初対面?再開?
佐倉が見上げたその先には、首元できれいに整えられたショートカットの美少女がまさに教室に入ってくるところだった。
佐倉と初めて出会った4年前と、その姿は変わっていない。
いや、正確に言えば、成長してもっときれいになっていた。
(そうだ……俺は……彼女に会うために……)
美人、かわいい、愛らしい、どの誉め言葉も全て当てはまるようなその姿は、見るものすべてを魅了していた。
教室中の雰囲気が一瞬で変わるのが分かる。
男女問わず、その美しさに全員が一瞬飲まれている、そんな様子だった。
(変わってないな……)
「あ、玲ちゃんだ!やっほー!」
「遊びに来たよー!」
彼女は、笑顔で入口近くにいた女子に手を振っている。
友達に会いに来たのだろう。
その屈託のない笑顔と、少し特徴のある声は、佐倉の過去の記憶をさらに思い起こさせていた。
「あれが宮野だよ。学年一位の」
夏樹がそう言った。
「佐倉知ってるんだろ?学校一の人気者、そして、全生徒のあこがれ! 宮野玲!」
彼女に一瞬見とれていた楓が、佐倉を振り返りながら言った。
「いや、知り合いじゃない……かな」
厳密にいえば、相手は覚えてない、といった方が正しいだろう。
小学校のころ同じ学校だった。クラスは一度も一緒になったことはない。
ただ廊下ですれ違う程度。それが佐倉と宮野の関係性だった……はずだった。
卒業式までは……。
「なんだ、なんか知ってる感じだったのにな! おーい!宮野さーん!」
細かく話を聞くこともなく、楓が宮野さんに呼びかける。
あれだけの美少女だ。普通であれば、話しかけにくさの一つも存在するのだろうが、それを感じさせないのも一つの魅力なのかもしれない。
楓の呼びかけに気が付いた宮野は、話していた女子たちから目線を佐倉たちに移し、笑顔で近づいてきた。
「え、ちょっと!」
慌てて楓を止めようとするが、既に宮野は笑顔で近づいてくる。
「いいからいいから!お前も宮野のファンなんだろ? わかるぜー!」
ナイスアシストだろ!と言わんばかりの楓は、笑顔と親指を立てるポーズを佐倉にぶつける。
初日なのに、なんとも泣ける友情ではないか。
「こんにちは、楓君、夏樹君も。あ、この人が今日から来た転校生?」
2人に挨拶をした宮野は、佐倉の存在に気付いた。
どうやら、他のクラスでも転校生の存在は知られてはいたらしい。
何しろ、途中で来る生徒等めったに存在しないのだ。噂は知れ渡って当然だろう。
「おう、佐倉だ」
と楓は答えて、また佐倉に目配せをする。
なんなのだその気遣いは。勘が無駄にいいのも考え物だ。
「初めまして! 宮野玲です! よろしくね、佐倉君!」
4年ぶりに見たその笑顔、変わっていない。
「……どうも……。佐倉詩音です……」
「ん?佐倉詩音君……。どっかで会ったことある気がするんだけど……」
どきっ
できれば、知り合いだったことは覚えていてほしくない。
あんなに、ひどい見た目だった時の事……。
「き、気のせいじゃないかな!」
小学校のころ、佐倉は自慢じゃないが、ひどい体形であった。
両親に愛情をもって育てられた結果、丸々と太っていたその体は、今の引き締まった肉体とは見る影もない。
佐倉と当時よほど交流があったならともかく、ほとんど話したこともないのでは、知らないのも無理はなかった。
ずいぶん性格も悪かったと、今にして思う。要するに、見た目も中身も最悪な男だった。
そんな記憶、忘れていてほしいものだ。
「なんだよ、知り合いじゃなかったのかよ。じゃあファンか?笑」
ばれたくないのはいいのだが、ファンというのは不服だ。
宮野は楓のその発言にクスクス笑った。
「あのねー楓君。いくら学年一位でも、学校外までファンがいるわけないじゃない」
この容姿なら、学校外にファンがいてもおかしくはなさそうなもんだが。
それに気づかない鈍感さも、また彼女の魅力の一つではあるのだろう。
あの、卒業式の時もそうだった。
小学校の卒業式。佐倉はずっと想いを寄せていた宮野に想いを告げた。
当時から宮野は全男子からの人気を集めており、卒業式の告白なんて、多分片手では収まらないほどあったのだろう。
それも、ほとんど関係のない男の告白など、覚えているはずもなかった。
「そ、そうだよ楓。さっき動揺したのは、学年一位って聞いて、ちょっとびっくりしたというかさ!」
「ああ、そうだよなー。モテ度8点からすると、さすがに同じ人間とは思えないよな!」
なんとも痛いところをつくやつだ。楓め。
「そんなことないわよ。転入するのだって、この学校大変なんだから。一緒にこれから頑張りましょ!」
可愛い。思わず、思い出してほしいと思った。、でも思い出してほしくなかった。
佐倉は、中学からこの学校へ入学し、彼女と別々になってからも、忘れることはなかった。
中学に公立の学校へと進んだ佐倉は、見た目や内面も努力を重ね、彼女を追いかける形でこの学校に来たのだ。
そう。彼女への告白を、成功させるために。
(まさか、こんな学校だとは思わなかったし、宮野がしかも学年一位だなんて、思いもしなかったな)
「ありがとう。よろしくね……宮野…さん」
「うん、じゃあまたね!」
そういって宮野は手を振ってまた友達の所へ戻っていった。
その後ろ姿ですら、他を魅了していた。
宮野に手を振りかえし、楓ははあーっとため息をついた。
「ったく、ホントに可愛いよなあ宮野さん……全然勝てる気しねえよ……」
「ほんとにな。やわらかいその態度、笑顔、そして頭の良さ……。どれだけモテ度つんだらあそこまで魅力的になるんだか……」
楓と夏樹は、かわいい子を見て喜ぶ気持ちと共に、敗北のオーラを出していた。
モテ度が高いとは、相手のことを支配できるほどの力を持つ。
入学パンフレットに書いてあったそんな言葉を、佐倉は実感していた。
「まあ、宮野に追いつくのはすぐには無理だろうさ。でも、お前だって入学したんだ。絶対素養あるんだから、頑張ろうぜ」
夏樹はそう佐倉に語り掛ける。
別にそれで落ち込んでいるわけではないのだが、まずはその気遣いに、うん、とだけうなずいた。
そのあとも、彼らと一通り談笑をしていると、気づけば教室に誰もいなくなっていた。
今日は始業式とテストの返却のみで学校は終わりらしい。
その流れで、夏樹と楓と共に校舎をあとにする。
全寮制のこの学園は、全員が寮生活だ。
自立して生活できるのもモテ要素の一つとのことで、寮に食堂などはなく、男女関わらず全員自炊なのだ。
今日スーパー寄ってく?特売日だぜ
という、なんとも男子高校生とは似つかわしくない主婦的な会話をしながら、食材を買い込み、まだ完全に引っ越しも終わっていない自室に戻るや否や、ベッドに倒れこんだ。
(やっと……あいつと対等になれるところまで来たんだ……)
初日とは思えない疲労感と、そんな宮野への想いを胸に……。
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「佐倉……詩音……ってやっぱり……」
学年一位の美少女は、部屋の卒業アルバムを見ながらそうつぶやいた。
「あの……佐倉君よね……」
宮野は静かにそのアルバムをめくり、4年前のあの日を思い出していた。
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