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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第六章
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009 空飛ぶ屁豚7




 大君ケ畑(おじがはた)が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。

 まだ陽は高く、窓からは小鳥の(さえず)りが聞こえてくる。部屋はエアコンにより適度な温度が保たれており、とても快適だった。

 白い壁に白いリネン、視界に映るその多くが白色で統一されており、清潔というよりも潔癖といった方が妥当な様な、そんな印象の方が強い部屋だった。(しか)しその白色は単色の様でいて、窓から差し込む陽光に晒されると暖かさと物静かさを演出する、曖昧だが確かな彩を有していた。



 覚醒時特有の強く重い瞼をゆっくりと開けた大君ケ畑は、自分が病室のベッドに寝かされている状況が分かると四角いタイルの溝が目立つ天上をじっと見詰め、思考への時間を設けてから少し躊躇(ためら)いを挟んで口をきいた。



「知らない天井だ……w」

「お前の調子は何時でも変わらんな、くたばらんで良かったわ」

「城下町氏w これは通過儀礼であり、一種の聖地巡礼の様なものですぞw」



 『言わなければならなかった』、とでも言いたげな使命感に満ち溢れた面であったが、いつもと変わらぬその口振りは城下町少年に安心を取り戻させた。普段であれば鬱陶しいぐらいにしか感じなかった大君ケ畑のふざけた顔に釣られて、城下町少年は自身の口角が穏やかに上がるのを感じた。

 頭頂部に負った傷が、大きなコブと少しの出血程度で済んで良かったと城下町少年は心の底からそう思っていた。



「城下町氏、一体拙者に何が起こったでござるか?w」

「覚えてへんか?」

「さっぱりでござるw 空中飛行を楽しんで、それからムキムキの化物と戯れていたらいきなり視界に雷が落ちてきて次には真っ暗になったでござるw」



 何も覚えていないのは背後から一思いに叩かれたからであろう。竿竹を使った攻撃のあまりの衝撃に痛みすら感じずに失神出来たのはある意味では幸いと言える。

 城下町少年が大君ケ畑の現状に至るまでの説明をすると、大君ケ畑は自分でもその事実を確認をすべく自分の頭に手を当て「あたたw」とコブの痛みに短い言葉を上げた。コブからの出血は既に止まっていたが、包帯を頭に巻くその姿は怪我の内容に対してかなり大袈裟に見えた。



 大君ケ畑は体中を(くま)なく触り、頭部以外に損傷がない事を確認すると以前と同じようなにやけ面で言葉を発した。



「さてさて、意識を取り戻した直後で申し訳ござらんが空中散歩がまだ途中だったでござるw」

「お前また飛ぶ気か?」

「無論でござる!w いつもは臭いとばかりにしか思っていなかった屁で飛ぶことが出来たのでござる、これを有効活用せねば御先祖様へも申し訳が…」



 そこまで言って大君ケ畑は、はたと気付いた。

 体に纏っていた黄色いオーラが消えている。(当たり前だが)全裸でもない。失神前に(みなぎ)っていた腹腔(ふくこう)内のエネルギーが全く感じられない。まさかと思い放屁を幾つか試してみたが、ただの臭い屁が出るばかり。大君ケ畑は呆然と自身の腹を見詰めた。



「城下町氏……拙者の屁は……空中飛行は夢だったでござるか?w 失神前に感じていた全能感は実はただ夢遊病者の様に妄言を発しながら遊んでいただけで、実際は飛んだ気になって地面へ叩きつけられたのでござるか?w 城下町氏は、もしかして優しさから拙者に話を合わせてくれていたのでござるか……?w」



 呆ける赤ん坊の様な表情で絶望感に満ちる言葉を紡ぐ大君ケ畑に、城下町少年は悪いと思いながらもガハハと笑ってしまった。



「な、何を笑っているでござるか!w 拙者は本当に不安で不安で……笑うなぁ!w」

「ガハハハ! すまんでホフマン! いやぁ、(ちゃう)うねん、それには訳があってやな…」



 一(しき)り笑うと、城下町少年は表情を引き締めて病室の入り口の方に目を向けた。

 病室は贅沢にも貸し切りであったが、扉付近には三体の影があった。

 一つは三三(さんのじじょう)で、扉に背を預けながら腕を組んで下方に視線を落としている。その視線の先には、二体の、コンパクトに縮まって地面へ伏せる姿があった。



「この度は大変申し訳ございませんでした」

「全てはあっしが悪いんでごぜぇます! 姫さんはただあっしに命令しただけで実行したのはあっしでごぜぇやす! 姫さんの命だけは何卒(なにとぞ)ご勘弁ください! あっしの(きたね)ぇ首なら三つでも四つでも持って行ってくだすって結構ですから! 何卒っ、何卒ぉ…!」

「そんなに要らねぇし、お前の首は一個だけだよ」



 綺麗な土下座を見せているのは、金剛寺虎姫とその配下白王伊吹であった。



「むぅっ!w モーニング忍者にロリドリルお嬢様?!w 彼らが先程城下町氏が話していた不届き者でござるか?!w」

「あぁ……他に言い方あれへんかったか?」



…………………………



「今回は本当に、勘違いとは言え皆様に不当な攻撃を行って申し訳なく思っておりますわ」

「申し訳ごぜぇませんでした!」



 再度の謝罪に頭を下げ、二人は神妙な面持ちのまま三三、城下町少年、大君ケ畑の正面に用意された椅子に座っていた。

 大君ケ畑はまだぼんやりとしていたが、三三と城下町少年は二人に対して非難の目を向けている。



「イヤーン先生が止めてくれなかったら三四郎と大君ケ畑は最悪死んでたかもしれねぇ。分かってるのか?」

「はい、それは、もう…」



 虎姫は何か言いたそうにしたが、それは今ではないと分かっていたため詰まりながらも三三の言葉に首を縦に振った。虎姫の言葉を聞き、また三三が続けた。



「無事で済んだから良いものの……で、何なんだその勘違いってのは」

「あ、その前に大君ケ畑に説明したってくれへんか?」

「あっしらの能力の事でやんすね?」



 合点のいった伊吹は早速語ろうとして、城下町少年が制した。「まずは俺らの事や」と言うと、城下町少年は大君ケ畑に化物一家ピカタ家と自身、真白の関り、それから今まで起きた騒ぎと準化物(セミ)についてを掻い摘んで話し始めた。



「三四殿が化物なのは無論知っていたでござるが…その他にもまだ居て山奥に住んでいるw この町には化物とは言えないけれどもそれに準ずるおかしな奴らが生成されている…w 俄かには信じられんでござるが、拙者もそれになっていたのでござるのであるから信じざるを得ないでござるなw」

「話が(はよ)うて助かるわ」

「こういう時、漫画の主人公の理解力は倫理を軽く超えているものですぞw それに能力云々は我ら男の子にとってドリルに次ぐロマンでござる故に信じるなと言われても信じるでござるw ギュプぅ!w」

「そ、そうか」

「では、次はあっしらでやんすね」



 伊吹は待っていました、と盛大に自身たちの事について語り始めた。



 読者諸君は既に気付いているであろうが、金剛寺虎姫、白王伊吹は準化物(セミ)である。

 二人が出会ったのは三年前で、近江から遥か遠く、蝦夷の最西端にある小さな町の出身だった。

 虎姫はその小さな町の地主の一人娘で、何の縁か流浪(るろう)の身で蝦夷まで流れてきた伊吹を保護し、その能力を認め時代遅れなお嬢様と執事の関係を結んだのだ。



 その詳細についてはまた後日に語るとして、二人の準化物(セミ)でありながら人智を超えた能力を会得しており、それは戦闘に特化したもので、特に対化物戦においては凄まじい力を発揮する代物であった。



 金剛寺虎姫の能力は『因子崩し』。

 敵の体内に潜在する『化物因子』のバランスを乱す、極単純でいて実に強力な能力だ。これは敵が虎姫の視界に入る範囲内にいれば発揮出来る能力で、化物はこの能力に晒されると本来発揮できる力を半分以上削がれるうえに情緒にまでも異常が起きる。異様に起こりっぽくなったり陰鬱になったりと、最悪それだけで戦闘不能の状態まで持っていく事が出来る。尚、能力の対象を選択することは可能で、伊吹に能力制限が着かなかったのはこれが理由である。

 三三の能力『超速』を完全に抑えられなかったがために予期せぬ抗戦を強いられてしまったが、実際三三もその当時は精神がまともではなく、その意志の暴走にあわや伊吹の首を(くび)ろうとしていた所をイヤーンの介入が間に合い参事を回避していた。



 白王伊吹の能力は『因子断ち』と『硬度変化』。

 後者から説明すると、『硬度変化』は伊吹が手にする物の硬度を自在に変化させることが出来る能力だ。三四郎達を襲う際に使用した竿竹はこの能力により致命傷を与えぬよう、然し気絶の惹起(じゃっき)は必須の絶妙な硬度に調整していた。これは然程(さほど)語るに衝撃はないものだ。



 もう一つ、『因子断ち』。これが、化物や準化物(セミ)に対して壮絶な効力を発揮する。

 『因子断ち』の能力は、対象を攻撃した際に発動する。攻撃の対象は化物であれ人間であれ属性を問わない。

 『因子断ち』の能力を付した攻撃は対象の体内に潜在する『化物因子』の活動を一時的な不能状態にする。不能にする度合いは伊吹の意思で調整することが可能だ。

 大雑把に言うと、準化物(セミ)化していない人間に振るえば、準化物(セミ)化を促す活動を抑える事ができ、準化物(セミ)に振るえば異常行動や異能力を完全に抑える事が出来る。そして化物に振るえば、その生命活動を『化物因子』に依存させている以上、『化物因子』の活動の停止即ち生命活動の停止に繋がり、安易にその命を絶つ事が可能だ。



 二人は元々人間あったが、準化物(セミ)化するにあたり幸運にも良方向の最大を以て精神をそのままに異能力を開眼していた。

 


「肥満の彼の屁飛びはあっしの能力で抑えさて貰っておりやす。死なないように加減した影響で完全には抑えられていないから、数日もすればまた飛ぶ事は出来やすよ」

「ほ、本当でござるか?!w 拙者はまた、空を飛ぶ事が出来るのでござるか?!w」

「本当でやんす。不能が解けた暁には思う存分屁をこくといいでやんすよ」 

「いいんでござるかっ?!w かたじけない!w」

()うないわ」



 城下町少年の言う通りである。

 屁で空を飛び黄色い飛行機雲を生成する事も問題だが、より問題なのは能力が戻った際に再度服が弾け飛び全裸になるであろう事だ。再び起こる猥褻物陳列罪を想起し、城下町少年はそんなものを看過出来る訳はないと苦虫を噛み潰した様な表情で二人の遣り取りに口を挟んだ。三三はその情景を想像し、自分で造り上げた緊張感を崩してしまわない様努めて無反応を固めていた。



「と、ともあれ、今までのお(さら)い、は、グッ、出来たな」

(わろ)てんのかジョージ?」

「笑ってない! もう能力の説明はいいだろ! 次はお前たちの勘違いのついてだ、詳しく説明しろ!」



 三三はこれ以上尊厳を失わないためにも、慌てて虎姫に話を飛ばした。

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