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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第六章
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006 空飛ぶ屁豚4




「この屁……ここまでの熱量を内包するこの屁であればきっとこんな感じの事も……フゥ゛ゥウウウン!w」



 己の放屁に神が宿った事を理解した大君ケ畑(おじがはた)は、何かを思いついたようで脂肪に厚くなった顔にギリリと力を込めると放屁一閃。再びその巨体を宙に浮かし、アイデアを実行に移した。



「体を浮かせる威力、次弾装填の超速度、これらを操る事で……こうでござる!w」



 ブッ、ブッと細かく刻まれる屁は黄色い煙を伴い大君ケ畑を危なげなく滞空させた。大君ケ畑はその滞空を維持しようと適切な体勢を模索して、遂に見つけた。



「見るでござる!w 拙者は、人類初の放屁による空中待機姿勢を確立したでござる!w」



 その体勢は漢字の「出」を彷彿とさせる形であった。両手両足を体の横に突き出し、手首足首を上方へ構える。その状態で放たれる小刻みな屁は、見事大君ケ畑の巨体の滞空保持を実現させた。……幸いにも、その体勢で危惧される股間の露出は重力に垂れる豊かな腹肉により全貌を覆い隠されていたので、決定的な一線を越えるに至らなかった。



「ほう、屁によって生み出される浮力のみであの巨体を宙に保持出来るのか…。その屁の熱量、一体林檎幾つ分に相当するんだろうか」

「変な感想言わないでください!」



 調子が変わらぬのは大君ケ畑のみでなく、グパック教員もであった。真白はそのふざけた感想に鋭い注意を飛ばしながら、教室に回る黄色い煙を手で払っていた。周りの生徒たちも同様に手団扇で他所(よそ)に他所にと煙を自身の身に近付かせないよう奮闘していた。

 勿論、城下町少年もそうであったが不意にその屁が臭くない事に気付く。対応が少し遅れたこともあり自然とその煙を鼻から吸い込んでしまっていたのだが、放屁特有の硫黄臭が全く感じられなかった。然し、臭くないとは言え屁と分かっているものを吸気とともに体へ取り込むのは気分的によろしくない。城下町少年は努めて手を止めなかった。



「何があったんですか?! 今の光と音は何ですか?!」



 大声と共に慌ただしい足音が聞こえてきた。

 体育教師の小竹教員であった。彼は、他学年の体育授業中に強烈な閃光をグラウンドから見て、尋常ならざる爆発音を聞いてその発生場所であるこの教室までやって来たのだ。



「あぁッ! 肥満生徒が宙に浮いている?!」



 驚愕に黙りこくる教室において、その反応は実に新鮮(フレッシュ)であった。小竹教員は宙に浮かぶ大君ケ畑に驚くと、次に教室に充満する黄色い煙に気付き驚愕した。何かの化学薬品による発煙かと思い咄嗟に腕で鼻と口元を覆い隠すが、その煙と同色のものが滞空する大君ケ畑の尻から放出されている様子を見て「え? 屁?」と更なる驚愕に目を見張った。然し臭くない。嗅覚にも目立った害が出ない事を理解するとすぐ脇にいるグパック教員に気付き、小竹教員は勘弁してくれと語るかのような目をしながら話しかけた。



「グパック先生、また何かやったんですか…?」

「失敬な、俺は林檎を額で割る男だ。俺がやるからにはこんな黄色い煙は出さない。俺が出すのは割った林檎から放出される爽やかな香りと果汁だけだ!」

「アホな事ばっかり言うなや! グパック先生、俺に対して着いて来いって言うてたやんか、あんた何かしら解決出来る自信あってそう言うたん(ちゃ)うんかい!」

「いや、面白そうでワクワクしたから…」

「判断ミスった! くそっ」

「ちょっと! 見て! 大君ケ畑君が!」



 男三人の遣り取りが時間を潰し、そうしている間に大君ケ畑に変化があった。急がされた三人が真白の指差す方向を見ると、お大君ケ畑はブゥ、ブゥと屁をこいて「出」の体勢のまま窓に向かって漂い始めていた。その移動は決して屁の制御を失ったためのものではなく、自分の意思で明らかに何かしらの意図を持っての動きであった。右に、左に。屁で器用に進行方向を微調整しながらフラフラと全裸の肥満児が空中を移動する。この何ともコミカルで不可思議な光景に教室の誰もが現実感を持てず、皆まるで夢を見ているかのような面持ちで呆けていた。



「ホフマン! 何処行くねん!」

「折角空中浮遊が出来るようになったのでござるから、空中散歩と洒落込むのでござる!w」

「アホ抜かしぃ! 思い直せ! 屁ぇ()めろ!」

「ギュピッ!w 無理でござる~w」



 城下町少年の制止の声を一笑に付し、巨体はブゥウウと窓から飛び出して行ってしまった。



――――――――――



「ジョージ、どうだ? 取れそうか?」

「ググっ……あともう少しなんだが……」



 人がおらず、すっかり寂れてしまっている商店街。そこに化物兄弟の姿があった。何やら、建物と建物の間に設けられた謎の隙間に悪戦を強いられている様子だった。



「取れねぇ、やっぱり何か棒みたいなのを持ってくるべきだ」

「クソぅ…、さっき着信があったから早く出ないとならんのに。スマホが取り出せん事には連絡の折り返しようもない」



 隙間から右腕を引き抜くと、三三(さんのじじょう)は諦めた様子で代替案を三四郎へ投げかけた。三四郎は悔しそうに歯噛みしたが、どうにもならない事は分かっていた。

 どうも二体が仲良く商店街を散策していた中、三四郎が何かしらの拍子にスマートフォンを落としてしまい、それが悪い事に狭い隙間へ入り込んでしまったようだ。その隙間と言うのはスマートフォンより少し広いくらいの幅しかなく、三四郎の極太の腕ではどうあっても対処が出来なかったが、枯れ枝の様な腕であればスルスルと入って行くだろうと三三が救助に当たっていた。然しスマートフォンは三三の腕の長さよりも先に落ちているらしく、ここは何か棒状の物を持ってきてスマートフォンの向こう側をこちら側へ叩いて弾きだす他方法がなかった。



「にしてもよ、今の時分に電話が鳴るって事は、城下町とかじゃねぇか? 昼飯終わってるからお袋たちも特に用事があるとは思えんし」

「だとしたら学校で何かあったのかもしれん。今が授業中かどうか分からんが、ちょっと亜空間で見てくるか」



 そう言うと三四郎は『亜空間』を出現させ、そのまま動きを止めた。



「ん? どうした?」

「いや…」



 三四郎が『亜空間』を出した先、商店街のアーケードが途切れた道路に何かふよふよと揺れると巨大な影があった。三四郎はそれを見て動きを止めていた。動く影を黙って見ていると、ブゥと言う音が細切れに聞こえてくる。



「あれ何だ?」

「…ん! 鳥にしちゃデカいな…。飛行機もあんな丸くねぇし」



 影を作っている物体は、蒲鉾(かまぼこ)状の屋根が邪魔して三四郎達のいる場所からは確かめられなかった。そこで三四郎は一旦『亜空間』を消し、三三を連れてその正体を改めに歩き始めた。



 残暑厳しい季節、勿論陽もまだ燦燦(さんさん)と勢いを失っていない。アーケードを抜けても暫くはその強い日差しが逆行となり飛行する物体自体が影になってしまっていたが、直に目が慣れて二体の視線の先にその正体が明らかとなった。



「んー? ………ブッ! ガーハーハーハーハーハーハーハーハー!」 

「おぉっ?!」



 その正体が視界にはっきりと映ると、一体は高らかに笑いあげ、一体は驚愕に体をビクリと震わせた。

 空中に在り、地に謎の影を作っていた正体は全裸の肥満児であった。奇妙な体勢で黄色い煙を尻から小刻みに放出し、プワプワと間抜けに漂っていた。



「ハッ、ハッ…! 屁、屁で、屁で飛んでる! 屁、屁でぇ! ガーハハーハーハハハハーハハハ!」

「え? 人があんな事出来る訳……せ、準化物(セミ)か!」



 浮遊する肥満児が辿って来たであろう空中には黄色い飛行機雲のような物が残っており、それは城下町少年たちが通う湖西高校の方から続いていた。三四郎は得心した。先程の電話は、この準化物(セミ)絡みの内容だ。



「おいジョージ! 笑ってる場合じゃないぞ! あれは準化物(セミ)だ、さっきの電話はきっと城下町達からのヘルプだ!」

「お、おう。分かる、俺にも分かってる…。でも、屁、屁ェハハッハハ! ガーハーハー! ウワアアアッハー!」



 三三は抱腹絶倒で陽射しに焼けたアスファルトも気にせず転げ回っていた。呼吸も困難な程の爆発的な笑いを抑えられず、次第に酸欠を催したのかヒューヒューと呼吸が変わっていく。そして呼吸が落ち着くと、再度大声で笑い始めた。

 三四郎は頭を抱えそうになった。三三と生活を共にするうちに分かった事だが、三三はこういったくだらない事に極めて弱かったのだ。テレビを見ていても芸人が裸で出てくると吹き出し、体の特徴をボケに昇華させる芸を見れば笑いに倒れ、放屁が聞こえようものなら笑い声すら上げられずに無音で沈んだ。

 ある意味ではテレビ番組を十二分に楽しんでいるようだったが、こういったボケは三四郎にとっては少々下品に映っていた。面白いには面白いと思うが、何処か愛想笑い的な意味合いの笑いしか出てこず、その沸点においては三三との明らかな温度差を感じていた。



 そして、こうなってしまった三三は殴ろうが蹴ろうがそんなもの意に介さず気が済むまで笑い続ける。ここまでなってしまうのも最近では珍しかったが、兎も角三三は使い物にならない。三四郎は独力のみで放屁で飛ぶ男の制止に挑まねばならなかった。



「おい! おいお前! 何してる!」

「何でござる~?w 空中散歩ですぞ~w ヒュッ!」

「しゃ、しゃ、喋り方もッ! ガッ……ッハひ、………………!」



 発生して五年が経過していた三四郎だったが、時代錯誤な侍言葉を生で聞くのは初めてだった。三三も同じだったようで、肥満児の喋り方と独特な笑い方を聞くと今にも死んでしまいそうな生々しい痙攣を引き起こして無音で笑い始めた。その所為で一瞬、空飛ぶ男を止めるか三三の介護を優先するか迷った三四郎だったが、結局前者を選択して地上から声を掛け続けた。



「おーい! ちょっと降りて来い! 屁で飛ぶなんて人としておかしすぎる! 全裸も公序良俗に反するぞ! 個人による大気汚染行為は今すぐヤメろ!」

「……」



 空飛ぶ脂肪はしつこい声を上げる者を見下ろすと、人間と違うその様子を見て興味を持ったのかププププと放屁の威力を抑えてゆっくりと地上に降りてきた。

 改めてその姿態を見るとそれはもう酷い肥満体型だった。腹と胸が重くだらしなく垂れ、四肢はプクプクと膨れ上がってそこに首の埋まった幼い顔が相まり、、まさに巨大化した赤ん坊の様だった。三四郎には、何故男がその体で自立出来ているのか不思議に映っていた。



「その頭……人間ではござらんなw 三四殿のお知り合いでござるか?w」

「兄貴だよ、こっちに倒れてるのもそうだ。お前なんで屁で飛んでた?」



 更に特筆すべき特徴と言えば、黄色にくすみ発光していた事だ。体全体に纏わりつく黄色は、特にでっぷりとした腹に集中していた。空中浮遊もそうだったが、明らかに唯の人間ではない。



「屁で飛べるようになったのでござるから、空中での散歩を楽しんでいたのでござるよ!w ビヒュっ!w」



 化物にはその返答の意味は分かりかねた。

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