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化物列伝ピカタ三四郎  作者: ピカタ三四郎
第二章
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005 ハードパンチャー2



「ハードパンチャーである俺のハードパンチを耐え抜いたことは褒めてやろう、しかし体力の回復が済んでからのハードパンチャーのハードパンチをもう一回耐え抜くことが出来るかな? 全力となったハードパンチャーのハードパンチは、ハードパンチの中でも特に一級品のハードパンチだ。ただのハードパンチとは比べ物にならない至極のハードパンチだ。ハードパンチャーの真のハードパンチはお前の気概さえも粉々に砕くハードパンチ……、ハードパンチャーの強さを存分に味わうことになるぞ? それでもお前はハードパンチャーに立ち向かってくると言うのか? お前もまた志がハードパンチャーなのか? どうなんだ? でもお前はまだハードパンチをしてきていないし、そうするとお前はハードパンチャーではないのか? そんなデカい体をしていながらハードパンチャーではないというのか? 俺はハードパンチャーだぞ?」

「ハードパンチャー、ハードパンチャー、五月蠅いな! お前がハードパンチャーなのは分かったから、少し黙ってくれ。一息に同じ単語ばかり聞いてると気が狂いそうだ」

「ふふ、俺はハードパンチャーだ。ハードパンチャーはハードパンチャー故に言葉の使い方さえもハードパンチャー(ハードパンチャー)…。お前の脳を揺らす」

「あ゛ぁ゛!! 止めろぉ!」



 にやけ顔の狂人との会話に、さすがの三四郎もイラつきを抑えられていなかった。時間も結構経っているのに、後ろの会話も答えが出ないため、三四郎は愈々我慢の限界が来そうで、体中に太い血管を現しながら闘牛宛らにその場でもんどり打ち始めた。

 三四郎がじたばたしている一方、その他の化物たちはアレやコレやと余念がない。一つ出てはバツを付け、一つ出しては対を出され進捗しない。それだと言うのに案は尽きるまで出そうとするのだから質が悪く、事が運ぶまでに更なる時間を要した。



「ダメだよ、それじゃあの人死んじゃうもん」

「そうだよな、お袋は何かないか? もう人間の立場で考えるにも俺たちには想像が着かない。親父だってこの通りだ」

「あぁ、うん、あぁ、そうだな、儂も…ふぅむ」

「そうねぇ…」



 回答を振られたミ(みひ)は、今度は尻餅つく少年を気遣いながら顎に指を遣り、クククと考えるとやおらその指を弾き、



「じゃあ三四郎の亜空間に仕舞っちゃえば?」



 とあっさり言った。要するに、攻撃しても放置しても危ないのだから、誰もいない空間に詰込んでこの場を遣り凌ぐ、解決の後回しを提案したのだ。化物たちに電流が走る、「その手があったか!」と。解決するにも、打つ手段に危険(主に狂人に対して)が付いて回るというのであれば化物たちにとってこれ以上安全な方法はない。各々、腹落ちして膝を叩き、得心した。



「三四郎! 亜空間だ! 亜空間に閉じ込めるんだ!」



 三三が声を掛けるも、辛抱堪らなかった三四郎は心素直に狂人相手に絡みつき、ギリギリと締め上げていた。力いっぱい、然し顔色は白のまま血管だけ浮き上がり正に化物ここに極まる姿で、ついでにヘッドバッドをちょこちょこ当てていた。何発もくれる三四郎の頭部攻撃に嫌がる狂人も、是に負けじと何とかパンチを繰り出そうとし、抵抗を止めることはなかった。



「おのれ化物め! 打撃選手(ハードパンチャー)関節技(コブラツイスト)とは教理に反するぞ! 拳で勝負しろ! ハードパンチャーだぞ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

「四兄ちゃん! デコピンデコピン!」



 三四の爆音に動かされ、右腕だけ拘束を解いた。相手を締め付けたまま右手の親指に中指を引っ掛け理想的なデコピンの形を作ると、それを喚き散らす頭部に持って行く。じりじりとした動きだったが、怒りのままに動き暴れる血流をも目視出来そう程の生きる太い血管が手の甲を所狭しと覆い走っており、正直なところ気色が悪かった。



「離せェ! 此れしきの事で止められるハードパンチャーじゃないぞ! 何故なら俺はハードパッ」



 三四郎が指を放つと、それと同時にハードパンチャーは音も光もなく消えた。無事、亜空間に転送出来たのだろう。抵抗するモノが無くなり、前につんのめる三四郎。然し、此度の元凶が跡形無くなってもは怒りが収まらない化物は、暫くは鼠花火のようにバチバチと狂い回っていた。



…………………………



「三四郎さんって、他人を亜空間に送ることも出来るんですね」

「あぁ、さっきみたいにデコピンすると勝手に行く」



 事が終わると、三四郎は漸く真白達に声を掛けた。怒りを潰すことに時間は掛ったが、平静を取り戻すと原因となった顛末を少年少女にも説き、これからああいった類に出会ったらすぐ連絡するように、という約束事を取り付けた。超常の事態に城下町と真白は一瞬の驚きは見せたものの、化物がいるのだから変な事も起こって当然かと夫々無理矢理納得した。


 それから、三一(みひと)に買ってもらったジュースを飲みながら一息付いた城下町と真白は、三四郎による化物家族の紹介を受けた。



「お嬢さんが真白さんで、少年が城下町君か。三四郎と三四をいつもありがとう。こんな事があって申し訳ないが、どうかこれからも二人と仲良くしてやってくれはしないだろうか?」

「それは勿論、もうずっと友達ですから」

「グゥっ、…美しい友情だ。これだから人間はヤメられねぇ…」

「このバカは三三(さんのじじょう)と言って、七面倒臭い名前だから俺はジョージと呼んでる。残念ながら俺の兄貴だ」

「今バカにしたか?」

「三四郎と全然ちゃうなぁ、俺みたいガリガリやん」

「そして、こっちがお袋だ」



 抜けたやり取りを交わした後、程なくしてミ一が人間であることを知ると、二人は『化物は化物だけで家族を構成している』と勝手に思っていたために度肝を抜かれる事になった。人間には無理も無い事ではあるが、「常識はそれほど一般的ではない」というヴォルテールの言葉を推測・考察等含まず素直に受け取ると、少年少女は斯くもそれに合致したシーンを垣間見たことになる。事実は小説より奇なり、そういった事もあるのだ。



「取り合えず、これでこいつに関しては三日は大丈夫だろう」

「三日だけけ?」

「ずっと入れておけないんだ。何か入ったままだと勝手に追い出すんだ、この亜空間は」

「亜空間操作もそんな弱点があるんですね」

「仕方ない、俺たちは万能じゃないからな」



 三日の後、また解き放たれるであろうハードパンチャー。その時までに、何とか根本的解決を図る妙案を絞り出さねばならない。『化物因子』を取り除く他解決は有り得ないと思われるが、是がまた難解極まりなく、人間の知恵でどうにも為らぬのは当然、化物当人たちですら想像し得ないのだから手の立てようがないのだ。一度焼けた肉を(なま)に戻すことなど、夢にも叶わぬ無理難題なのである。



「でも、一旦落ち着いたわね。二人とも今日は折角の休日だったのに、ごめんなさいねうちの人たちが」

「そんな、あのパンチの人が悪いんですし…」

「そうですよ、あいつがおらんかったらこんな事なってないですさかい」

「そう? ありがとね、気を遣わせちゃったかしら? 時間も時間だし、そろそろ帰りましょうか」



 化物家の母が今回の騒動に円を閉じようと言葉を続ける。少年と少女は、未だ(かつ)て陥った事のない疲労で頭から足のつま先までフワフワ痺れる感覚に包まれていた。今日の入浴と寝床はさぞ気持ちが良い事だろうと、真白はふと疲れる笑顔で考えたが、次のミ一の言にゾッとする感情を思い出した。




「それとも、まだ時間はあるし、(うち)で晩御飯とか如何かしら?」




 真白にフラッシュバックする壮絶な幸福体験。記憶に広がる口内の薫り、悦、強制の快楽。

 頭の中に、何とも形容し難い色鮮やかに重なり緩やかに曲がる光が炸裂し、その光が目にも見えてくる。ともすると、いきなり仰向け様にぶっ倒れる。疲労によるところも大きかったのだろう、涎が垂れ泡を吹き痙攣も惹き起こしている。化物たちと少年は心配に駆け寄り、突然にも(おとな)った事態に慌てふためいた。結局、少年が百十番で救急車を呼ぶ騒ぎとなり、ほっとした雰囲気は束の間、目の白い部分を露にして転がる真白を起因とし、一瞬で崩れ去った。



…………………………



 帰宅ラッシュに阻まれ遅れる事約十八分、救急を報せる号笛(ごうてき)を伴い到着した白い車。到着後速やかに降車した隊員二人によって酸素マスクを被せられ、真白は担架で担ぎ込まれていく。少年が上手い言い訳をして少女の身に起こった不幸を伝えていると、その際に、真白はまだ嫌悪尽きない少年に対して、吐息交じりの声で「ご飯」「行ってはダメ」と小さく呟いた。少年は何事か察したようで誰に応答するともなくゴクリと唾を飲み込み、隊員は是を譫言(うわごと)と取り、急いで車の後ろ扉を閉めると再び号笛を赤く飛び散らせ病院のある方へ去って行った。



「大丈夫かな、真白ちゃん」

「三四、また見舞いに行ってやりなさい。人間はそうやって元気を養うのだ」

「うん…」



 友人を思う三四、顔もしょぼくれてしまっている。



 色々あり過ぎた、今日は。



 三四郎も疲労に困憊し、打撃の数だけ凸凹になった顔を手で撫ぜると「思ったより大変な事になってきたんじゃないか?」と、何だかなぁと緊張に力んでいた肩を降ろした。



「城下町少年、今日はご苦労だったな。これは君の本だろう。今日はもう帰ってゆっくり読んで休みなさい」



 落ちていた紙袋を少年に手渡すと、三一は優しく諭した。化物たちも少年を見送ると再び三四郎の亜空間を経由し、住処へ帰って行った。



――――――――――



 その夜、ピカタ家は久々の勢揃いで夕餉を囲んだ。暑い夏の夜、あえての沸き立つ味噌鍋。ピカタ家で一番人気は大きめに切られた厚めの油揚げ。味噌の色に淡く染まり、こんこんと湯気が立つのも気にせず、口に捻じ込み(おもむろ)に噛み締めると、熱と共に発酵大豆の旨味が満載の出汁が溢れ、舌も内頬も火傷しながら食うことだけ考えて食う、是が旨いのだ。無論、火傷を慰める冷たい飲料も忘れない。



「うむ、暑い季節に熱い鍋。中々憎い。どうしてこうも汗だくに美味いのだ、実に楽しい!」

「はっ、がつっ、ズルッ」

「熱い~! 美味しい~! お水~!」

「UMBもンマかったが、やはりお袋の味が一番だ! ガーハーぁっつ!!」

「もう、火傷に気を付けなさい」

「大丈夫、もう皆手遅れだ! ガーハーハー!」



 騒がしく、賑やかに。箸や食器類のぶつかる音、掻っ込む音や咀嚼音、飲み込む音…合間に飛び交うでかい声。一体加わったとはいえ、ピカタ家の変わらぬ平時の食事風景だ。

 湯煙が立ち上る光景はそのまま、鍋の中身が減る速度は一向に変わらない。ミ一はもう少し大きめの鍋でもう少し多めの具材を入れるべきだったか、と頬に手を添えたがそうする間にもみるみる減っていく。ミ一は立ち上がって台所へ、冷蔵庫の中身に追加できる材料がないかしらと確認しに行った。


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