閑話休題 ピカタ三四誕生秘話2
「お袋よぉ」
「なぁに? 三四郎」
三四郎が三一や三三達と暮らし始めて暫くした、とある昼下がりだった。
昼飯を片付け、居間で寛いでテレビを見ているミ一に三四郎が後ろから話しかけた。畳の上に置かれた丸テーブルに温かいお茶とお茶請けを用意し、座布団に正座しながらだったミ一は不思議そうに振り返った。横には同じく座布団に正座する超身長の三四が煎餅を貪っていた。
「その三四って妹の事なんだけどな」
「三四ちゃん? 三四ちゃんがどうかしたかしら?」
「どうしたもこうしたも、この前俺が街から帰ってきたらいきなり現れてそれから一緒に暮らしてるが、結局のところこいつどうしたんだ? 拾って来たのか?」
…………………………
三四郎が山奥に居を構える事になった当初、一緒に生活を共にする化物は三一のみで後はその妻としてミ一が一緒にいただけであった。後に湖ではしゃぐ三三と出会い、意気投合して家族として迎えたがまだそこに三四は存在していなかった。
三四との出会いは三四以外の家族が揃った年、三四郎が街に降り立って三年目の事だった。
三四郎はその日街に降りて商店街を探索していた。量販店の勢いに圧され人影少なくなった商店街、所々灰色のシャッターが下りており、そこには絵心ある非行少年たちのカラフルな落書きが施され逆にいい味を出していた。
その寂れた商店街の中にある生き残り達。今日の三四郎の目当てはそういった店であり、この街の古きを知るための行動であった。
商店街の探索を終え、手には熱々の豚まんを持ちホクホク顔で帰宅した三四郎。亜空間から玄関の前に降り立った。良い物が手に入った、今日はこれを親父とお袋と一緒に食べようと上機嫌。この時、三三は兵庫県の山奥の方に足を延ばしていて家にはいなかった。
「帰ったぞー! 良い豚まんがあった、皮は薄くてしかしもっちり。肉餡は適度に柔らかくてアツアツ、香辛料が上品に香る上等品だ!」
玄関を開け様大声で朗報を叫び、その声が家中に響き渡ると奥からドタバタと三四郎の声に負けない大きな足音が駆け寄ってきた。
重量を感じる足音からして、三四郎は三一が駆け寄ってきているものだと思った。そんなにこの豚まんが食べたいのか、ならばこの豚まんを誇らしげに三一に自慢してやろうと思い、豚まんを一つとって三一が到着する頃合いを見計らいガッと正面に突き出した時である。
「わーい! 肉まんだぁ! 肉まんって何ー?」
バカでかい声が三四郎の両鼓膜を貫き、破いた。夥しい出血に頭痛が発生し、また脳が揺れたのか蹈鞴を踏んで三四郎は後退りした。
女の様に高い声、それに幼い。直ぐに三一ではない事が分かり朦朧とする意識の中、三四郎は何者かと現れた巨大な影を凝視した。
それは、恐ろしく高い女だった。九尺半ある天井に逼迫するところを見るに、その身長は約九尺前後。見事な凹凸を体に宿し、少し癖のある腰まで届くブロンドの髪を靡かせていた。瞳は、バランのように然し整然とした睫毛を羽織ったまま、宝石の如く絢爛たる光沢を放ち、美しかった。
人間を模倣した形ではあったが、あまりの超身長に三四郎は視界の縮尺がおかしくなったかと思った。
「お…? だ、誰だ?」
「四兄ちゃん、…お帰りっ!!」
二度目のカノン砲は三四郎を表へ吹き飛ばす威力を持って炸裂した。ドッという衝撃と共にゴオっと突風が吹きつける。百二十五キロの肉体は土の上へ無様に転がった。
肉まんが周囲に散らばり土に塗れる中、三四郎は突如先制攻撃をしてきた超身長の女と、「四兄ちゃん」という言葉に目をかっ開いて驚愕していた。上体を起こしたまま、その超身長を見上げた。玄関の天井いっぱいにある人型の巨躯は、見間違いではなく明らかに人間の大きさではなかった。
これが三四との初対面であった。
…………………………
「違うわよぉ、捨て猫じゃあるまいし」
「じゃあ何なんだよこのデカブツは、どっから湧いたんだよ」
三四郎は三四を指差し説明を求めた。問題の本人は煎餅を平らげ、呑気にもまだ物欲しそうに塩気の残る指先をペロペロ舐めている。問題意識は皆無に見えた。
「うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど、これからも一緒に生活していくんだもの。ちゃんと話さないとね」
そう言うとミ一は三四郎にも座るよう促し、体を三四郎に向けて話し始めた。
――――――――――
三四郎が街に降りて行った後、朝食の跡片付けと洗濯と掃除を終え昼時を迎えた。その日は珍しく三一が昼食に焼酎を持ってきていた。
「ミ一よ。これはな、ちょっとだけ良い酒なんだ。ちょっとだけ値が張ったが、これは儂の仕事が漸く軌道に乗ったお祝いとして、その一区切りを迎え更なる邁進を続けるための気付けとして大切にしまっていたものだ。……であるからして、陽はまだ早いが一緒に呑んで貰えないだろうか?」
「はい、喜んで」
ミ一は三一が何の仕事をしているのか知らなかったが、毎日自室に籠って何やら大人数と喋っている事だけは知っていた。過去の社会人経験からリモートで何処かしらと遣り取りをしているのだと好意的に解釈していたが、どうもそれに成功の兆しが見え始めたらしい。上機嫌に酒瓶を振り上げる三一を前に、無粋な質問はせずにその喜びを一緒に祝おうと笑顔で返答した。
「うむ、美味い!」
「焼酎は初めてだけど、美味しいわぁ」
透き通るグラスに注がれた滑らかな酒。一般に消費されるものと比較するとその滑らかさは確かに品質の高さを伺わせる、実に清らかで薫り高いものであった。まずはロックで一口含むと、アルコールを感じるとともに鼻に抜ける淀みない清々しい薫り。一人と一体はその芳醇な味に舌を唸らせ各々にその美味を賛美した。
「値段の分、やはり美味い。これは良い買い物をした」
「本当に美味しい。ちょっとだけって言ってたけど、もっと高いんじゃないかしら?」
「まあまあ、細かい事は気にしないでだな、この味をもっと楽しもうじゃないか」
水割り、お湯割り、ソーダ割り、またロック。そうやって色々な確かめ方をしている内に、用意された昼飯も次々と消費されていく。度数の高い焼酎という事もあって、酒にそこまで自信の無かったミ一は途中でオレンジジュースに切り替え三一だけが飲み続けた。
酒瓶の三分の二が無くなった所で三一が完全に出来上がり、紅潮する顔で謎のポージングを遣り始めた。
「ミ一! どうだ、儂の躰は!」
「力強くて逞しい、それにとても綺麗よ」
「そうだろう! お次は人間の催すボディビルという祭りにおいて人気のダブルバイセップスだ!」
二本の剛腕を曲げ極大の力瘤が漲る。その腕を地面と平行になるよう挙上させると、ムササビの飛膜の如く広がる広背筋が厚さを伴って巨躯の迫力に拍車をかける。空を見上げる三角筋上部は盛り上がる上腕二頭筋と共に山脈の如く屹立し、それらに引っ張られる両の大胸筋は広大な大地を思わせる程荘厳であった。
愛する夫の躰の迫力にホゥっと頬が緩まるミ一。小さめの拍手でヤンヤヤンヤと三一を褒め称えていた。
そして、素晴らしい肉体を披露する三一に当てられたのか或いは程良い微酔に気を良くしたのか、ミ一も三一を真似てたどたどしいポージングをし始めた。
「貴方、こうかしら?」
「む! 良いぞミ一! 肉体が冴えわたっている!」
一体と一人以外誰もいない山奥の家。
酒も回り、イチャイチャとポージングを繰り返す奇妙な光景が繰り広げられていた。
「貴方貴方、見て見て。ダブルバイセップス!」
「いいぞ! いいぞミ一!」
甘える様な声を掛け、むん、と件のポージング。三一のものとは違い迫力はなく、やる気満々なガッツポーズの様な形だった。
然し今は酒の場。上機嫌な三一、羽目を外すミ一。
そして一人と一体は一緒にダブルバイセップスを完成させると、突如傍らに閃光が走り、遂にその時が来た。




