと言わんばかりにミ一が一つ案を口にした。



「三四郎、三四ちゃんの方は直ぐに手を出せないとして、真白ちゃんの方を直接引き()がすみたいな事は出来ないのかしら……」

「凄い巻き付かれてるからな……苦労しそうだが」

「ちょっと試してみるけ? 引っ張るくらいなら何ともないやろ」

「待った待った、近付いてお前が取り込まれても困る。ここは俺がやってみよう」



 『同じ化物ならこれ(・・)に巻き込まれても大した事はないだろう』

 そう言うと三四郎は巨大な体をのそりと動かし、影の大樹へと歩み寄るために部屋へ侵入した。

 念のため部屋へ入ってすぐ右方の壁に取り付けられたスイッチを押し込み点灯を試みたが、何故か光量が少なく部屋をぼんやりと照らすだけに(とど)まった。



 部屋自体は、そう広くない。

 開け放たれた(ふすま)から大樹までの距離も五歩を大きく超えない。

 大樹まではあっけなく到達出来た。



「こりゃまた凄いな……絡み方が複雑過ぎる。引っ張ってって言ってもどこをどう引っ張ればいいか全く分らん」



 大樹へ近付き真白の様子を見ると、蔓の絡み方は縦から横から斜めから、あらゆる方向からあらゆる筋を引き連れていた。

 蔓は地球上の樹木と同じく、根本の方は太く、先に行くにつれ細く鋭くなっていた。



 黒く、立体感の無い枝蔓。

 (らち)が明かんと思ったか、三四郎は(おもむろ)に真白の頭を覆っている蔓を払ってみると、蔓は案外簡単に解けてブラリと垂れ下がった。



「おっ、結構簡単に外れる! これはいけるぞ!」



 三四郎の声が聞こえた途端、場に居合わせた一同に安堵の空気が流れた。

 それまで解決方法に妙案が無く、打つ手無しと思われた緊張の時は誰かの「ほう」と言う吐息を皮切りに終わりを告げ、完全解決とは言えないまでもとりあえずの光明が彼らを縛る糸を解いた。



「ほんまか!」

「あぁ、まあちょっと蔓が多すぎるから真白ちゃんを引っ張り出す前に多少振り払う」



 城下町少年の声にも明るさが戻った。

 安宅真白という人物をよく知らない虎姫と伊吹も表情が柔らかく、ミ一もまた胸の前で手を組んだまま溜まった息を大きく吐き出した。



 三四郎は真白の肩口の蔓を払うと、そのまま腕、手先と順々に蔓に手を伸ばした。

 見た目からは想像できないカサカサと乾いた音を立てて蔓は何の問題も無く払われて行き、次に胴体部分に巻き付く取り分け太い蔓に手を掛けた時だった。



「あら、ここのは異様に硬いぞ? フン! ………うん? フッッ……ン!!」



 一度軽く引っ張った感触でこれまでの力では振り払えないと直感した三四郎は、改めて力を込めて思いっきり蔓を引っ張った。

 蔓を握り込む三四郎の腕には極太の血管が迸り、体勢から見ても明らかに体重を使って引いているのが分かる。

 畳で滑る足を強引に立て直し、また滑っては立て直し、それに連れ三四郎の上体は徐々に後方へと傾いて遂に踵の踏ん張りが支点となった。恐らくは既に全体重が乗っているであろうまでに三四郎の体は後傾していた。



 だと言うのに真白の胴体に絡みつく蔓は微動だにせず、(むし)ろ巻き付きの力が強まっているのか真白の服の陰影が若干濃くなっている様に見えた。

 根を張ったかのような蔓との渾身万力の綱引き状態、三四郎の四角い頭部には既に(いく)つもの玉の汗が浮かび上がっていた。



「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!」



 最後の一(しぼ)りに、と渾身の力と体重を込めるも状況は変わらず、三四郎は蔓から手を離し大きく乱れた呼吸で膝に手を着いてしまった。



「な、何だこれ……、全…然動かねぇ」

「三四郎何しとんねん」

「いや、これ、全然、動かないんだ…」

「んなアホな」



 一筋縄ではいかぬ、化物の引き起こす事態。

 一つ解決の糸口が見つかったと思ったが、いきなりの頓挫(とんざ)だった。



「ハァ、ハァ、……あ?」

「今度はなんや」

「ん、何か…」



 荒い呼吸、三四郎が何かに気付いた。

 (かす)かに、極細やかにだが、呼吸の合間に音が聞こえたのだ。

 大樹に巻き付かれている真白の顔面辺りから、確かにその音は聞こえた。



「真白ちゃんの顔の所から音……声みたいなものが……」 



 呼吸も落ち着かないまま三四郎は状況を改めて確認するため、自身の顔を真白の顔付近へと近づけ目元を隠している蔓をサッと払い()けると、薄暗い部屋の中で真白の大きな瞳と目が合った。

 

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