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恋の予防接種  作者: みずたまりこ
2/5

免疫反応

「院長のお孫さん、緊急ということで先にお通しします」

 外来の診察の合間に看護師から告げられて、俺はにわかに緊張した。

 出現頻度は低いものの、ワクチンの副反応にはエグいものがある。


「失礼します!」

 勢いよく診察室の戸が開いて、子供を抱いた女が飛びこんできた。

 子供の顔色は問題なさそうだ。見たところ意識レベルも正常に見える。

「どうした?」

 聴診器を耳につけながら尋ねた。

 どちらかというと女の方が体調が悪そうだ。顔面が蒼白で、苦しそうに息をついている。

「あ、愛香さんの、腕が、腫れて……」

 女は息の合間にそう言って、袖をまくって子供の腕を見せてきた。

「腫れてるな」

「はい」

「え?それだけか?痙攣したとか」

「あ、少し痒みもあるようで。腫れてるところ触ると熱くて……」

 拍子抜けした。この女、予防接種を受けたことがないのか。

「手遅れになったらどうしようって心配で、それで連れてきたんですけど」

 至って真剣なようだ。

 俺は、接種後の注意事項が書かれた紙を差し出した。

「ワクチン打ったんだから、そりゃちょっとは腫れる。順番を割りこんでまで俺に見せにくるようなことじゃない」

 どんな反応をするか見たくて、わざと意地悪な言い方をした。

 女はその紙を食い入るように見ると、顔を上げて俺を睨みつけてきた。

「こんなの頂いてませんし、説明も受けてないです」

 そう正論をぶつけてくる。

 ああ、こういう勝ち気な女、すげえ好き。


「悪かったな。院長がいるからわざわざ言う必要もないかと思ったんだ」

 一応子供の腕に触れて、想定内の温度であることを確認して袖を戻した。

「予防接種っていうのは、ウイルスと戦える武器を作ることを目的に、ウイルスもどきを打つんだ。このウイルスもどきが体内で増殖して悪さをすることはないが、身体はそれを異物と認識して武器を作るんだから、そりゃあ腫れるし熱も持つ。二、三日様子を見て、治まらないようだったらまた来てくれ」

 説明しながら、メモ用紙に住所を走り書きする。

「すみません。私、気が動転して、言い過ぎました」

 そう謝ってくる女にメモ用紙を手渡した。

 子供の額に手を当てる。体温も問題なさそうだ。

「これは……?」

「俺んちの住所」

「へ?」

 子供の額に当てる手で目まで覆って、立ち上がる。

 女の顎を掴んで引き寄せて、ほんの一瞬キスをした。

「な、なな、な……!」

 女はみるみるうちに真っ赤になって、後ずさってドアに頭をぶつけている。

「家族用のワクチン持ってるから、あんたにも打ってやるよ。今週は夜八時以降なら家にいる」

 言いながら椅子に腰を下ろして、子供の目から手を離した。

「その様子じゃ、インフルエンザウイルスに対しても男に対しても免疫ないだろ。本番で苦しまないように、俺があんたに仕込んでやるよ」

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