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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第四章
33/89

閑話休題 新学期



 まだ夏虫もやかましい九月、長い夏の休暇が終わり、湖西高校にはぞろぞろと沢山の生徒たちが登校していた。有意義な休みを送れた者、怠惰に過ごした者、各々思い思いの夏を過ごし、新しい学期の始まりだ。



 玄関口から少しの距離にある階段を昇り、三階にある三四の登校するクラスにも、段々と生徒たちが集まっていき、その賑やかさを増していく。因みに、この湖西高校は三階から一年生のフロアとなっており、二階は二年生、一階は三年生と年を上げるごとに主とする階を降ろしていく様式を採用している。三四のクラスは二組で、階段手前の一組と最奥の三組に挟まれた教室であった。その教室内からはあちこちから久しぶりだの、何をしていただのと、下らない話が飛び舞っている。そんな中、窓際の中列程に男子の二人、何やらヤイヤイ喋っている。一人が着席しており、もう一人は今しがた登校したと見え、着席する男の横の席に学生鞄を降ろすところであった。



「久しぶり」

「おー、焼けたなぁ。ずっと遊んでたか?」

「福井で海釣りやっとったわ、淡水は飽きたでな」

「そうかぁ」



 何の特徴もない、こちらも下らない話である。まだ暑い陽光が差し込む窓際で団扇を仰ぎながらの、互いの確認作業であった。



「夏休みあんま一緒に遊ばんかったよなぁ、釣りばっかりか?」

「まぁそうやなぁ。ほんでも学校に来るの楽しみで毎日何しても手ぇつかんかったわ」

「お前もか、俺もやねん」



 休暇終わりの生徒とは思えない真面目な話だ。大抵は余り過ぎる時間に腐り、新学期には登校・勉学再開の鬱陶しさに愚痴をこぼし合うのが通例のような気もするがこの二人はどうも違うらしい。クーラーも何もない、良くも悪くも古きを尊重した教室で汗を垂らしながら話は続く。



「ってことは、やっぱし三四ちゃんか?」

「そうや、楽しみにしてたんや」

「俺もなんよなぁ」



 男子はどうあっても男子である。化物、三四はその丈九尺を誇る超身長。その体に麗らかな凹凸を宿し、普通の人間であれば美少女の類の端正な顔立ちをしている。加えて腰まで届くアジア人には珍しいブロンドの長い髪。そんな現実離れも強烈な三四に、この二人は完全に魅せられていた。そして、その下種な話は登校してくる生徒たちが増えてきているにも関わらず、次第に加速していく。



「最初はヤバイのが来たと思っとったけど、慣れてくるころにはもう三四ちゃんにメロメロよ」

「お前、正直すぎひん? でもよぉ、その通りなんよなぁ。あの身長、脚の長さ! 俺たちの顔の前に太腿とかケツとかあるんやで、プリっプリの」

「そうなんよ、前を通り過ぎる度に何処からなんか知らんけど、ええ匂いがするんや」

「キッショっ、変態やん」

「はぁ? ええ匂いするやろが、真面目ぶんなや。それに下半身よりもあのおっぱいや。あの体で巨乳やで、俺たちにとっては爆乳以上やぞ」

「お? 何や、脚とケツやろがい」

「戦争け? おっぱいやろ」



 加速度合いは非常に低俗で聞くに堪えない。然も、互いの低俗具合に喧嘩でも始まりそうな勢いで、甚だ滑稽である。だが、女性を恋愛対象とした男子たちは、彼らを笑い飛ばすにはまず一考してみるがいい。大抵の記憶に、そういう低レベルな思い出もある事だろうから、そんな事が無かった者だけが彼らを笑うがいい。女子達よ、どうか彼らを見捨てないであげて欲しい、悲しい男のしょうもない(さが)なのだ。



「コノヤロウ、三四ちゃんの事なんも分かっとらんやんけ。あの脚の瑞々しさを見ぃや、パツパツに弾力も感じられるやろが」

「そん台詞返したるわ、抱きすくめられた時に感じるあのおっぱいに魅力を感じひんお前は異常者や」

「抱きしめられた事ないやんけ、妄想で話すんなボケ」

「おうコラ、脚ばっか舐めて見とるお前に言われたないわ」



 どこまでも低俗に、更なる低みへ。売り言葉に買い言葉、生徒たちがほぼほぼ集まり切ったところで互いの感情は暴走し、とうとう掴み合いに発展してしまった。ボケコラ、タココラと汚い言葉を大声にして、教室中は彼らに注目せざるを得ない状況となった。新学期から何をやっているのやら、整頓された机を掻き分け、倒し、中身をぶちまけ、男二人は絡み合いながら低俗な主張を続けた。



 その最中、偶然にも騒ぎの渦中にある教室の前を通った城下町少年は、何事かと遠巻きに様子を見た。が、発される咆哮の一つ一つに卑猥が混じっていることを認めると、その下らなさに呆れながら職員室へ向かうため、元来た階段の方へ体の向きを変えた。別にそんな事をする義理もないのであるが、そこは大人ぶったというよりは、この年頃特有の少し物事を穿って見る実に見当違いな自惚れからの行動であった。勿論、急を要す程の加減ではないため、特に急ぐことなく「やれやれ」とのんびりと歩みを進めた。



「この! おっぱいやろが!」

「ボケ! 脚ケツやろがい!」



 男子たちは馬鹿にしたように、女子たちは嫌悪を含めて静かに笑い、或いはそれを堪え、喧嘩沙汰に免疫の無い者たちは事の成り行きを不安に見つめていた。ドカドカと机たちを薙ぎ倒し、移動しながらのもみ合いだ。さて、下卑た内容から喧嘩の発端を見た生徒たちは誰一人その騒動を治めようとせず、寧ろもっとやれと言わんばかりに煽りを飛ばし始め、この状況を楽しんでいた。なんと酷く残忍な集団心理だろうか。誰かが先生に告げに行くだろうと思い、教室に居る誰もが自分から動くことはなかった。



 そうして、片方の男の鼻から鮮血が飛び出したところで、漸く廊下から慌ただしく走り迫って来る存在があった。



「コラコラコラコラ~! 何している~!」



 これでこの実に下らない二人の主張も叱られ、いなされ、落ち着きを取り戻すことになるのだろう。話の中心である三四が登校する前の決着で、何よりではないだろうか。然し、新学期の始まりとしては、少々、いや余りにも下品な話であった。ここで終結を見れば、それで終わるだけのつまらない話であった。そんな場面に、タイミング良く三四と真白が揃って到着した。

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