0-0 午前二時の酔っ払い
※別のサイトで掲載していたものですが、こちらにお引越ししました。
「フロイデ、シェーネル、ゲッテルフンケン……」
うろ覚えの歌詞を好き勝手に補いながら歌い終えると、私は「わーい、おめでとー」と拍手をした。
「おや?」
気がつくと、私は鏡の前に座っていた。
鏡に映るスーツ姿の自分を見て、はてどうして鏡の前にいるのだろう、と首を傾げたが……思い出せないので、考えるのをやめた。
「んー……いけてる?」
せっかくなので、ポーズを取ってしなを作ってみた。
少し癖のあるショートヘア、笑ってさえいれば愛嬌のある顔、色白でスレンダーだけど出るとこは出てる体。「見た目だけは完璧な秋田美人」なんてよく言われるけれど、うん、なるほど、いけてるじゃないか、と悦に入る。
「……何、自分に見とれてるんですか」
ふわふわとした心地よい気分でいたら、背後から声をかけられた。
「えー、わりといい女だと思ってぇ」
「自分で言うか」
そしてそのまま、強い力で抱き締められた。
「やん……ふふ、ムラムラしてきた?」
「あのですねえ……」
耳元でイライラとした声が聞こえた。だけど私はその声よりも、抱き締められる感触の方に意識がいった。
あー、なんかすごく嬉しい。
いいなあ、この感触。
「えへへへー、ぎゅーっとされたぁ。あったかーい」
「ああもう!」
喜ぶと、ますます強く抱き締められて、私は息ができなくなった。苦しい、でも嬉しい。こういうのいいなあ、もっとしてほしいなあ、と思いながら、頬ずりして抱き締め返した。
そしたら少し腕を緩められて、息ができるようになった。
ふう、と一呼吸したところで、キスで唇を塞がれた。
「ん……」
長いキスだった。頭がくらくらして、何も考えられなくなった。でも嫌じゃないからいい。そのままいっぱいキスをしてもらった後、奥の部屋に連れて行かれて、敷かれていたお布団に押し倒された。
ふかふかしたムートンシーツの感触が心地いい。
覆い被さられて、ふわっと、男の人の匂いに包まれた。
見上げると、男の顔をしたあいつがいて、私をまっすぐに見つめていた。
「……俺だって、男ですからね」
うん、知ってる。
「こんなの、我慢できないですよ」
まあ、そうだよね。
「俺……あんたがずっと好きだったんですからね!」
あ、それは知らなかった。
「ん……」
またキスされた。あいつの腕の中は、暖かくて、いい匂いがした。なんだかすごくうれしくなって、目頭が熱くなった。
そうだ、言わなくちゃいけないことがあったんだ、て思い出して、私は彼を抱き締めた。
「いろいろ、迷惑かけてごめんね」
やっと素直に言えた。
あいつは何も言わない。たぶん、びっくりしているんだろう。まあいいや、この際だから思っていること全部言っておこう。
「いっぱい、助けてくれてありがとね」
「見捨てないでくれて、ありがとね」
「ホントに、ホントに、感謝してる」
「いつも素直じゃなくて、ごめんね」
あいつの腕に力が入った。
「私も、あなたが好きだよ」
ああ、頭がぼーっとする。飲みすぎたかな。くらくらして、ふわふわして、すごく幸せ。
「マジで……しますからね」
「うん、いいよ」
うん、いいかな。
このまま、こいつのものになろう。明日になったら「やっぱいらない」て言われるかもしれないけれど、まあそれでもいいや。
こいつには、ホントにホントに、いっぱい迷惑かけたから。
私は彼を抱き締めて、頬ずりした。ちょっぴりおひげがチクチクした。
頬ずりする私を、あいつは思い切り抱き締めた。
やん、苦しい、息できない。
でも、すっごくうれしい。
嬉しくて嬉しくて……涙があふれて……これが幸せってやつかあ、てニマニマして。
そこで、ふわっと意識が遠のいた。