閑話休題 ピカタ三四誕生秘話1
色取り取りの花弁が客を迎える、オシャレで活気ある喫茶店。
不味い飲食物が目白押し、そこだけ変わらぬ……いや衝撃の度合いが上がった『魔女のコーヒー屋さん』。懲りずに来た城下町少年と真白は化物の友人、ピカタ三四郎を正面にコーヒーを放置していた。
「あのね、三四郎さん」
「ん、なんだ」
「三四ちゃんの事なんだけど」
「おぉ、なんかやったかあいつ」
明るい店内に咲く神妙な面持ち二本。城下町少年も困った顔で三四郎を見詰めている。そんな二人に反して店内は客に賑わってしまっており、コーヒーによる銃撃の被害者はまた今日も増え続けていた。
「ちょっと城下町君とも話してたんですけど、三四ちゃんってかなり純粋と言うか、幼いと言うか」
「せやねん、アホなんちゃうかと」
「城下町君!」
煮え切らない真白の物の言い方に城下町少年はイラチになって、端的な言葉に置き換えてしまった。真白の注意が走るのも頷ける。然し三四郎には城下町少年の言い方の方が分かりやすかったようで、「あ~」と何となく分かったような唸り方をした。
「この前も先生が欲しがってそうだからって理由で右目を自分で取っちゃったし、ちょっと周りへの影響にも心配が出てきたかなって」
「俺もそれ聞いてよ、確かに行動が突飛な訳やんか。三四郎も別にそんな事無くもないけんども、それにしてもちょっと他のジョージとかとも違う感じやし」
「あいつ半化物だしなぁ」
三四郎の半化物という言葉に、二人は顔を見合わせた。知らない名称だ。準化物ではないのは分かっている事で、ともすれば人間と化物のハーフと言う事であろうか。
「そうか、お前達には詳しく話してなかったな。純粋な化物は俺とジョージと親父だけだ。お袋は準化物で、三四は親父とお袋の娘だ。…あれっ、そうなると四分の三が化物だからハーフじゃなくてスリークォーターか? 面倒臭ぇな、まとめて混血って呼ぶか、そうしよう」
三四郎はどうも長ったらしい呼び方を嫌うらしく、度々代わりの短い言葉を考え当て嵌める事があった。今回もその踏襲だったが、用意していたものよりも良いものが見つかり早速そちらに変えた。兎も角、城下町少年と真白は三四が混血という存在である事を知った。
「ほんで、その混血やと三四郎達とどう違てくるんや?」
「そうだな、一番顕著なのは精神の成熟具合だな。お前たちが三四を子供っぽいと思うのもそれが原因だ。
化物たちは個体差はあるもののこの世の事を大体知った状態で発生するんだが、精神に関しては最初は未熟だから結構衝動的にやりたいように活動する。そんで生活とかしてって時間が経つに連れて精神も成長して丸くなっていく。これが早い、人間の七~八倍くらいの早さだ。俺は発生してから五年だから、人の年齢でいくと三十五~四十歳くらいの物の考え方をする。親父は七年だから四十九~五十六くらい、ジョージは六年で四十二~四十八……まあ大体だから精確ではないし、成長が止まる場合もある。
それが三四の場合は混血って事もあって中途半端な形だったんだな。俺やジョージが知ってるような事を知らなかったりっていうのは当たり前だ。それに精神の成熟速度もどうやら遅いみたいで、とは言っても人間よりは早いぞ? 多分三倍くらいだ。そして発生からは三年目だから精神年齢はまだ九歳そこらで本当は高校に遣る事も反対だったんだが、逆に小学校に入れる方がヤバイ事になりそうだったし、中学校はタクシーの停留所が近くに無くてな……高校だったら卒業するくらいには近い年齢だろうと親父とお袋が言うもんだから…」
少し愚痴っぽくなってきたところで真白が少し宥めた。本当は「コーヒーでも飲んで」と言いたかったが臭いを嗅いでやめた。「ちょっと落ち着いて」と無難な言葉で三四郎は落ち着いてくれたようで、腕を組んで次に話す事を考えている。
「精神年齢が九歳くらいか……まぁ納得やわな」
「そうだね。でも行動が人間の範囲内で収まってきてないんだよね…」
眼球を躊躇なく取り出す異常な行為。それに関しては三四郎も理由は分からず、然し化物は自分が出来る事を本能的に分かっているために特に自身を脅かすものではないと判断してその様な行動をしてしまったのではないか、という事だった。
三四郎も分からない化物の事情にあれこれ思料を巡らすのは意味がない事だ。城下町少年と真白はそう思って、更に気になっている事を問いかけた。
「三四郎さん。さっきから三四ちゃんが混血って言ってるけど、そんなのどうやったら人間と化物の間に子供が出来るの?」
「も、もしかして普通に男女の…」
「城下町君!!」
城下町少年の破廉恥な想像に真白が赤くなって注意を促す。先程よりも大きい制止に店内の客が一度三四郎達に注目するが、直ぐに自分たちの会話に戻った。
とは言え、城下町少年の想像も仕方がない事である。人間や動物の子孫を残すための行動に生殖が存在している以上、そこに考えが集まるのは当然の事だ。
「…まぁ、私達人間はそういう事をして子供を作るのは間違いないけど…」
「えっとなぁ、申し訳ないが全然違うんだ」
「ど、どう違うんや?」
真白から注意を受けたにも関わらず、ごくりと唾を飲んで先を促す城下町少年。興奮に瞳を湿らせ鼻孔を膨らげる弱弱しい顔は大変気持ちが悪かった。真白もそんな城下町少年の表情を見ると何かと言う気持ちが失せ、赤い顔のまま嫌悪の視線を横から投げつけるのであった。
「化物の発生は、『化物因子』が周囲の有機物質を掻き集める事で起きる。つまり、人間みたいな性交は必要ない訳だ。俺たちはそんな貧弱な存在でないからそんな非効率な事はしない。
で、だ。三四の発生についてなんだが、これは本当に意味が分からん。俺も気になって、三四と一緒に居る時にお袋に聞いてみた事があるんだが、勿論化物と人間の間に性交はなかった。化物には生殖機能がないからしたいと思っても不可能なんだな。真白、恥ずかしい思いをしている中すまんがこれから話す事にお前が考えているような事は一切出てこないから安心してくれ」
「わ、私そんな事考えてません!」
不意の言い放ちに真白が慌てて両手を激しく振るが、全く考えていない事はなかった。だからこそ頬を赤く染めているのであったが、一人のうら若き乙女がそれを肯定する事などそうそうない。正しい反応であった。
「これからお袋に聞いた時の話をする。別に知ったとしても何の益にもならない、結構どうでもいい話だがお前らが知りたいなら隠す程のものでもないしな…。とりあえず長くなるからこれでも食いながら聞いてくれ。ここの飯はあれだからな」
そう言うと三四郎は嘗て城下町少年にそうしたように、亜空間から湯気立つ豚まんを二つ、取り出した。
「辛子はいるか?」
「前にソレすんなって言わんかったけ?」
「そうだったっけ?」
惚けた様子だが、まるっきり覚えていないでなかった三四郎。そう言えばそんな遣り取りもしたな、と少し懐かしくなって、微笑んだのか微笑んでないのか変化に乏しい表情で穏やかにいた。因みに真白は股間から取り出されたホカホカの豚まんを嫌そうに見つめ、決して受け取る事はなかった。剛腕に差し出された豚まんはただ熱を失うだけだった。




