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大雪、大揉め、のちに晴れ  作者: おかやす
第5話 1月2日
21/23

5-3 契約の儀式

 今年……ううん、もう去年か。春、父さんが倒れ、そのまま他界した。

 突然の知らせにさすがの私もショックを受けた。大急ぎで実家に帰ったけれど、そこで待っていたのは私以上にパニックになっている家族だった。


 何やってんだ、て思った。


 これじゃいつまでたっても終わらない、全くこの家族は、とあきれて怒った。泣いてばかりの母と妹を「邪魔だ」と言って押しのけて、私は父の死にまつわる一切合切を取り仕切って片付けた。


 だから、父さんの死を受け入れ、消化する時間はなかった。

 私は悲しむことすらしないまま、父の死を「処理」し終えた。


 そんな私を母や妹は冷たいと思ったのかもしれない。ひょっとしたら遺産をもらおうとアピールしている、なんて勘違いしたのかもしれない。

 だとしたら、怒るのも無理はないだろう。実の父の死を悲しまない奴に、遺産なんか渡してたまるか、と意固地になって当然だ。

 私って、ほんと、「仕事」になると周りが見えなくなるんだな。

 私が父さんの死にちゃんと向き合ったのはいつだろう。ひょっとしたら大晦日の墓参りのときかも知れない。

 父の死を悲しみ、悼み、受け入れ終えていた母や妹たちと、すれ違うのは当たり前だった。



 ……彼の腕の中でわんわん泣きながら、ぐるぐる考えて、やがてそんな結論に至った。


 うん、だいたい合ってると思う。私と妹は根本的な部分ですれ違っている、しかもそれは感情の部分だから、一歩引かない限り気づくことはできないだろう。

 そう、私は負けたから気づけた。そうか、負けることにも意味があるのか、て生まれて初めて知った。


 「落ち着いた?」


 泣き止んだ私に、彼が優しく声をかけてくれた。私が黙ってうなずくと、そっと頭を撫でてくれた。


 「私……また、やらかしてたみたい」

 「そのようで」

 「だめだね、私」

 「若いんだから仕方ない」


 彼が喉の奥で笑う。おいこら、あんたは私より一つ年下でしょうが。


 「若者は、失敗を繰り返して成長する、てね」

 「ジジイか、あんたは」

 「ひどいな。若くて逞しい男だっての」


 彼の唇が私の唇に重なる。チュッ、て軽くついばむように、それからしっかりと重ね合わせて、貪るように。


 「……なので、こんな美女を前にすると、(たぎ)ってきちゃうね」

 「女の傷心につけ込むなんて、卑怯だぞ」

 「あんたは……」


 彼が一度言葉を切った。


 「……真由美は、弱らせないとつけ込む隙がないからな」


 うおっ、いきなり名前で呼ぶか。……いいかもしんない。


 「私はゲームのモンスターか何かか」

 「それいいね」


 彼が喉の奥で笑う。


 「ならこう言おうか。どうだ、勇者の仲間にならないか?」


 ふーん。どうやら自分が会社で「勇者」と呼ばれていることは知っているらしい。当然か、あれだけみんなが言ってればね。


 「おっと、仲間じゃないな。嫁だ」


 彼がおどけて笑う。


 「……なりたい、てさっき言ったけど?」

 「彼女に、だろ? それは断ったぞ」


 このやろう。


 「木田くんの……彼女……」


 じゃなくて。


 「……お嫁さんになりたい」

 「じゃ、遠慮なく、契約の儀式をさせてもらおうか」


 あ、ちくしょう、照れもしなかった。

 くっそー、私の負けか。


 彼が軽々と私の体を抱き上げた。細い体なのに、どこにそんな力あるんだ、て驚いた。

 お布団に寝かされた。

 ふかふかしたムートンシーツの感触が心地いい。

 そのまま彼に覆い被さられて、ふわっと、男の人の匂いに包まれた。


 ……あ、知ってる。この感じ、なんとなく覚えてる。

 私、やっぱり去年ここへ来てる。

 記憶には全くないけれど、私の五感がそれを覚えていた。

 だから、あんなに恋しく思ったんだ。


 「えっと……」


 見上げると、男の顔をした彼が、私をまっすぐに見つめていた。


 その視線に……ドキンとした。

 恋する乙女のトキメキじゃない。なんていうか、猛禽に狙いを定められたネズミか何かになったような、身の危険を感じる恐怖のドキンだ。


 「あ、あの……優しく……してね?」

 「断る」


 ひぃぃぃぃぃぃっ!

 やばい、これやばい。私、いまから彼に何されるの!?


 「この一年のうっ憤、全部ぶつけてやる。勇者の力、その体でとくと味わえ」

 「待って、ちょっと待って! は、話し合いましょう!」

 「やかましい、覚悟しろ!」




 ──その後行われた「勇者の嫁」になる契約の儀式は。

 それはもお、熱くて濃くて、激しく長い戦いで。


 ……

 …………

 ………………もう私、おヨメに行けない。


 こ、ここまでして嫁にしてくれなかったら、地の果てまで追い詰めてやるからな、勇者様!


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