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大雪、大揉め、のちに晴れ  作者: おかやす
第0話 1月2日
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0-0 午前二時の酔っ払い

※別のサイトで掲載していたものですが、こちらにお引越ししました。

 「フロイデ、シェーネル、ゲッテルフンケン……」


 うろ覚えの歌詞を好き勝手に補いながら歌い終えると、私は「わーい、おめでとー」と拍手をした。


 「おや?」


 気がつくと、私は鏡の前に座っていた。

 鏡に映るスーツ姿の自分を見て、はてどうして鏡の前にいるのだろう、と首を傾げたが……思い出せないので、考えるのをやめた。


 「んー……いけてる?」


 せっかくなので、ポーズを取ってしなを作ってみた。

 少し癖のあるショートヘア、笑ってさえいれば愛嬌のある顔、色白でスレンダーだけど出るとこは出てる体。「見た目だけは完璧な秋田美人」なんてよく言われるけれど、うん、なるほど、いけてるじゃないか、と悦に入る。


 「……何、自分に見とれてるんですか」


 ふわふわとした心地よい気分でいたら、背後から声をかけられた。


 「えー、わりといい女だと思ってぇ」

 「自分で言うか」


 そしてそのまま、強い力で抱き締められた。


 「やん……ふふ、ムラムラしてきた?」

 「あのですねえ……」


 耳元でイライラとした声が聞こえた。だけど私はその声よりも、抱き締められる感触の方に意識がいった。

 あー、なんかすごく嬉しい。

 いいなあ、この感触。


 「えへへへー、ぎゅーっとされたぁ。あったかーい」

 「ああもう!」


 喜ぶと、ますます強く抱き締められて、私は息ができなくなった。苦しい、でも嬉しい。こういうのいいなあ、もっとしてほしいなあ、と思いながら、頬ずりして抱き締め返した。

 そしたら少し腕を緩められて、息ができるようになった。

 ふう、と一呼吸したところで、キスで唇を塞がれた。


 「ん……」


 長いキスだった。頭がくらくらして、何も考えられなくなった。でも嫌じゃないからいい。そのままいっぱいキスをしてもらった後、奥の部屋に連れて行かれて、敷かれていたお布団に押し倒された。

 ふかふかしたムートンシーツの感触が心地いい。

 覆い被さられて、ふわっと、男の人の匂いに包まれた。

 見上げると、男の顔をしたあいつがいて、私をまっすぐに見つめていた。


 「……俺だって、男ですからね」


 うん、知ってる。


 「こんなの、我慢できないですよ」


 まあ、そうだよね。


 「俺……あんたがずっと好きだったんですからね!」


 あ、それは知らなかった。


 「ん……」


 またキスされた。あいつの腕の中は、暖かくて、いい匂いがした。なんだかすごくうれしくなって、目頭が熱くなった。

 そうだ、言わなくちゃいけないことがあったんだ、て思い出して、私は彼を抱き締めた。


 「いろいろ、迷惑かけてごめんね」


 やっと素直に言えた。

 あいつは何も言わない。たぶん、びっくりしているんだろう。まあいいや、この際だから思っていること全部言っておこう。


 「いっぱい、助けてくれてありがとね」

 「見捨てないでくれて、ありがとね」

 「ホントに、ホントに、感謝してる」

 「いつも素直じゃなくて、ごめんね」


 あいつの腕に力が入った。


 「私も、あなたが好きだよ」


 ああ、頭がぼーっとする。飲みすぎたかな。くらくらして、ふわふわして、すごく幸せ。


 「マジで……しますからね」

 「うん、いいよ」


 うん、いいかな。

 このまま、こいつのものになろう。明日になったら「やっぱいらない」て言われるかもしれないけれど、まあそれでもいいや。

 こいつには、ホントにホントに、いっぱい迷惑かけたから。

 私は彼を抱き締めて、頬ずりした。ちょっぴりおひげがチクチクした。

 頬ずりする私を、あいつは思い切り抱き締めた。


 やん、苦しい、息できない。

 でも、すっごくうれしい。

 嬉しくて嬉しくて……涙があふれて……これが幸せってやつかあ、てニマニマして。


 そこで、ふわっと意識が遠のいた。

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