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吸血鬼事件の始まり

ハーメルンにて、マスターBTという名前で書いてる人です。なんで統一してないかって?このアカウント作った時は併用する予定がなかったからです。

 魔物使い。

 そう聞いて、連想するものはなんだろうか。本来、人間に仇なす魔物を使役する強い人間?どんな困難も、自分の力量と信頼する魔物との絆で乗り越える職業?……ある意味は間違ってないと言えよう。だが、真実を告げるとそれは本当に伝説と謳われる様な魔物を使役できる極々一部である。


「リント、そろそろツケてある紹介料払ってくれるかい?」


「あ、はは……えーと、後日じゃダメですか?」


「ダメに決まってるでしょうが!!そのタダ飯くらいと一緒にさっさと金を集めてきな!!」


 怒鳴る様に言われ、僕は酒場『ゴールデン・ドリーム』から追い出されてしまいました。怒鳴り声に集まってきていた人達は、僕らを見ると納得と哀れみの目をして散らばって行く。


「ピキュ……」


「あぁ、大丈夫だよ。さてと、今日も仕事探そうケムリン」


 一緒に放り出された否、漂っていたふわふわの白い毛玉を撫でる。これこそが僕の一番のパートナーである魔物、種族名はパイルで、僕はケムリンと呼んでいる。ちなみに最弱です。何せ、その辺を風に乗って漂うだけの魔物。大量発生すると、洗濯物とかに被害を出すから討伐されるけど、死者なんて出ない。何せ、強風で飛ばすか棒でペチペチ殴るだけで、力なく落ちてくるのだから。


「とは言え……街中で呼びかけても仕事なんて入らないんだよねぇ」


 魔物使いである僕も含め、冒険者と呼ばれる者達は基本的に冒険者ギルドか、情報が集まる酒場で仕事を引き受ける。当然、ただの酒場より冒険者ギルドの方が上質でしっかりとした報酬が支払われる。しかし、それだけの実力があると証明されなければ所属することは出来ず、冒険者ギルドに所属する者は最低でも一人で十倍の数の魔物を相手に出来なくてはならないのだ。当然、魔物の強さにもよるけど、僕にはとても無理だ。

 

 そして、次の候補として上がる酒場とは、そんな冒険者ギルドに所属出来ない者達が家賃として一定金額を支払う事で、酒場で寝泊まりをし女将さんや、客から依頼という形で仕事を引き受ける。当然、情報の裏なんて物は調べられていないので、様々な危険性を孕んでいるがそれでも選別無しに報酬を受け取れる可能性が生まれる為、利用するしいずれ実績が出来れば、冒険者ギルドへの加入も夢じゃない。まぁ、だからこそ路上で仕事を求める様な僕みたいな冒険者は、完全に実力無しと判断されて仕事が中々見つからないんだけどね……涙出てきそう。


「ん?なんだあの人集り」


 諦めながら仕事を探していると、目の前に人集りを見つけた。場所はこの街の入り口、関所近くであり普段ならこんなに人集りが出来る事はないし、旅人や冒険者らしくない服装の人間も居ることはない。事件かな?もしかしたら、役に立てるかもしれないし行ってみよう。人集りの方に向かっていくと色んな人達の話し声が聞こえてくる。


「また、血を抜かれた死体らしいぞ」


「しかも、兵士がやられてるんでしょ……魔物が街中に侵入してたらどうしましょう」


「……冒険者にしろ兵士にしろとっとと、吸血鬼事件の犯人を捕まえて欲しいもんだ」


 なるほど……この人集りは吸血鬼事件か。ケムリンを抱きしめながら、人集りの先頭へと進んで行くと鼻につく鉄の香りが漂ってきた。


「……変だね。ケムリン」


「魔物使いか。何が変か答えて貰おうか?」


 思わず呟いた独り言を聞いていたのか目の前に立つ厳つい顔の兵士がジッと僕を見ていた。所々に傷はあるけど、綺麗な銀の鎧に警備隊の兵士の中でも一握りの猛者にのみ許された赤い肩掛けのマントを身に付け……って、エリート中のエリートじゃん!?なんでこんな所に!?


「聞こえなかったか?答えろ、魔物使い」


「は、はい!!えと……その死体がまだ血を残しているのが不思議で。普通、吸血鬼は一度獲物とした生物の血を残すことは無いんです。彼らは、その強さと引き換えにエネルギー効率が悪いですから。人間、それも態々戦える兵士を襲ったのに残してたら逆に向こうが死んでるかと」


 吸血鬼は人間より圧倒的に強く進化すれば、例え竜種相手であろうと殺してみせる魔物だけど、その力の全てを血に依存しており戦いながら自らの命を擦り減らす彼らは、獲物から得られる血を余らすなんて贅沢食いをする余裕はない筈だから、死体から血の匂いがするのはとても不自然だった。僕の説明を受けた兵士は、何かを考える素振りをした後、僕の腕を掴む。


「うぇ!?」


「捜査協力を要請する。直接、死体を見ても大丈夫か?」


「え、あ、はい。大丈夫です」


 そう答えると凄い力で引っ張られ、兵士達が隠していた場所へと連れて行かれる。見張りから何か言われるかと思っていたけど、僕の手を掴む彼の顔を見て無言で通された。


「何か分かるか?」


 視界の先には一つの死体と、辺りを汚す血が飛び散っており、先ほどより血の匂いが濃い。思わず顔を顰めてしまうが求められている事はそれではない。先ずは、死体に近づき全身を隈無く見る。予想通り、首元に何かに噛まれた跡があり、しっかりと動脈に達していた。これが死因と見て間違い無いだろうけど、これだけなら鋭い刃物を用意すれば人間でも可能だ。


「首元に跡がありますね……でも、これだけだと針の様な形状で鋭い刃物を用意すれば人間でも可能だと思います」


「それは私も考えた。だが、実際にこの場から飛び立つ蝙蝠の様なものを見たという目撃例も上がっているんだ」


 その言葉を聞きながら、今度は周囲を調べる。一部、血の飛び散りが少ない所を見つけ、そこに吸血鬼が立っていたのだろうと考える。死体の位置から考えて、正面からではなく後ろから噛み付いて……ん?ならなんで背後の壁にまでベッタリと血が付いてるんだ?そこに血が付くのは可笑しい。吸血鬼自身で防がれる筈、中途半端で食事を辞めたとしても崩れ落ちた死体が荒ぶるはずが無い。


「……ケムリン、軽くこの辺を飛んでくれる?」


「プィ!」


 ケムリンを放り出して、動ける様に扇ぐ。フヨフヨと無警戒に飛ぶのを眺める。やっぱり、何かが可笑しい。


「おい。現場を荒らすな」


「ごめんなさい!ケムリン、戻っておいで!!」


 兵士に怒られてしまったのでフヨフヨと戻ってくるケムリンを回収する。確かに、ケムリンの毛が落ちるかもしれないもんね。怖い顔をしている兵士に頭を下げる。


「全く……それで、その最弱の魔物を飛ばしたのには理由があるんだな?」


「あ、はい。えと、その前に一つ良いですか?この件を解決に導いたら、報酬をくれませんか?その、僕酒場を追い出される程、お金が無くて……魔物使いがご入用であれば何卒」


 僕がそう言うと心底呆れた様な顔をする兵士。しょうがないでしょ……真実なんだから。


「無報酬だと思っていたのか……元々、手伝ってくれた礼として払うつもりだったが、良いだろう。この事件を解決したら、私のポケットマネーから報酬を支払おう」


「本当ですか!ありがとうございます。よーし、頑張るぞー!」


 人の不幸で稼ぐのもなんだかという気はするけど、そもそも冒険者ってそういう仕事の方が多いし!頑張って、この吸血鬼事件を解決するぞ。……まさか、この事件が僕、リント・アルムントの名前を大きくこの街に知らしめる事になるとは微塵も思っていなかった。

 

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