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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第八章
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007 準化物の鎮静化2 




「あの~…」

「ん?w」



 (かつ)て、湖岸に程近い場所、(つた)に覆われた不気味な喫茶店があった。

 その喫茶店は、近所の子供たちにその不気味な見た目が受け、『魔女のコーヒー屋さん』として無許可による肝試しの場所として使われていた過去を持つ名誉ある喫茶店だ。

 そこの女マスター、名を守山稲枝と言う。これも嘗ての話になるが、彼女は飲食店に有るまじき長髪に、目が悪いのに矯正の類を付けない、コミュニケーションの不得意などが祟り、ネットのレビューにはある事無い事それはもう散々に書かれていた。



 (しか)し、(くど)い様だがそれらは嘗ての話。

 守山稲枝がオーナーを務めるこの喫茶店はある時を境にその様相の一切を変貌させ、清掃の行き届き方や魅せ方、インテリアの一新、店その物の雰囲気から全てが好ましく望ましい、理想的な飲食店へと成り変わった。

 その変化はオーナー自身にも表れており、それまではジジ臭い焦げ茶色の暗いジャージに身を包み、前述の通り縦横無尽に伸ばした髪をそのままにしたその姿……これが何とも見目(みめ)(うるわ)しく、自身の肉付きの良いスタイルを活かした女中服を着こなし、接客の受け答えも抜群。

 今や老若男女から分け隔てなく愛される、町を代表する喫茶店の一つである。



 ……そう断言出来ればどれ程収まりの良かった事だろうか。

 ここまで、そう、完璧と言って差し支えない素晴らしい喫茶店の紹介をしているつもりだったが、残念ながらこの喫茶店には致命的な欠点がある。それが為に一時は珍しい物好きの客らで賑わったものの、ある程度の知的好奇心を満たした彼らのリピート率は(いちじる)しくなく、今もまさに閑古鳥が鳴くか鳴かないのかの瀬戸際に追いやられていた。

 (これ)以上は蛇足と言うか、意味もないためにここまでにしておく。



「申し訳ありませんが、全裸での御来店は他のお客様に大変迷惑になりますので……服、着てもらえませんか?」

「バカには見えない服を着ているでござるw」

「バカにも見える服で御来店ください」



 三三(さんのじじょう)大君ケ畑(おじがはた)は、金剛寺虎姫、白王伊吹の二人組を伴って『魔女のコーヒー屋さん』へとやって来た。最近ではまた人の少なくなってきたこの店で神妙な話し合いの場を設けようとしていたのだ。

 が、一つ問題があった。

 それは語るのも(はばか)られる事ではあるが、一人、全裸の肥満(デブ)がいた事だ。稲枝は店のオーナーとして当該の男の入店を見過ごすには、彼は余りにも汚らわしかった。



 稲枝は何も大君ケ畑を差別している訳ではない。彼がどのような趣味嗜好(しゅみしこう)でいて、生活に支障がありそうな、程度の超えた肥満でいても稲枝は別に何とも思わないが、公共の場で、それも衛生観念にコト敏感な飲食店で全裸入場はあるまじき不当行為なのである。

 稲枝は(これ)を指摘していたのだ。稲枝の言い分は誠至極正しく、反して大君ケ畑の返答がおかしいのも改める必要の無い事である。



「店長さんよ、そんな事言っても他に客がいねぇんだからちょっとくらい何とかならないか? こいつも準化物(セミ)で、服が着れねぇんだ」

「何で服が着れないんですか?」

「着た端から弾け飛ぶんだ」

「何でですか?」

「本人にも分からないから俺にも分からないんだ! ガーハーハー!」

「……今日はもう閉店にしますから、お好きなだけどうぞ。でも、何かは頼んでくださいね?」



 そう言うと稲枝はカウンターの奥へ引っ込んでいった。

 去り際には『注文が決まったらお呼びください』と一押しを忘れない、過去を思い返すにもその面影は一切感じられなかった。



――――――――――



「豚の兄さん、ちょいと耳を傾けて頂きたいんでやすが、全裸は流石にマズいと思わないでやんす?」

「ンフゥw 豚とは言い過ぎでは?w それに服を着ようにも勝手に弾け飛ぶんでござるから世話ねぇでござるよw クフゥw」



 虎姫と大君ケ畑が、伊吹と三三が対面になるよう丸テーブルを囲み、三三が注文をするために稲枝を呼び出した。

 ここのコーヒーの不味さは一級品である事を重々知っていた三三は、それでも一番無難であるコーヒーを人数分稲枝に告げると展開される会話に耳を傾けた。



「わたくし達、過去、貴方に大変失礼な事をしましたけども、正しい事は正しい、間違いは間違いでハッキリと明言するのが信条ですのよ、堪忍してくださいましね。正直……かなり不愉快でしてよ?」

「ロリドリルお嬢さん、それはね、拙者にも無理な相談ですよ。何と言っても、さっきも言った通り着た端から弾け飛ぶんですからね…」

「この方、二重人格ですの?」



 虎姫はいきなりに変わった大君ケ畑の口調に怪訝な表情で三三の座る右方を見遣るも、その姿は椅子に無かった。

 フと視線を下に落とすと、そこに三三が四つん這いになり細かく震えていた。



「ちょ、ちょっと大丈夫ですの?!」

「だ、だ、だ、大丈、ぉ夫…くっ……、続けて…」



 三三は何時もの如く、笑いに倒れていた。

 苦しそうなのは苦しそうであるが、それが痛苦のためではないと分かると、虎姫はこれまた眉をきゅうと(すぼ)めて、とりあえずは放って置くことにした。



「……ん、ゴホン。二重人格はともかくとしてですわ、貴方、他の方に明確な害が無いとは言えその姿は公序良俗にどのような影響を与えるのか分かっていて?」

「ロリドリルお嬢さん、何度も同じ事を答えさせるものではないでござるよ、フフ」

「そのロリドリルって言うのやめてくださいます?」

「姫さん」



 眉の痙攣し始めた虎姫に、伊吹が制止の意味で右腕を差し出した。

 このままでは話が進まない、(らち)が明かないと考えての行動であった。

 虎姫の心情も分かるがここは苛立ちを抑え、事の解明と解決に時間を注ぐべきだ、と伊吹はそれを目で伝えると、それに対し虎姫は口元をムっとさせるも一つ、少しの時間の後、つんのめりかけていた姿勢を引かせた。

 しかしそれはそれで腹の虫が治まらないので少しだけ『因子崩し』の能力を行使し、大君ケ畑の余裕を削ぐ事にした。



「……おや、ちょっと具合が…。冷えたかな?w」

「なら服を着ればいいのですわ」

「ロリドリルお嬢さん、服はね、着れないんでござる…フヒュゥw」

「姫さん」



 その伊吹の一言は、はて、能力の行使に気付いたからなのか、一歩引いたその姿勢がまたもや前に出かけていたために止めにかかったのか。

 (いず)れもハタと見ただけでは分からなんだが、度重なる話の中断に飽きかけていた大君ケ畑は口を回し続けた。



「服はね、着た瞬間に弾けるのでござる。拙者の意思とは関係ないのでござる。拙者は服の着用と引き換えに屁による空中遊泳の能力を得たのでござるからね。勿論、この等価交換にも拙者の意思は関わっていないでござるよ、勝手にそうなったんでござる」

「『等価』って何なんでしょうね、全く持って腹立たしい」

「姫さん、ここは一つ、あっしに任せてくださいやせんか?」



 丁度、稲枝がカウンターから四人分のコーヒーマグを盆に乗せてやってきたところである。

 伊吹は切れながらの瞳で虎姫の双眸をじっと見つめると、虎姫は少し顔を赤らめながらも「いいでしょう」と一言絞り出した。

 そんな中、稲枝は音を立てないよう静かにコーヒーを四人の前に夫々(それぞれ)配膳し、客の会話を気遣いこれも静かに一礼をするとそのまま再度カウンターへと去って行った。



「豚の兄さん、空を飛べるのは確かに楽しい事でやんしょう」

「楽しいでござるw」

「さぞ、気持ちの良い事でやんしょうね」

「気持ちよいのでござるw」

「結構な事でやんす。でもでやんす、豚の兄さんは紛れもない一糸(まと)わぬ赤裸々の姿。これは日本の法に置いて軽犯罪、酷ければ公然猥褻(わいせつ)罪でやんす。それは理解しているでやんすね?」

「む…w」



 理路整然とした伊吹の説得が大君ケ畑に一瞬の、唾を嚥下(えんか)する時を作り出した。

 いくら楽天家である大君ケ畑と言えど、自身の状況に罪名を突き付けられてしまえば流石に真剣にならざるを得なかったようだ。それまでお茶らけていた雰囲気とは違い、大君ケ畑の顔に固さが出てきていた。



 店内の静かなBGMが、唐突に訪れた静寂をやたらと際立たせている。

 よもやシーリングファンの音でさえ認識出来る程に、ピンと張り詰めた空気がその場を支配していた。



「そう言われると、拙者、何も返せないでござるw」

「そうでやんしょう?」

「でもこれは拙者の意思と関係ない、言わば誰かに押し付けられた強制でござるw」

「でも警察にしょっ引かれるのは困るでやんしょう?」

「……困るでござる」



 上手く言いくるめられていく大君ケ畑。

 その様子を見ていた虎姫は自身の従者の毅然とした態度とその様に誇らしさを感じたのか、見る間に顔を輝かせ、どうだと言わんばかりに口角をニンマリと…。カウンターの奥で頬杖をつきながら虎姫を見ていた稲枝も、デレり、ニンマリと…。



「あっしであれば、解決出来やす」

「えw」

「あっしであれば、豚の兄さんにお力添え出来やす」



 大君ケ畑の顔にも、輝きが戻って来た。

 いや……伊吹の一言で、大君ケ畑の顔に照りが戻って来た。

 そのタイミングで三三も(ようや)く復帰し、丁度伊吹の言を聞いていたので早速口を挟んだ。



「お前だったら出来るのか?」

「へぇ、あっしの能力は以前にお話ししたでやんしょう?」

「…あ、そうか! 『因子断ち』か! 確かに!」



 三三が手を打って得心を表現した。

 更に追撃で指を鳴らすと、フォロースルーで鳴らした指を伊吹へと向けた。



(しか)しでやんす」

「ん?」

「あっしの『因子断ち』、確かに能力の不能の程度を調整することは可能でやんすが、飽くまで『程度』だけでやんす。豚の兄さんの場合、『空中浮遊』と『服の爆散』で片方は能力とは言えない代物でやんすがこれを正確に切り離すのは至難の業でやんす」

「ほぅ」

「一緒くたに切ってしまえば一番楽でやんす。その場合、『空中浮遊』の方も不能になるでやんすがね」

「そ、それは嫌でござるw」

我儘(わがまま)だなぁ、もう良いじゃねぇか。随分楽しんだだろう?」

「嫌でござる!w 拙者、まだまだ空に()つでござるよ!w」

「往生際が悪いぞ! 構わん伊吹、切っちまえ!」



 三三が大君ケ畑に飛び掛かり、どうしてその貧弱な体で倍以上も違うであろう富んだ体を抑えられるのか、種明かしは何度もやっているので省略するが、そうして一人と一体がわちゃわちゃしていると伊吹が一つ、追加で放った。

 もっとも、抑える側も抑えられる側も必死でその言葉を何一つとして聞いていなかったのだが…。



「因子と因子の境目、それさえ分れば豚の兄さんの望みも叶えられるでやんすがねぇ」



 無情にも、伊吹が腰から抜き放った竿竹は冷ややかな風切り音を伴い、大君ケ畑を一閃した。 

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