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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第七章
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閑話休題 秋山巣立ち




「皆様、今まで大変お世話になりました」

「うむ、息災でな。これは(わし)からの餞別(せんべつ)だ」



 三一(みひと)は秋山乗務員に長方形の木箱を渡し、その中には三一お気に入りの焼酎が入っている様だった。

 三一の太い腕で優しく手渡された木箱の重みを感じ、秋山乗務員は恐悦し、(しか)し一方で表情は穏やかに(ほど)けていた。



「ありがとうございます。このようなお品まで頂いて、どのようにお返ししたらいいのか…」

「良い、良い。折角再就職出来て町へ帰れるというのに手ぶらで送るのも申し訳ない。

 (ちな)みにそれはちょっとだけ良い焼酎であるからして、『酔い』もまたちょっとだけ良いんだ。誰かと呑むも良し、一人で(えつ)を楽しむも良し。オススメのツマミは(ハマグリ)の酒蒸しだ。バターをたっぷり入れる事を邪道と恐れる事はない。これがンマい。それから案外スモーキーな物、そう燻製(くんせい)もこれはこれで合う。炭火で仕上げた品も抜群で」

「親父」



 三三(さんのじじょう)が一言で注意を促すと、三一はバツが悪そうに「すまんすまん」と頭を()いた。

 


 山の奥、化物一家の玄関には三一をはじめ、三三、三四郎、ミ一(みひ)、秋山乗務員の面々。

 茅葺(かやぶき)屋根が特徴の家を背に化物たちが揃い、それらに秋山乗務員が正面を向けていた。



「重ねて御礼申し上げます」

「これでやっと鬱陶しいのがいなくなるな」

「三四郎、最後までその姿勢で変わらなかったな」

「当たり前だ。訳の分からん奴が家にいるっていうのがどれだけストレスだったか、鈍感なジョージには分からんかもしれないが、それはそれはもう、言葉にも出来ない。ずっと変な虫を退治出来ずに同棲を余儀なくされてる気分だった。

 俺はもうあのタクシー会社を信仰してやってもいい。俺の強引な言い分を聞いてくれた過去、偶然とはいえこいつを引き戻す決断をしてくれた事。俺にとっての神はタクシー会社の社長さんだ、今度良い土産を持って行ってやらないと」

「あー、そうだったな。秋山さん、結局元の職に戻るんだったな」



 三三が思い出したかのように呟いて秋山乗務員に向き直ると、ニコニコしながら頷いた秋山乗務員が確認できた。



「えぇ、そうなんです。どうも乗務員が全然足りないみたいでして、雇用内容の見直しや寮の新設等をして新規の乗務員を確保しに動いている様なのです。その中で、過去に退職した人にも声を掛けているみたいで、私もその中の一人でした。

 私自身も何時(いつ)までも師匠の令堂にお世話になっている訳にはいけないと思っている矢先でしたので、社会復帰の良い準備運動になりそうです」

「まぁたまには飯でも食いに来い! ガーハーハー!」

「来んな! 絶対来んな!」



 三四郎の必死さに一頻(ひとしき)り場が笑いに包まれた所で、秋山乗務員はもう一度だけ礼を述べるとフと物憂げな表情を見せた。視線は化物一家の二階、外からは見えぬ部屋に向かっていた。



「三四ちゃん、まだ立ち直れないのですね…」

「えぇ…。一応声はかけたんですけれど」

「心の優しい事、自責の自認は美徳とされるべきです。

 今回の、知人を準化物(セミ)へと導いてしまった事に罪悪感を覚えるのは三四ちゃんの正しい成長の証であると言えます。

 然し直線的な因果への信仰と愚直なまでに純粋な素直さは、矢張(やは)り何処かのタイミングである程度の見切りをつける事を学ぶ必要があるでしょう。何せ、準化物(セミ)化した当の本人が全くと言って良いほどに意に介しておりませんし、(むし)ろ楽しんでさえいるのですから」

「うむ、秋山さんの仰る通り、三四にはそこの所を身に着ける必要があると儂も思っておる。

 なに心配は無用、何といっても我々人外の化物は成長も人間とは違って早いのなんの。直ぐに要領を得て一回り大きくなる。その時はまた挨拶にでも向かわせよう、秋山さんは自身の復職に気を回してくれてて良い」

「親父、三四が今以上にデカくなっても困るぞ! ガーハーハー!」



 もう一度場が笑いに包まれた。

 三一は「そういう意味じゃない」と言って三三を(たしな)めたが決して不快な顔はしていなかった。

 


 山奥に響き渡る複数の笑い声。

 それらが収まった後、すぐさま土煙が立ち秋山乗務員が恐るべき速度で山を下って行った。

 土煙の巻く中、三一がミ一に尋ねた。



「三四も見送りくらいならと思ったが、まだダメそうか?」

「そうか……」

「また後で様子を見に行ってくるわ」

「うむ、儂も一緒に行こう」



 三四郎は父と母の会話を聞きながら自分にも出来る事を考えたが、妙案は浮かばなかった。



 

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