クラスメイトたち
世の中の評価するものは変わった。
運動ができるか?勉強ができるか?顔がいいか?
違う。どれほどモテるかだ。
モテることは簡単じゃない。
どれか一つが優れていても意味がなく、様々なバランスが必要になってくる。
いかにもスポーツができそうな見た目で、実は勉強ができるというギャップを作ることも魅力の一つだ。
色々な知識を持っているだけじゃなくて、それを面白く話せるユーモアセンスもあるのもいい。
いろんな要素を組み合わせて作る、すなわち、
モテとは、人間の、いや生命の存在意義をかけた、総合格闘技なんだ!
この世は、モテるやつが一番偉い!
「ってことなんだよー! 分かったか?佐倉?」
この学校の理念について語ってくれた(教えてくれた)のは、隣の席に座っている楓秋良だった。
モテ度ってなんだよ……という先ほどの佐倉のつぶやきを聞いていた楓は、先生が教室を去るや否や、話しかけてきたのだ。
聞いたか聞いていないか、で言えば聞いた覚えはないのだが、参考になる情報なのは間違いないので、ありがたく受け取っておこう。
「これからよろしくな! ちなみにモテ度は92! まあまあだろ!」
まあまあも何も、この学校にきたばかりの佐倉からしたら、何がどの程度のまあまあなのかよくわからない。
本人の口調からするとそれなりに高いのだろう。
なるほど。楓の顔はある程度整っており、短く刈り込んだ短髪の黒髪がよく似合っている。
見た目にも話しやすい雰囲気もあり、一般的にモテると言われても違和感のない存在だった。
気さくに話しかけてくるのも、転校生の佐倉を気遣っての事だろうし、嫌ななれなれしさなどはみじんも感じさせず、不快な気分は一切なかった。
「8点ってすげえよな! よくこの学校入れたな!」
早くも前言撤回である。
「8点って……そんなに低いのか?」
低いのはわかりつつ、佐倉は尋ねる。
「いやーそりゃさ! 皆中学で入ったやつらは、最初はそんなもんだったけど、高1だと平均大体70くらいなんじゃないかな!」
がくっ
佐倉はうなだれる。
「俺のレベルは中1程度ってことか……」
そんな佐倉を見て、楓は豪快に笑っている。
「あっはっはっは! まあ気にすんなよ!」
「そうそう、楓の言うとおりだよ」
話しかけてきたのは、楓よりも身長の高い、おそらく180センチ以上はある長身の男性だった。
黒く日焼けしたその肌と、制服の上からでもがっしりした肉体美が確認できる。
どちらかというとすらっとした楓と比較する、対照的なスポーツマン、といった雰囲気を醸し出していた。
「それと楓~。偉そうに言ってるけど、お前中学の頃の最低点4だったじゃねえか! 今の佐倉の半分だぜ」
その長身の男性は、自分よりはるかに背の低い楓を見下ろし、ニヤニヤしながら言った。
「うるせえな!いーんだよ!そんな前の事!」
憎まれ口をたたきつつ、仲の良さは手に取るようにわかる。
「俺は、夏樹涼! よろしくな!佐倉!」
夏樹と名乗った長身の男性は、握手を求めてきた。
身長だけでなく、挨拶も日本人離れしているのだろうか。
差し出された手を、佐倉はしっかりと握り返す。
「ありがとう。佐倉だ。よろしく」
夏樹は握手を話しながらにこっと笑う。
「おう、ちなみに、俺のモテ度はそこの楓よりも高い、98点だ」
挨拶の際に点数を言うのはこの学校の文化なのだろうか。
どこか女性的な魅力のある楓と、男らしい夏樹と、それぞれが魅力的であり、どちらがよりモテるか、などぱっと見では好みの問題でしかなさそうなものだが。
点数化される、というのは何かしらあるのだろう。
いずれにしても、モテそうであることにはもちろん変わりはなかった。
学年の平均が70程度だということから想像しても、98は極めて高い点数だともいえる。
「あんだよー!今回はたまたま夏樹の方が上だっただけだろ!」
「そうだな。『たまたま』、『毎回』、俺の方が上なんだよなー?」
じゃれあう二人は、もはやほほえましさすら感じる。
「ははっ。二人は相当仲がいいんだな」
会話のテンポの良さといい、クラスメイト以上に相当親しい関係なのだろう。
佐倉の言葉に、楓がにこっと笑う。
「ああ、まあな! 夏樹とは地元が一緒でさ! 小学校も一緒だったんだぜ! 親同士も仲が良くてこの学校に中学から入るのだって、夏樹さんのところが入るならうちの子もーなんて、母ちゃんが勝手に決めちゃったもんだからさ!へへっ!」
「そうだったのか。でも、二人とも中学から入るなんて、相当に優秀なんだな」
モテの精鋭を集めた、と銘打つだけあり、中学からの入学希望は相当な倍率だと聞く。
「いや、そんなことねーぜ?中学の入試は勉強のほかに、外見審査、スポーツ、礼儀、とかもあってさ!俺、うちの父親に小さいころからめちゃくちゃうるさく言われてたせいで、そこまで苦労しなかったからな!」
「楓の父親は、あの楓商事の社長なんだよ」
夏樹が言葉を挟む。
佐倉は、その言葉を聞いた瞬間に驚愕した。
楓商事といえば、あの日本でも有数の大企業ではないか。そこの御曹司とは。
人は見かけによらないものだ。
「うちの父ちゃん、なんせうるさくてさ!」
一代であの大企業を立ち上げた楓社長は、経済界ではかなりの有名人だ。
メディアなどに出ているのを見たことあるが、なるほど、いかにも人を惹きつける魅力的な人物だと、テレビを見て思ったことがある。
その息子にも小さいころからモテる哲学を教えてきたのだろう。
楓の持つ不思議な魅力も分かった気がする。
「夏樹の父ちゃんの方がずっとすげえよ!なんせオリンピック金メダリストだからな!」
これまた、日常会話では聞くことのないことだった。
「え、じゃああの柔道で3回連続で金メダルを取ったあの……?」
「ああ、俺の父だ。俺もその影響か、小さいころからいろいろしつけも厳しくてな。特に格闘技は柔道だけでなく、空手や剣道までいろいろやらされたもんだ」
ビジネスマンだろうがスポーツマンだろうが、一流の人間は人を魅了する能力に長けているのだろう。
「別に珍しくないぜ。親が有名な芸術家、音楽家、社長、国会議員とか、結構いるんだ。この学校は」
一流の魅力的な人間は自分の子供にもその魅力を引き出す教育をする。
その結果、子供も容姿や能力だけにとどまらない、モテが身につく、というわけなのだろうか。
生まれたころからそんな教育を受けてきて、さらにこれ以上モテ教育を受けているというのだから、楓と夏樹の二人に限らず、クラスメイト全員が魅力的なのは納得だ。
「ま、とはいえ俺らの学年の中でも学年一位の宮野は別格だよな!」
「宮野…玲……」
佐倉はつぶやいた。
楓と夏樹は、その言葉に反応する。
「お、なんだ?佐倉、宮野の事知ってるのか?」
夏樹が佐倉の顔を覗き込む。
佐倉がどう答えようか困っていると、夏樹が顔を上げ、
「お、噂をすれば、だ」
と教室の入口を見た。
佐倉と夏樹も、つられて入口を見ると、そこに立っていたのは……
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