調査開始!
「さてと……後は、卵を焼くだけか」
冷蔵庫から卵を取り出して、フライパンの上で割ると綺麗な円を描き目玉焼きが出来ていく。卵しかないのにフライパンからは良い匂いがしてくると同時に僕のお腹が空腹を告げる。本当に卵ってなんで焼くだけでこんなに美味しそうだ匂いをさせるんだろうねぇ、不思議。
「む、もう起きていたのかリントくん。それにこの匂いは……」
「あ、おはようございますバルムハルトさん!先に起きたので朝食を作っておきました。もうすぐ、目玉焼きが完成するので座って待っててください」
よく火が通ったところで塩胡椒をかけて目玉焼きが完成する。それをあらかじめ用意していた野菜を乗せておいた皿に移し、バルムハルトさんの所へ持っていく。机の上には既に僕が作っておいたパンの上に、トマトソースを塗り、チーズを乗せその上に細切りのピーマンと薄切りにしたベーコンを乗せトーストしたピザパン擬きに、コーンたっぷりのコーンスープが並んでいた。
「はい。どうぞ」
「おぉ……凄いな、これ全て君が?」
「はい!魔物使いとして、冒険者になる前は両親や食事処の手伝いをしてましたから」
まぁ、今ではこんな料理を自作するだけのお金もないんだけどね……ただでさえ、少ないお金を魔物の事を知る為の本や、それで得た知識を実際に現場で試してみたりしてるから貯まらないのは分かってるんだけどね。こればっかりは魔物使いの性だから仕方ない。根本的に魔物使いは好奇心の塊なのだから。
「なるほどな……では、温かいうちに食べるとしよう」
「どうぞ。僕は、自分の分の目玉焼きを用意してきますね」
そう言って僕はキッチンへと戻る。しかし、改めてこうしてバルムハルトさんのキッチンを見ると、あの人が優秀であり僕とは比べ物にならないほどお金を稼いでいるのがよく分かるなぁ。普通は薪から火起こしをしてって過程が必要だけど、手を翳すだけで火を起こし直感的に操作できる魔法珠が埋め込まれたコンロに、金属光沢が全く失われていない流し台や調理スペース、換気用の窓まで完備だ。多分だけど、器やフォークとかが銀製なのは毒の有無を調べたりする為なんだろうなぁ。そんな下世話な事を考えながら目玉焼きを作り、僕はバルムハルトさんの所へ戻る。
「美味い!リントくん、これ十分お店で通用する味だよ!」
満面の笑みを浮かべながら僕の料理を食べてくれるバルムハルトさん。この人、最初は怖い人かなぁって思ったけど結構、子供っぽい所というか無邪気な所があってなんだか微笑ましい気持ちになる。
「そうですか?そんなに煽てられても追加はありませんよ?」
「違う違う!本当に美味しんだよ。こっちの方が稼げそうな気もするが……君も今の在り方を選んだ理由があるんだろうな」
「そう言ってくれてありがとうございます」
持ってきた目玉焼きを一旦、机の上に置き僕はケムリン用の器にレタスの葉っぱを入れる。モコモコとして何処が口だかよく見えないけど、ケムリンはレタスの葉っぱが好物でこうやってあげるとモグモグと食べ始める。嬉しそうにパタパタと動く羽根を撫でて、僕も食べ始める。
「ふぅ。ご馳走様でした」
「早いですね!?」
僕が食べ始めてから10分経ったか経たないかという次元でバルムハルトさんが食べ終わる。僕まだ、何も完食してないんですけど。
「いやぁ君の作ったご飯が美味しくてねつい。ところで、今日の予定なんだが食べながら聞くかい?」
「大丈夫ですよ。それに時間は効率的に使ったほうが良いですからね」
「賛成だ。では、先ず食べ終わり軽く食休みをした後、教会に行きシャーロットと合流する。彼女と合流したら、君が昨日話さなかった事を説明して貰い、午後は君の説明次第だが今のところは見回りや事件記録を見に行こうと思っている。何か質問はあるか?」
僕が昨日話したことも予定に組み込まれているし特に質問はない。食べながら頷くと、バルムハルトさんも同じく頷き、キッチンに向かいコーヒーを淹れて戻ってくる。暫く、たわいもない雑談を続け僕が食べ終わり、僕らは教会へと向かう。
「失礼する。シャーロット、準備は出来ているか?」
教会に入るなり大声で問うバルムハルトさん。どんだけ此処に長居したくないんですか……
「出来ていますよ。やっぱり、朝から来ましたねバルムハルトさん」
純白のシスター服を身に纏い、銀で作られた鞘に収まった刺剣を装備したシャーロットさんが呆れた顔をしながら現れる。幼馴染というだけあって、バルムハルトさんの行動を予測していたらしい。しかし、本当に真っ白なんだなぁ退魔用の装備って。
「時間は限られているからな。近くの喫茶店に行こう、そこでリントくんから話がある」
「分かりました」
矢継ぎ早に用件を伝え、バルムハルトさんは教会を出ていく。そんな彼の背中をシャーロットさんと一緒に追いかけ、僕らは彼が予め目をつけていたのであろう喫茶店に到着し、近くに人が座らない奥の席に座った。僕とバルムハルトさんが隣で、僕の向かい側にシャーロットさんが座っている。本当は、シャーロットさんとバルムハルトさんを並べようと思ったんだけど、その前に彼女に促されてなんだか怖い圧を感じた僕はそのままバルムハルトさんの隣に座ってしまった。仲、悪いのかなぁ?
「さてと、此処ならよほど大きな声を出さなければ他の客には聞こえないし、店主には可能な限りこの近くに客が座らない様に頼んでいる。リントくん、君が昨日、教会の仕事を探った理由を教えてくれるか?」
「それを私が聞いても大丈夫なのですか?」
「は、はい。僕がシャーロットさんもいる時が都合が良いと頼んだのです」
僕がそう言うと少し気まずそうな顔をしていた彼女が笑みを浮かべそうでしたかと、納得してくれた。二人が聴く体勢になったのを見計らって僕は、教会の仕事を探った理由を切り出した。
「先ず、シャーロットさんには悪いんですけど、僕が教会の仕事を聞き出したのは彼らが今回の事件の首謀者若しくは、共犯者じゃないか探る為です」
「……なるほど。街中で魔の者が我が物顔で人を襲っていて、公には私達がしている事は殆ど明らかになっていない。疑うのも無理ないですね」
頭の回転が速いなこの人。当然、今僕が話した理屈は軍にも当て嵌まるが、それならバルムハルトさんみたいな有名人を動かす理由はない。国民を騙すにしてももっとどうでも良いそれこそ、関わっている事がバレたら簡単に首を切れるそんな人間を動かせば良いのだから。
「はい。ですが、それは杞憂でした。常闇の森を監視するなんて、リスクが高い事を貴方達は実行していましたし、神父さんからも覚悟が感じられました。ですので、今回の件教会は白だと僕は考えています。それと、これは僕の推測なのですが貴方達は今回の一件が、吸血鬼の物ではないと確信していませんか?」
「な、なんだと!?」
僕の横でバルムハルトさんが驚き、水を溢す。僕の視線の先では、シャーロットさんが笑みを浮かべたまま目だけが笑っていなかった。
「理由をお伺いしても?」
「良いですよ。教会に所属する人達は皆んな、退魔の力に優れています。そして、同時に魔への敵意も高いですよね。そんな人達が、人間に害を与えている吸血鬼を許せるとは思えません。例え、被害が出ると分かっていても常闇の森に突撃するのが貴方達ではありませんか?そんな貴方達が、監視だけで済ましているのは、今回の事件が吸血鬼による物ではないと確信しているから。そう推測したのです」
「此処で下手に誤魔化すのは、貴方達を敵に回す行為でしょうね。はい、リントさんが仰る通り私達、教会は此度の事件が吸血鬼の物ではないと見抜いています。これは身内、つまり我々人間が起こしている事件だと」
あっさりと白状してくれたシャーロットさん。よかった、此処で変に話が拗れると大変だったから。
「待て。では何故、教会は我々軍にその事を通達していないのだ?我々は未だに、吸血鬼と人間。両者の線を追っているぞ?」
不服そうな顔をしながらバルムハルトさんはシャーロットさんに問う。シャーロットさんは、僕からバルムハルトさんに視線を合わせ真剣な顔で口を開く。
「貴方達、軍が関わっていないという確証が取れていませんから。あなた方に話をして、もし犯人がそちらの人間であれば?」
「ぐっ……確かに我々も同じ考えで教会と話をしていない……不仲がこんなにも捜査の邪魔になるとはな」
「えぇ。全くです」
バルムハルトさんとシャーロットさんが同時に疲れたような顔になって、ため息を吐く。見事にタイミングが揃ってる辺りやっぱり、この二人は幼馴染なのだろうって思えた。まぁ、教会と軍の仲の悪さは凄いからね……そうなるのも分かる気がする。
「つまり、シャーロットのその退魔装備は意味がないって事か?」
「何事も予想を超える可能性はありますから。私達の予想を超えて、吸血鬼が犯人であった場合の武器です。ところで、リントさん。どうやって犯人を捕らえるつもりですか?」
シャーロットさんの疑問は出てきて当然だ。どうやって犯人を見つけ出し、捕らえるのか。僕には一つだけ案が浮かんでいた。周りに聞かれないように二人の顔を近づけさせ、耳打ちする。
「なるほど……捜査の基本ってやつだな」
「どんな凄い作戦を聞かされるかと思いましたけど、結構地味ですね」
「ただの魔物使いに凄い作戦を期待しないでください!」
僕の叫びにバルムハルトさんが大笑いし、シャーロットさんが小さく笑う。何はともあれ、迅速な行動が必要だ。次に犯人が行動を起こすタイミングが僕らには分からない。時間を無駄にしないように動かなければ。こうして、僕らは動き出し時間は夜、吸血鬼が最も活動的になる時間帯へと舞台を移すのだった。
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