1-2 誰か助けて
アパートから最寄り駅まではスムーズにいけたものの、そこから先は想像以上の大混雑だった。
何せ年末の帰省ラッシュを直撃だ。
人は多い、荷物も多い、で電車の中はごった返し、電車に乗るのすら一苦労。なんとか電車を乗り継いで東京駅まで着いたものの、そこでも大行列、乗るはずだった新幹線はすでに一時間以上も遅れていた。さっさと諦めて帰ればいいものを、私は「少し待てば来るのではないか」と考えた。
これが判断ミスだった。
結局、一時間半待っても新幹線は来なかった。
「お客様にはご迷惑をおかけします。ただいま大雪のため、運転を見合わせております。運転再開のめどは立っておりません……」
何度も流れるそんなアナウンスを聞きながら、「うっそやろ」とぼやいた。私、関西に住んだこともないのに、どうしてこういう時は関西弁になるんだろう。不思議だ。
うん、どうでもいいことだな。
そのまま運転再開まで待つか、このまま虚しく帰るか。
悩んだ末、私は帰ることにした。なぜって、冷たい風がビュウビュウ吹き付けてくるホームで待っていたら確実にカゼをひく。待合室もいっぱいで座っていられない。こんなの疲れるだけだ。
そして、これも判断ミスだった。
雪に強い東北新幹線が止まるほどの雪だ、在来線が止まらないはずがない。私のアパートまでの路線は、雪の影響で止まっていた。バスはとっくに運行停止、タクシーは長蛇の列。駅周辺のホテルを探したが、どこも空いていなかった。
考えてみれば当たり前だ、私と同じような状況の人は山のようにいて、私はどちらかといえば出遅れた方。どこで決定的な判断ミスをしたのかと考えて、正解は「アパートを出ず、実家に連絡して帰省を一日のばす」だったと思い至る。
「あーもー、どうしよー」
歩いて帰るか、と考えたが、現実的ではない。電車で三十分かかるのだ、この雪の中、荷物を抱えて歩いたら何時間かかるかわからない。
「とりあえず……実家には連絡しとくか」
妹が出ると嫌なので、母の携帯にメールで連絡した。いまだにガラケーの母、メッセージアプリは使えない。既読になったかどうかわからないのが不便だけど、私は連絡した、その既成事実さえあれば十分だ。
さて、どうしたものか。
メールを送り終えた私は、横殴りに降り続ける雪を見て呆然とする。
スマホで天気予報を見る限り、明日の朝まで降り続く。明日朝の予想最低気温はマイナス二度。野宿なんてしようものなら間違いなく死ぬ。いろいろあってテンパってるけど、まだ死にたくはない。なんとか風雪をしのげる場所へ避難したい。
バチが当たったのかなあ、なんてらしくないことを考えた。
半年前、妹の物言いにカチンとしてゴネたのは事実。何やってんだ私、と思ったが、無性に腹が立ってこっちも意地になった。法律振りかざして「徹底的に戦ってやる!」と怒鳴り散らしたものの、妹が一言謝ってくれればこっちも引っ込むつもりだった。
だけど、妹が溜め込んでいたものも相当なものだったらしい。
かつては強く出れば引っ込んでいた妹が、鬼の形相で反論してきた。怒鳴り合い、罵り合い、ケンカ別れしたのがこの夏。以来、間に人を立てて電話とメールでやりとりしているけど、いまだに決着していない。
「あーもー……神様のバツかなあ……」
このまま私が凍死したら、まあ私の後始末が残るにせよ、実家の問題は綺麗に片付く。それが神様の意思なのかもしれない。
でもさ、それはちょっとひどいよ神様。
私、死ななきゃいけないほど悪いこと、した?
「あれ? 藤村さん?」
つまんなこと考えて涙ぐんでいたら、聞き覚えのある声で呼ばれた。
振り向いて、目を丸くする。
「え、木田くん?」
そこには、両手に大きな買い物袋を持った、職場の同僚が立っていた。