表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大雪、大揉め、のちに晴れ  作者: おかやす
第1話 12月29日
3/23

1-2 誰か助けて

 アパートから最寄り駅まではスムーズにいけたものの、そこから先は想像以上の大混雑だった。

 何せ年末の帰省ラッシュを直撃だ。

 人は多い、荷物も多い、で電車の中はごった返し、電車に乗るのすら一苦労。なんとか電車を乗り継いで東京駅まで着いたものの、そこでも大行列、乗るはずだった新幹線はすでに一時間以上も遅れていた。さっさと諦めて帰ればいいものを、私は「少し待てば来るのではないか」と考えた。


 これが判断ミスだった。

 結局、一時間半待っても新幹線は来なかった。


 「お客様にはご迷惑をおかけします。ただいま大雪のため、運転を見合わせております。運転再開のめどは立っておりません……」


 何度も流れるそんなアナウンスを聞きながら、「うっそやろ」とぼやいた。私、関西に住んだこともないのに、どうしてこういう時は関西弁になるんだろう。不思議だ。


 うん、どうでもいいことだな。


 そのまま運転再開まで待つか、このまま虚しく帰るか。

 悩んだ末、私は帰ることにした。なぜって、冷たい風がビュウビュウ吹き付けてくるホームで待っていたら確実にカゼをひく。待合室もいっぱいで座っていられない。こんなの疲れるだけだ。


 そして、これも判断ミスだった。


 雪に強い東北新幹線が止まるほどの雪だ、在来線が止まらないはずがない。私のアパートまでの路線は、雪の影響で止まっていた。バスはとっくに運行停止、タクシーは長蛇の列。駅周辺のホテルを探したが、どこも空いていなかった。

 考えてみれば当たり前だ、私と同じような状況の人は山のようにいて、私はどちらかといえば出遅れた方。どこで決定的な判断ミスをしたのかと考えて、正解は「アパートを出ず、実家に連絡して帰省を一日のばす」だったと思い至る。


 「あーもー、どうしよー」


 歩いて帰るか、と考えたが、現実的ではない。電車で三十分かかるのだ、この雪の中、荷物を抱えて歩いたら何時間かかるかわからない。


 「とりあえず……実家には連絡しとくか」


 妹が出ると嫌なので、母の携帯にメールで連絡した。いまだにガラケーの母、メッセージアプリは使えない。既読になったかどうかわからないのが不便だけど、私は連絡した、その既成事実さえあれば十分だ。


 さて、どうしたものか。


 メールを送り終えた私は、横殴りに降り続ける雪を見て呆然とする。

 スマホで天気予報を見る限り、明日の朝まで降り続く。明日朝の予想最低気温はマイナス二度。野宿なんてしようものなら間違いなく死ぬ。いろいろあってテンパってるけど、まだ死にたくはない。なんとか風雪をしのげる場所へ避難したい。


 バチが当たったのかなあ、なんてらしくないことを考えた。


 半年前、妹の物言いにカチンとしてゴネたのは事実。何やってんだ私、と思ったが、無性に腹が立ってこっちも意地になった。法律振りかざして「徹底的に戦ってやる!」と怒鳴り散らしたものの、妹が一言謝ってくれればこっちも引っ込むつもりだった。

 だけど、妹が溜め込んでいたものも相当なものだったらしい。

 かつては強く出れば引っ込んでいた妹が、鬼の形相で反論してきた。怒鳴り合い、罵り合い、ケンカ別れしたのがこの夏。以来、間に人を立てて電話とメールでやりとりしているけど、いまだに決着していない。


 「あーもー……神様のバツかなあ……」


 このまま私が凍死したら、まあ私の後始末が残るにせよ、実家の問題は綺麗に片付く。それが神様の意思なのかもしれない。

 でもさ、それはちょっとひどいよ神様。

 私、死ななきゃいけないほど悪いこと、した?


 「あれ? 藤村さん?」


 つまんなこと考えて涙ぐんでいたら、聞き覚えのある声で呼ばれた。

 振り向いて、目を丸くする。


 「え、木田くん?」


 そこには、両手に大きな買い物袋を持った、職場の同僚が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ