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意外な関係性

「うーむ……やはり、いつ来てもここの雰囲気は好きになれんな」


「なんとなく気持ちは分かりますよ。バルムハルトさん」


 バルムハルトさんのお気に入りの店という定食屋さんでご飯を食べた僕達は、吸血鬼が血の君主と呼ばれるほど進化した個体であった場合の対策として強大な退魔の力を持つ人を借りるべく、街にある降臨教の教会まで来ていた。左右均等に三本の柱があり、それらを土台に大きなアーチ状が作られちょうど中央の空間に、オレンジ色に統一され木製で作られた両開きの扉。そこから繋がる教会本体は、近くの石切場から採れる大理石を用いた建築がされており、大きな窓が備わっており、中央には彼らが信仰する神が地上に舞い降りる姿をイメージして作られたステンドグラスがあり、豪勢でありながらも厳粛な雰囲気を漂わせていた。


「おや、バルムハルトさんではありませんか。珍しいですね、貴方が我らが神に祈りを捧げに来るとは」


「……シャーロット。悪いが、私は祈りに来たわけではないのだ。神父殿は居るか?少し、相談したい事があってな」


 ん?どうしたんだろう、バルムハルトさん。なんか、凄い悲しそうな顔してるけど。この金髪ショートカットのシスターさんと何か関係があるのだろうか。うーん、気になるけど出会ったばかりの僕が深入りするのも失礼だよね。とりあえず、黙って待ってよ。


「神父様ですか?この時間なら奥でお祈りをしていると思いますよ」


「そうか。ところで、その……シャーロット。まだ、家に戻る気はないのか?」


「私も用事があるのでこれで失礼しますね」  


 一礼をしてシャーロットさんは歩いて行ってしまう。反射的にだろうけど、彼女の方向に手を伸ばしたバルムハルトさん。けど、その手は届く事なくゆっくりと下がっていった。


「……あの、バルムハルトさん。大丈夫ですか?」


「ん、あぁ。大丈夫だ、心配をかけたな行くとしよう」


 その姿に僕が声をかけるとバルムハルトさんは、いつもの調子に戻り教会の中へと入っていってしまう。なんか……凄い、あの二人関係が深そうだけど……まさか別れた夫婦とかそういう?


「どうしようケムリン。修羅場に巻き込まれるのかな」


「ピキュ?」


「うん。君には分かんないよね」


 ケムリンを抱っこしたまま僕もバルムハルトさんの後を追って教会の中に入る。当然ながら、教会の内部も外の装飾に負けておらず、豪華に装飾がされていた。入ってまず目に飛び込んでくる大きな神の像があり、そこへ真っ直ぐと赤のカーペットが引かれ左右均等に長椅子が並べられている。上を見ると大きな空間が広がっており、神の像の上はガラスが屋根代わりになっており太陽の光が差し込み、神々しく像を照らしていた。


「うわぁ……凄い」


「こっちだ。リントくん!」


「あ、はい。今行きます!!」


 先に入っていたバルムハルトさんに呼ばれた方へ走っていく。既に神父と思われる人物と話していたのか彼の前には、全身真っ黒の神父服を身に纏い、柔和な笑顔を浮かべている男性が居た。


「ようこそ。未だ、救いを与えられぬ迷い子よ。本日は、何用かな?」


「救いは神に頼らず自らの手で切り拓くとも……っと、今日はそんな話をしに来たのではない。実はな……」


 バルムハルトさんは僕が推理した事をそのまま、神父さんへと説明していった。


「なるほど……確かに血の君主と呼ばれる様な存在が相手であれば我々の力は有用でしょうな。しかし、我々も吸血鬼騒動では色々と駆り出されておりまして今、手が空いている者となると入り口で会いましたかな?シャーロットぐらいです」


 神父の言葉を聞いた直後、バルムハルトさんの表情が固まる。……やっぱり、関係あるよね?この二人。


「お嫌ですかな?昔から付き合いのある幼馴染を危険に連れていくのは」


「お、幼馴染!?」


 疑問に思っていた事への突然の解答に思わず、声を上げて驚く。バルムハルトさんの顔を見ると、無言で頷いたため嘘という訳ではない様だ。幼馴染……しかもよりによって仲の悪い二つの組織にそれぞれ分かれてしまったのか。そう言えばさっき、家がどうとか言ってたなぁ。


「……ふむ。分かりました、気は進みませんが教会のシスターになるという事はどういう事か理解して、この道を選んだのは彼女です。であれば、私もその在り方を尊重しましょう。では、神父殿、シャーロットをお借りします」


「分かりました。こちらも準備というものがありますので、彼女を連れ回すのは明日以降でお願い出来ますかな?」


「はい、勿論です。リントくん、何か神父殿に聞いておく事はあるかい?」


「え!?えっと……」


 黙っていればそれで済むと思ってたから変な声が出ちゃった。でも、ちょうど聞きたい事があったからバルムハルトさんの気遣いは有り難い。


「そうですね……先ほど、教会側もいろいろと今回の事件に対して動いている様ですが、その辺りを詳しく教えて貰っても大丈夫ですか?」


「構いませんよ。現在、我々が対応しているのは大きく分けて二つです。まず一つ、吸血鬼に対し怯えている方々に簡易的な結界を構築する護符を配っています。下位に相当する吸血鬼であれば、近寄る事はおろか触れれば消滅させる事が出来る代物です。まぁ、上位や血の君主と呼ばれるほど強大な吸血鬼には、時間稼ぎが出来れば良い方ですが」


 なるほど……確かに護符は吸血鬼に対して有効だ。その気になれば例え密閉空間であろうと全身を血の霧として僅かな隙間から侵入する事が出来る彼らだが、その時は著しく退魔の力に弱くなる弱点を持つ。とは言え、彼らは結界が張られていれば本能でその場所を避ける為、対策にはなるが討伐は出来ない。


「そして、もう一つ。この街からそう遠くない場所にある吸血鬼達の縄張りの監視です。何かしらの動きがあれば即座に武力を用いて介入出来るよう準備しております。ただ、そこを安易に襲撃すれば我々もタダでは済みません。故に、今の所の方針は吸血鬼達へと圧力と言ったところでしょう」


「常闇の森を監視ですか……それはなんというか無謀では?」


 バルムハルトさんの言うとおりだと僕も思う。吸血鬼達の住処である常闇の森はこの街から北東の方向に存在しており、その名の通り常に陽の光が届かない暗闇に支配された森なのだ。故に外部からの監視はとても難しい。また吸血鬼達が何百年も住み着いている為、碌に調査されていない場所の為、どうしてそこが常闇に支配されているかは分かっていない。


「はい。ですが、群れとなって押し寄せてきた場合の防波堤は必要でしょう?」


「それは……そうですが」


「リントさん。質問の答えはお話しした通りです。満足いただけましたか?」


 相変わらず柔和な笑顔を浮かべたままの神父さん。その笑顔の裏に隠された覚悟を感じて、僕は唾を飲んだ。


「はい。ありがとうございます、良い参考になりました」


「それは良かった」


 聞きたい事も聞き終わり、此処でやるべき事を終えた僕らは教会の外へと出る。バルムハルトさんがその時に、キョロキョロとシャーロットさんを探していたけど、彼女は見つけられなかった。


「ところで、リントくん。何故、教会側の仕事を探ったのか教えて貰っても?」


「そうですね……今でも良いですけど、明日シャーロットさんも交えて説明した方が良いと思います」


「そうか。わかった、君を信用しよう。明日は、私が迎えに行こう。何処で寝泊まりしているか教えてほしい」


「あ……えーと……そのですね……寝泊まりしてる所から追い出されてしまいまして……」


 僕がそう言うと思い出した様にハッとした表情を浮かべるバルムハルトさん。やっぱり、忘れてたみたいだ。


「そうだったな……ふむ、なら私の家に来ると良い。部屋なら余っている」


「良いんですか!?あ、ありがとうございます!!」


「一晩だけだぞ?」


「勿論です!」


 なんて良い人なんだバルムハルトさん!!有り難い提案を受けて、僕は本日の宿を手に入れた。そこからは、日が暮れるまでバルムハルトさんと一緒に街の人たちに聞き込みで情報を集めたが、これと言って参考になる成果はなかった。


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