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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第六章
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005 空飛ぶ屁豚3




 最初に気付いたのは二次関数についての授業を行っていた数学教師だった。

 授業も終盤、幾つかの例題を黒板へ書き終えその説明と解き方を指南している折に、不意に生徒たちの方から淡い光が差してきた。その光は黄色だったが、煌びやかな黄金の輝きとは違い生木を燻しているかの様にくすんでいた。数学教師は不思議な発光の源を探るため生徒たちの座る教室を見回すと、一人のよく肥え太った生徒の腹に輝きを認めた。



 当の本人もそれに気付いていたようで、服の下から湧き出る謎の光に茫然としている。「キョトン」という表現が恐ろしく似合う表情をしていた。



「ちょっ…w えっ…w」

「おい、大君ケ畑(おじがはた)。お前授業中に何遊んでる。その腹ん中に何を入れてるんだ?」

「違いますぞ先生!w 拙者何も服の下に仕込んではいないですぞ!w」

「嘘吐け、じゃあ何だそれは」



 数学教師は大君ケ畑が授業中にふざけ始めたものと思っていた。だからこそ注意の言葉をかけたのだが、大君ケ畑の慌てようを見て何かおかしいと感じた。というのは注意と否定の遣り取りをしている間にも、大君ケ畑の腹から発せられる光は徐々にその強さを増してきていたからだ。前列の方の生徒たちが何が起きたのかと後ろを振り返り、その他の生徒たちも同様に大君ケ畑を見遣り突然の発光に(ざわ)めき始めていた。



 その様子を見ていた真白は目を丸くすると不運にも豆を食らった大君ケ畑に異常が起きた事を認め、カメラを立ち上げていたスマートフォンを手に取り素早く三四郎へコールを掛けた。然し、普段であればワンコール以内に出る三四郎であったが、何故かこの時は幾ら待っても一向に出る気配が無く、プルルルと間抜けな機械音がいつまでも途切れないでいた。



 (な、何で出ないの…?!)



 非常に珍しい事であったが、出ないとなるとどうしようもない。直ぐに切り替えて城下町少年へ電話を掛けようとしたが、その必要は無くなった。



「おいホフマン! 大丈夫け?!」

「じょ、城下町氏!w 拙者、死ぬんでござるか?!w 腹がいきなり光り始めたのですぞ!w」

「城下町君!」



 教室の後ろの引戸を勢いよく開けて、城下町少年が駆けつけてきた。何故かグパック教員も着いてきていたが、兎も角真白は城下町少年の下へ駆け寄った。三四は突然の事に身を硬直させて「えっ、えっ」と駆けていった真白と大君ケ畑の姿に視線を往復させていた。



「城下町君、三四郎さんに連絡が着かないの」

(うせ)やん! あいつ何時も直ぐに出よるぞ?!」

「それが全然ダメなの!」

「なんでこんな時に…クソっ」



 予想もしていなかった事に城下町少年は驚きを隠せなかった。今まで三四郎と連絡が取れない事など一切なかったからだ。何か別の厄介事にでも巻き込まれていてコールに気付かないのか、それとも単純に携帯が手元にないのか。いずれにしても、この場を自分たちの力のみで解決せねばならないという状況であるのは分かった。



「拙者、このまま爆発するんでござろうか?!w 死にたくないでござる!w」

「爆発するか知らんけど取り合えず落ち着け!」

「それは無理な相談でござるぞ!w こんな状況で落ち着いていられるなんて、それなんて主人公? って感じですぞー!w」

「お前全っ然元気やんけ! 何も心配いらん、多分死にもせん!」

「ファアアア!w」



 城下町少年と大君ケ畑が無駄な言葉を交わしている最中でもその発光はどんどんと苛烈を増していく。よもや本当に爆発の一つでも起きそうなほどの熱量を感じられた。そして、その光がまた一段と輝きを増して大君ケ畑はあまりの恐怖に叫び始めた。慄き、立ち上がる事も無く手をバタバタと動かして何とか発光を抑えられないものかと行動がちぐはぐになっていた。



「うわあああ!w 怖いでござる!w 怖いでござる!w 静まれぃ!w」



 恐怖に錯乱した大君ケ畑がパンっと右手で出っ張った腹をはたき付けた。謎の発光に対する意味のない抵抗手段として行われた挙動であったが、それと同時に何故か大君ケ畑の制服が上も下も全て吹き飛んだ。



「ふ、服が弾け飛んだでござる!w 『(なぎ)パト』のメグミちゃんみたいに、メグミちゃんみたいに服が弾け飛んだでござるぅう!w アワァアア!w メグミちゃんみたいにー!w」

「ガハハハハ! お前こんな時でも変わらんねや! ガハハハハ!」



 突然のコミカルに城下町少年の情緒が壊れてしまった。スマートフォン回収に消費された心身の疲労と、予想もつかない珍事への緊張感が起爆剤となり、それにコミカルな出来事が火をつける形で城下町少年を狂わせた。

 座ったまま服が飛び散り、全裸になった大君ケ畑が体中の脂肪を振り乱して絶叫している。緊張に予断を許さない状況であったが、恐怖に慄きながらも何時もと変わらぬ大君ケ畑の口振りを聞いて城下町少年は腹を抱えて大笑いし、あわや後ろへ引っ繰り返る勢いであった。



「城下町君、笑っている場合ではないぞ。この状況を酌めないのであれば、君はやはり林檎四つ分の存在価値だったと言う訳だ。彼を見ろ。君の反応を見るに、彼は平常と変わらぬ態度なのだろうが恐怖に顔が引き()っているではないか。あんなにも必死に………いや、脂肪が着き過ぎてそう見えるだけか? すまない、俺もよく分からん」

「ガハハハハ!」

「城下町君! ホントに笑ってる場合じゃないって! 目が…もう…」



 大君ケ畑の腹から発せられる光は熱を帯びながら拡散を続け、目を開けていられない程の熾烈を極める光量に教室を白く染め上げていた。真白は腕で目を隠しながら様子を見ていたが、それも既に限界だった。何かで視界を覆って防いでいても、視界の端から押し寄せる白い光に危険を感じた瞼が勝手に閉じていく。

 白熱を止めない光は、時折ビカビカと点滅を伴って生徒たちの視力を脅かし、やがて何もかもを白色に飲み込んだ。



「うわああああ!w」






 膨張を続けていた光が弾け消えたと同時に、バゴン、と短い轟音が響いた。

 教室中の全員の心臓を突き上げる、巨大で壊滅的な音であった。

 城下町少年は目を(つぶ)った暗闇の中で大君ケ畑が本当に爆発してしまったのかと肝を冷やし、真白はその轟音に(うずくま)っていた。



 熱された物質に水を掛けたようなシュゥゥという音だけが教室を支配しており、まだ誰も動くことが出来なかった。巨大な音が発せられてから実に十数秒の時間が経過し、そこでやっと城下町少年と真白は目を開く事が出来た。

 


 二人が大君ケ畑の座っていた辺りを見遣ると、爆発が生じて衝撃が流れた確かな痕跡を見て取る事が出来た。光にやられてぼんやりと霞む視界の中に、机や椅子が円を描いて散乱している。そしてその中心には仁王立ちする、くすんだ黄色いオーラに身を包んだ全裸の大君ケ畑の姿があった。



「ホ、ホフマン…!」

「城下町氏…」



 城下町少年が声を発した事で身の回りの安全を知った生徒や教師が恐る恐る目を開き始める。目を開いた者から順に荒れた教室の様子を見ては驚愕に瞬きし、開いた眼を更に見開き唖然とした。



 城下町少年は大君ケ畑に声をかけながら彼の体を隅々まで観察した。出血や外傷はなさそうで、無駄に(つや)のある鏡餅の如き肌があるだけであった。その姿を見てホッとするも、大君ケ畑は自身に起こった変化に戸惑っている様子で開いた両手に視線を落としている。



「城下町氏、何だか、体に黄色いオーラが纏って、力が漲っているでござる…。いや、正確には拙者の腹に恐ろしいエネルギーの凝縮を感じるでござる。拙者は、スーパー〇イヤ人になったでござるか? 髪型はどうなってるでござる?」

「しっとり、しとるで…」

「ほな〇イヤ人とちゃうか…」



 どこぞの芸人の様な台詞でいつもの大君ケ畑と分かった。精神にも異常は見られなかった。元々異常があったかもしれないが、それは城下町少年の良く知るものであったので大事ないと思われた。



 ……では、先程の爆発音は何だったのか?

 教室には轟音の衝撃を物語る崩壊が残ったままで、次々に正気を取り戻す生徒たちも同じ事を口々に言い並べていた。



「大君ケ畑君、さっきの爆発……大丈夫だった?」

「爆発…?w」



 真白が恐々と口を開いて大君ケ畑の安否と共に爆発音の原因についてを彼に尋ねた。大君ケ畑は真白の質問が何の事か一瞬分からず呆けた表情で聞き返したが、少し考えて「あぁw」と合点がいったように呟き、そのまま続けた。



「あれは拙者の驚きっ屁でござるよw」

「な、なんだ…オナラだったんだ……」

「なんや、唯の屁ェかいな。ほら良かった…」



 とはいかない。

 城下町少年は安心を口にしてから慌て始めた。



「良ぉないわ! あれ屁やったんか、教室滅茶苦茶やんけ! 何しとんねんホフマン!」

「酷いでござるよ!w 驚いたら屁も漏れるでござる!w (いわ)れの無い非難はやめて頂きたい、ジュギュッ!w」



 大君ケ畑は全くもっていつもの調子を取り戻していた。それを見た生徒たちは各々確定した安心に表情を(ほころ)ばせ、爆発の事など直ぐに忘れて笑い声を上げ始める。「なんちゅう屁や」「オーラまで出て漫画やんか」「キャア! 大君ケ畑くん裸やん!」など、ハハハとまるで事が終息したかのような雰囲気を醸し出している。



 そんな彼らとは正反対の表情で大君ケ畑を見詰める城下町少年と真白、それからグパック教員に空気になっていた三四。

 特に城下町少年と真白は、大君ケ畑が準化物(セミ)化したその様子に強い緊張感を持っていた。

 イヤーンの説明では、あの豆は良方向へ準化物(セミ)化を固定するはずだった。然し、先程の爆発音を轟かせる屁とその威力を垣間見て、危惧していた例外が起きてしまったと焦りから冷や汗を額に滲ませていた。



「ホフマン、取り合えず」

「あっw 安心したらまた屁が出そう……我慢ならんでござる!w で、出るッッ!!」



 ブッともドカンとも取れる轟音が再度鳴り響いた。先程のものと比べると可愛いものであったが、尻からは黄色くくすんだ煙が大量に噴き出し、あわや天井を貫かんとも知れん勢いで大君ケ畑の巨体を宙に舞わせた。

 凄まじい威力の放屁に、安堵で緩んでいた教室も再度の緊張感に支配された。教室がその緊張感から静まり返った時、大君ケ畑は呆けた表情でドスンと鈍い音を立てて足から着地した。そして黄色いオーラを纏った自身の体を再度確認すると、汗を一筋。両手をわなわなと震わせて、「そうか」と何かに思い至った。



「す、全て理解(わか)ったでござる…。拙者の屁は、人の域を超えた兵器となったのでござる…。この暴力的な威力、なのにもう次弾の装填が完了している腹中。拙者は恐るべき屁袋(へぶくろ)となってしまったのでござる…」

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