話せないが龍神の『加護』を受けた『口なし姫』な男爵令嬢
龍神要素は薄めです。
主人公は殆ど話しませんが、話はきちんと進みます。
お楽しみ頂けると幸いです。
それは各国から重要なお客様を招いたり、我が国の貴族当主達すら参加する、各国に1つある『加護』学校(『加護』持ちの人間が入学する学校)であり、我が国最大の学園である王国立ブラーシング高等学校の卒業パーティーで起こりました。
「デナータ・セーメマ男爵令嬢!!この場をもって、貴様との婚約を破棄!!更に私の隣に居るエリザベート・シームス公爵令嬢との婚約を発表する!!」
突然、我が国の皇太子殿下であるエリック・ブラーシング様(『加護』学校は各国に1つなので、各国の名前が学校名になっている)が皇太子殿下の婚約者との婚約破棄を口にしたのです。
因みにその婚約者とは私の事です。
私は皇太子殿下が面倒な事を言い出して、辟易としていました。
そんな私はドレスを着ているのにも関わらず、それが有る為に私だけが場違い感がある、首元のスカーフを抑えるように手を伸ばしていました。
ここで、少し自己紹介すると、私の名前はデナーダ・セーメマ男爵令嬢と言い、年齢は18歳です。
容姿は特に優れていると言う事はありませんが、他の令嬢よりも頭一つ分程は綺麗なのではと自分でも自負しております。
まあ、傾国の美女と謳われているエリザベート・シームス公爵令嬢には負けますが。
そんな私は自分の容姿に一つだけ不満があります。
それは5歳で『加護』を受けた際に、髪と目は両親の色(両親は金髪でした)を全く引いていていない、白色になってしまいましたので、そこだけは残念です。
それと諸事情により声を出す事が出来ませんが、それとあとある一点を除けば、私も普通の令嬢です。
まあ、そのある一点が私を皇太子の婚約者に押し上げたのですけどね。
因みに『加護』とは、この世界にて12歳までに与えられる可能性がある物ですが、『加護』を授かる可能性は10000人に1人と、とても低いものです。
『加護』を授けて下さるのは、神様であったり、天使であったり、妖精であったり、精霊であったり、悪魔であったりします。
『加護』にもランクはあり、1番上が神様、2番目が天使に悪魔や龍、次が精霊で最後が妖精です。
因みに神様の『加護』を受けた人は殆ど伝説レベルですので、天使か悪魔の『加護』が、実質的な最上級の『加護』と言う事になります。
それと悪魔の『加護』を授かっても『加護』を使う本人が下手な使い方をしなければ、変な目で見られる事はありません。
何せ『加護』にも、戦闘に向いた物や何かの耐性が付くだけの物等、本当に様々な物がありますからね。
以前には、この世界を悪魔の『加護』を受けた者が救った事さえ有るので、悪魔の『加護』を持つ者が変な目で見られる事がないのは、当然と言えば当然なのかもしれません。
そして、今日私が卒業する王国立ブラーシング高等学校はどんな物でも『加護』が無いと入れません。
と言うのも、この王国立ブラーシンク高等学校は、各国に1つだけ作らなければならない『加護』の事を学び、操る学校だからです。
因みに、この学校は入学費や生活費が王国から支給されますので、お金が無い人でも入れます。
なので私も当然『加護』を授けております。
まあ、私の場合は『加護』を授かった瞬間に、使い方も分かったので、『加護』を操る事が出来なくて、苦労した事はありませんけどね。
私がそんな事を考えている間にも、皇太子は何かを言っていたらしく、私に勝ち誇った様な顔をしてきました。
「どうした?私との婚約が破棄されて、声が出ない程、悲しかったのか?そうだな、今なら今までエリー(エリザベート公爵令嬢の愛称)にして来た悪逆非道な行為を謝り、地面に頭を擦りつけるだけで、私の側室にしてやっても良いぞ?」
因みに私は諸事情により喉が潰れ、声が出せません。
そのせいで私は一言も話さないので、『口なし姫』と蔑称で呼ばれていますが、その事は置いておいて、私はその事を初めて良かったと思いました。
正直、声が出せれば口汚く莫迦皇太子を、失礼しました。
皇太子殿下を怒鳴りつけていた自信があります。
さて、そんな事は置いておいて、皇太子殿下は天使の『加護』、エリザベート公爵令嬢は悪魔の『加護』を受けています。
なので、実質的な最上級の『加護』を受けた自分達が、『加護』の学校であるブラーシング高等学校のトップであり、その学校行事に数えられている卒業パーティーで何をしても問題ないと考えているのでしょう。
勝手にやるのは、構わないから巻き込まないで欲しいものです。
私がそんな事を考えていると、エリザベート公爵令嬢か意地の悪い笑みを浮かべながら、私に言いました。
「そもそも、このブラーシング高等学校での成績が番外な時点で、皇太子殿下の婚約者どころか、ブラーシング高等学校に在席している資格が無いのです。それなのに、何故卒業生としてここに居るのか疑問が尽きませんね」
エリザベート公爵令嬢がそう言うと、静まり返っていた会場が、途端に騒がしくなりました。
何せ、『加護』の学校での成績は、自身が授かった天使、又は悪魔以下の『加護』をどれ程に理解し、そして『加護』の効果を引き出しているかで決まります。
それは、例えランクが1番低い妖精の『加護』でも、『加護』学校ではトップに立てると言う事です。
つまり、不正入学が許されていない、この『加護』学校で番外(成績外)な理由は、主に1つだけです。
その理由はこの会場をざわつかせるのには、理由を知っているであろうパーティー会場に来ている各家当主と招待客の皆様には、十分な理由だったのです。
そして、番外の生徒は各国で『加護』学校が創設されてからの1500年間で、9人しか確認されていません。
確か直近でも300年前だった筈です。
なので『加護』学校では、番外の意味は習いません。
せいぜい、社交界や『加護』学校卒業後に番外がある理由を知るかどうかくらいなので、知らなくても仕方無いですね。
因みに『加護』学校在学中は、私も番外の事をかなり馬鹿にされました。
まあ、私の事を馬鹿にした生徒達は、この後かなり不味い事になりますが、頑張って下さいとしか言いようがありませんね。
私がそんな事を考えて「ぼ〜」と立っていると、皇太子殿下がキレました。
「おい貴様!!『口なし姫』の分際で、私の命令が聞けないのか!!」
皇太子殿下はそう言って、私の首元に巻いていたスカーフを取りました。
私は特に何も考えずに立っていたので、8歳から家族だけの前以外では取ってこなかったスカーフを、あっさり取られてしまいました。
スカーフが取られた私の首元を見た周囲の人が、驚きのあまり息を呑みました。
その驚いた理由は簡単に分かります。
私の首元には、それ程の傷を受ければ生きては居られないレベルの(私の首周りの殆どを覆う程の大きな)傷跡があったのです。
先程述べた私が声を出せない諸事情、それはこの傷跡です。
以前、とある事件で負った傷なのですが、私の『加護』は戦闘特化なだけあって、命は取り留めましたが、声は戻らなかったのです。
そんな私の傷跡を見て、皇太子殿下は顔を真っ赤にして言いました。
「な、な、き、貴様!!その傷跡を隠して、私の婚約者として居座っていたのか!!」
私はさっきからキレまくる皇太子殿下に「勘弁して欲しいです。そもそも、この傷跡のせいで貴方に嫁ぐ他無くなったのですから」と言いたかったのですけど、声が出ないので言えません。
何か帰りたくなって来ました。
国王陛下からは「この行事だけは絶対に私も行くので、私が会場に着くまでは待っていて欲しい」と言われたのですが、無視して帰ってしまいましょうか。
私がそんな事を考えていると、卒業パーティーの会場の扉が開きました。
ここまで遅い時間(皇太子殿下のせいで進行が止まっていますが、この時間なら最終成績発表(10位まで)が行われている時間)だと、国王陛下レベルで無いと失礼に当たる筈ですが、どなたでしょうか?
私以外の卒業パーティーの会場の皆様も、私と同じ考えに至ったのか、皆様も扉の方を向いていました。
そして、扉から入って来られたのは、国王陛下と王妃様、それに見知らぬ18歳ほどの見た目の女性でした。
パーティー会場の皆様は国王陛下の登場に驚き固まって居られました。
私は元から知っていたので、驚きこそしませんでしたが、国王陛下が憤怒の表情で、ずんずんとこちらに進んでくるので困惑しておりました。
と言うのも、私の首元の傷は国王陛下夫妻並びに宰相や主要大臣は知っている物だったので、何故国王陛下が怒っているのか、分からなかったのです。
私が困惑していると、皇太子殿下はにこやかに言いました。
「父上!!良い所にいらっしゃいました!!この『口なし姫』は王家にこの醜い傷跡があー」
皇太子殿下がそこまで言った瞬間、国王陛下は拳を握り締めて皇太子殿下を思いっきり殴りました。
「黙れ!!この愚息が!!」
国王陛下は皇太子殿下を殴った後、私に声をかけてきました。
「デナータ、愚息が大変に失礼な事をした。誠に申し訳ない」
国王陛下はそう言って深々と頭を下げました。
私達(会場に居た皆様も)は、その行動にとても驚き、私は辞めてくださるように言いたかったのですけど、声が出ませんでしたので、ブンブンと首を横に振るだけで精一杯でした。
すると、そんな様子を見た王妃様が国王陛下に声をかけました。
「陛下、貴方が公式の場で頭を下げて、デナータが困ってますわよ。デナータはまだ声が出ないのですから、あまり困らせないで下さい」
私は王妃の言葉に縦に首を振る事で同意しました。
因みに国王陛下と王妃様が私の事をデナータと呼ぶのは、声が出ずとも王妃教育を頑張っていた私を、とても気に入っていて下さり、男爵令嬢である私には恐れ多い事ですが、私の事を娘だと思っているとも言って下さった事があるからです。
王妃様の言葉を聞いて、国王陛下は顔を上げて言いました。
「おお!!そうだった、そうだった。我が愚息があまりにも失礼だった為に、それを忘れていた。
聖女様、どうぞデナータを直して下さい」
国王陛下は国王陛下夫妻と一緒にパーティー会場入りした、少女に声をかけました。
私達は国王陛下の『聖女様』と言う言葉を聞き、驚きました。
何せ、聖女様は『加護』の力を使い、欠損回復をさせる事が出来る人間の女性が与えられる物であり、聖女様は150年に1人居るかどうかのレベルの方だからです。
しかも、欠損回復レベルとなると最低でも天使か悪魔クラスの回復に優れた方の『加護』が必要になる上に、かなり上手く『加護』を使わないといけなかった筈です。
因みに男性の場合は聖人と言われます。
私達が突然の聖女様の登場に驚いていると、聖女様と呼ばれた女性は心得たとばかりに頷きました。
「分かりました。それではデナータ様、少々失礼します」
聖女様はそう言って私の首元の傷跡に触りました。
次の瞬間、聖女様が触った傷跡が光だし少しづつ暖かくなりました。
光が収まると、聖女様が私に向かって言いました。
「デナータ様。傷跡は治りましたよ。恐らくはもう話せる筈です。何か話してみて下さい」
「え?」
私は聖女様の言葉を受けて、思わず声を上げてしまいました。
そして、私はそれを理解した瞬間、すぐに首元を触りました。
今までなら、傷を受けた場所の皮膚と受けていない場所の皮膚に少し違いがありましたが、今はその違いがありませんでした。
私はその違いがなくなり、数秒してから首元の傷跡が治ったのだと理解しました。
なので、私は聖女様にお礼を言いました。
「あ、ありがとうございます」
少し声が変になってしまいましたが、7歳の時に首元に傷を負ってからの11年間は全く喋れなかったので、仕方がありません。
ですが、私は11年ぶりに話せた事で感極まってしまい、王妃教育を受け表情を取り繕う事が出来る様になった、私でも少し泣いてしまいました。
私の声を聞き、私の嬉し涙を見た国王陛下と王妃様は涙ぐんでおり、領地から離れる事が出来なかった両親もこの事を知れば、とても喜んでくれるでしょう。
会場は国王陛下と王妃様の涙により、私が話さなかったのは話さないのではなく、話せないからだと理解し、完全に私に同情ムードになりました。
皇太子殿下は会場のムードが変わった事を理解し、このままでは不味いと思ったのか、喚き出しました。
「ち、父上!!そいつが話せなかった理由は分かりました!!ですが、話せなかっただけで無く、私に話せない事を報告しなかったそいつは、王妃には向かない筈です!!ですからどうか、エリザベート公爵令嬢との婚約を認めて下さい!!」
皇太子殿下がそう言うと、国王陛下と王妃様、それに先程まで私をとても優しい目で見ておられた聖女様までもが、皇太子殿下に冷たい目を向けました。
私はその目が自身に向けられた物で無いと理解していましたが、ビクリと反応してしまいました。
国王陛下は皇太子殿下を見て、心底失望した様なため息をついてから、言いました。
「はぁ〜。そなたの言いたい事はよく分かった。良いだろう。エリザベート公爵令嬢との婚約を認めてやる」
国王陛下がそう言うと、皇太子殿下とエリザベート公爵令嬢は喜び合い、顔を明るくしました。
会場の皆様は私に同情ムードでしたから、国王陛下の言葉に戸惑いました。
そして、私も「確かに声が出る様になり、首元も戻ったのですから、皇太子殿下に貰って貰わなくても、良いのですけど、流石に皇太子殿下に婚約破棄された令嬢では嫁ぎ先が無いのですが」と思ってしまいました。
私がそんな事を考えて、不安に思っていると、王妃様が私に優しい声をかけてくれました。
「デナータ。大丈夫よ。国王陛下は愚息の婚約をただで認める訳が無いから」
私は王妃様の言動で、皇太子殿下にかなり怒っていらっしゃると理解しました。
私がそれを理解すると、同時に国王陛下も頷きながら言いました。
「もちろんだ。エリックは皇太子の資格は剥奪。王家からは絶縁とし、エリザベート公爵令嬢と共に、男爵家当主として、男爵家を切り盛りせよ。切り盛りする男爵家は追って沙汰を出す。
又、この2人並びに孫の代までは国外に出る事を禁ずる。孫の代までは国外とは、書面でのやりとりしか許可を出さない。そして、下手な行動を取れば国家反逆罪を適応し、男爵家を即時取り潰すものし、その際の男爵家当主並び男爵夫人は処刑するものとする。
そして、この時より王城への無断の立ち入りを禁ずる。エリックは貴金属並びに貴重品以外の持ち物を運び出す程度の滞在ならば認めるが、それも3日以内に完了させよ。それと持ち物を運び出す際には、城の人手を使う事を禁ずる。
そして、これらは王命である。貴様らに拒否の権利は無い」
国王陛下は一息にそう言い切りました。
突然の皇太子資格の剥奪、更には王族からの追放、国外追放にはならなかったものの、男爵家をエリザベート公爵令嬢と共に切り盛りしなければなりません。
その上、『下手な行動をすれば』と言う何とも曖昧な言葉の王命ですので、国王陛下の機嫌を損ねれば、男爵家の領地を決められた翌日にでも処刑されてもおかしくはありません。
つまり、自由はほぼ無く、不正をしようものなら即座に処刑されます。
ある意味で国外追放よりも重い罰に、元皇太子殿下とエリザベート公爵令嬢は青ざめ、会場の皆様も含めて私も、呆気に取られていました。
そして、この場で1番早く立ち直ったのは元皇太子殿下でした。
と言うか、この場で即座に立ち直らなければ反論も出来ないと気がついたのでしょう。
元皇太子殿下は国王陛下に向かって叫びました。
「ど、どうして私が男爵家の当主なのですか!?それに皇太子の資格を剥奪に、王家からの絶縁まで!!一体どういう事なのですか、父上!!」
国王陛下は元皇太子殿下に怒鳴りつけました。
「貴様は王家から絶縁したのだ!!余の事を父等と呼ぶでない!!」
元皇太子殿下は国王陛下に怒鳴られて小さく悲鳴を上げました。
今の国王陛下はそれ程に怖かったのです。
国王陛下は怒鳴った後、悲しそうに首を横に振りました。
「その事はこの際どうでもよい。それよりもエリックよ。貴様はデナータが貴様の婚約者になった意味を考えなかったのか?」
国王陛下がそう言うと、元皇太子殿下は首を傾げました。
「は?デナータが私の婚約者になった意味?そんな物、デナータが私に惚れたからでは」
元皇太子殿下がそう言うと、国王陛下は再び怒鳴りつけました。
「ふざけるな!!当時は第一王子ではあったと言え、我が国の王家は本来なら最低でも伯爵家からしか妃を取ることの出来無いのだぞ!!それならば、男爵令嬢であるデナータが貴様の婚約者になった時点で、それ相応の理由があると何故理解しようとしない!!
そもそも!!誰が、貴様の様なうつけ者な上に、浮気者等を好きになるものか!!貴様がデナータを傷物にしたのだろうが!!貴様のせいでデナータは11年もの間、声を出す事が出来なかったのだぞ!!
貴様とデナータが7歳の時!!貴様が城の誰にも言わずに、城を抜け出し!!犯罪組織に捕まり!!それをデナータが『加護』の力を使っていち早く見つけ出し!!更には救助まで行い!!貴様が犯罪組織に傷つけられそうになったら、貴様が可愛そうだったからと言う理由で貴様が切りつけられる所を庇ったのだぞ!!」
国王陛下の突然の暴露に会場はとてもざわつきました。
確かに国王陛下と王妃様からは、かなり以前からこの卒業パーティーで私が元皇太子殿下を救った、このエピソードや他のエピソードも公表して、私の男爵家を最低でも伯爵家に、最高で侯爵家にすると息巻いて居られました。
ですが、この話は元皇太子殿下にはゴシップになりかねないので、公表しないと思って居たのですが、・・・その場の勢いでしょうか?
私がそんな事を思っていると、元皇太子殿下はムキになったのか反論してきました。
「あ、あの時、私を救ってくれた方は美しい女性でした!!けっして、そこのちんちくりんではありません!!」
私は元皇太子殿下の言葉に密かにダメージを受けました。
(ちんちくりん。私はこれでも同年代の中なら頭一つは抜け出ている筈なのですけれど)
私がそんな事を思っていると、国王陛下が私に向き直り言いました。
「デナータ。お前の『加護』を愚息に見せてやってくれないか?今のデナータなら、あの時と身長と体型はさほど変わらないから、洋服の問題もあるまい」
私は国王陛下にそう言われましたので、一度頷き意識して切っていた『加護』を発動させました。
私が『加護』を発動させた瞬間、周囲の空気が変わりました。
私の周囲の風が私を中心に周りだし、小さな竜巻を起こしました。
竜巻が収まると、私の目と髪の色は緑になっていました。
そして、パーティー会場の皆様は私の目と髪の色の変化に呆然としていました。
国王陛下はパーティー会場を見回して、満足そうに一度頷き、言いました。
「それでは紹介しよう。『龍神の加護』を授かった。デナータ・セーメマ男爵令嬢だ。彼女は神クラスの『加護』持ちであった為、この『加護』学校の卒業パーティーまでは『加護』の内容を隠していた。
ただし、彼女はこの卒業パーティーまでに当時は第一王子であり、先程までは元皇太子だったエリックを先程私が話した一件で、一度救っている。
又、このブラーシング王国の危機を人知れず、一度救った事がある。それは数年前に起こった干ばつである。これには皆、覚えがあるであろう。
正式な通達は後日になるが、以上の2つの功績を称え、セーメマ男爵家を最低でも伯爵家に上げるものとする」
国王陛下がそう言っても、誰も反応しませんでした。
私の選んだ『龍神の加護』は分かりづらかったのでしょうか?
今回選んだのは、元皇太子殿下を犯罪組織から取り返しに向かった際に使った『龍神の加護(緑)』の龍人化モードです。
『龍神の加護』には赤、青、緑、茶、黒、白の6色と龍人化、龍化、龍神化の3段階があります。
色は赤が炎や雷(何故雷が使えるかは謎)、青が水や氷、緑が風や草木、茶が土や岩、黒が闇、白が光を操り、複数の色を同時には操る事が出来ず、どの段階でも目と髪の色が同じ物だけを操る事が出来ます。
段階は龍人化は体の所々に鱗が浮き上がりますが、%により身体能力が上下し、目に見えている炎や水等(髪色と同じ自然界の物)を操る事が出来ます。
そして、龍人化の%ですが、100%は1番龍化に近く、全身が鱗で覆われます。
又、龍人化は%が増える毎に浮き上がってくる鱗が増えます。
現在はお腹と背中に鱗が少しあるだけで大体は15%くらいです。
龍化は完全に龍の姿になり、%はありません。
%が無い代わりに龍人化の100%よりも身体能力や自然界の物を操る能力が上がります。
ただ体が、かなり大きくなるので野外でしか使えません。
龍神化は文字的に怖いので、まだ試してません。
私がそんな事を考えていると、聖女様が私に声をかけてきました。
「国王陛下と王妃様からは、デナータ様の龍人化はとても魅力的だから注意して下さいと言われましたが、なるほど。確かに注意しておかないと、惚れてしまいそうですね」
私は聖女様の言葉に首を傾げて聞きました。
「み、魅力的ですか?龍人化は服で隠れていますが、所々に鱗が浮き出ていますし、目と髪色が変わるだけで、そこまで変わらないと思うのですけど」
そう答えた私に聖女様が苦笑いで、首を横に振りました。
そして、聖女様が更に何かを言おうと口を開いた所で、元皇太子殿下が大声を上げました。
「ついに!!ついに見つけた!!私を救ってくれた女性!!どうか、私と結婚して下さい!!」
元皇太子殿下のこの一言に、会場は凍りつきました。
しかし、私は条件反射的に口を開いてしまいました。
「え、いやです」
皇太子殿下は私の一言にピシリと固まりました。
国王陛下は私の一言を聞いて首を横に振りながら言いました。
「今まで碌な婚約者として接して来なかった相手に、自身が婚約破棄してから求婚とは。本当に愚かな愚息だな」
国王陛下が心底見損なった様に言いました。
私は、これで元皇太子殿下が撃沈したと思ったのですが、今度はエリザベート公爵令嬢の方が復活してしまいました。
「国王陛下!!何故、公爵令嬢である私が男爵家等にいかないと行けないのですか!!私は悪魔クラスの『加護』を持っているのですよ!!」
国王陛下はエリザベート公爵令嬢を冷たい目で見ながら言いました。
「悪魔クラスの『加護』を持つ者であろうと、神クラスの、しかも戦闘系統ではトップに近い『龍神の加護』を持つデナータと比較など出来ない。それでも無理矢理に比較するならば、デナータは天使や悪魔クラスの『加護』を持つ者が100人と等価だ。
そもそも、貴様ら2人が男爵家に行く事は私が王命で決定したのだ。これには、デナータの『加護』の事を知っている王妃に宰相、騎士団長に司法長(裁判をする場所のトップで司法に関してだけは、国王陛下の王命すらも拒否出来ます)すら、同意している。例え公爵家の当主であろうと拒否はおろか、内容の変更すら出来んわ」
国王陛下がそう言うと、エリザベート公爵令嬢は完全に呆気に取られて、呆然としていました。
国王陛下はパーティー会場に居た兵士に指示を出しました。
「衛兵、この2人をパーティー会場の隅に。本当なら会場の外に叩き出してやりたいが、これからは男爵家の事で忙しくなるだろうからな。
せめてもの情けだ。このパーティーを楽しむといい。ただし、うるさくしたら容赦なく叩き出せ」
国王陛下の指示の指示通りに衛兵の皆様が、お2人を壁際に運んで行きました。
私はこれからどう卒業パーティーを続行するのかと、気になっていたのですが、突然聖女様が私の前で跪きました。
会場に居る全員(聖女様をお連れした国王陛下と王妃様を含めて)が、聖女様の行動にピシリと固まりました。
しかし、聖女はそんな会場の雰囲気を無視して言いました。
「デナータ様。どうか私を貴方様のお側に置いては下さいませんか?」
私があまりの急展開に目を回しそうになっていると、来賓の方の一人が立ち上がり声を上げました。
「ま、待って下さい聖女様!!貴方様は我が国の聖女なのですよ!?それが急に個人に仕える等と何を言っているのですか!?」
立ち上がったのは、我がブラーシング王国のお隣のスラウハ王国の大使の方でした。
聖女様は大使の方にとても申し訳なさそうに言いました。
「確かに私の母国はスラウハ王国です。ですがデナータ様の龍人化を見て分かってしまったのです。『ああ!!私の仕えるべき主はここに居たのだと!!』
元々私の『加護』は、天使や悪魔クラスと並ぶ龍クラスの『加護』である、『緑龍の加護』なのです。その私が、龍クラスを超える龍の頂点である龍神様の『龍神の加護』を授かっているデナータ様の下に付くのは自然な事なのです」
私は、というか私を含めた周囲の皆様は、急にスイッチが入った聖女様にぽかんとしていました。
しかし、今回は私が1番早く立ち直ったので、聖女様に提案しました。
「あ、あの聖女様?私は上とか下とかは気にしないので、そのお、お友達になっては下さいませんか?」
私は何故だか分かりませんが、聖女様は私がただ断っても絶対に意見を変えないと分かってしまったので、お友達と言う妥協点を口にしました。
ただ私は『龍神の加護』を授かっているとは言え、特に地位がある訳ではないので、聖女様がお友達では嫌だと言うのでは無いかと、不安になり胸の前で両手を祈る様に組んで聖女様のお言葉を待ちました。
私の言葉を聞いて聖女様は、急に胸の辺りを抑えて顔を真っ赤にしましたが、私の両手を聖女様の両手で包んで言いました。
「も、勿論です、デナータ様!!私はこの国にたった今、住む事に決めたので、一緒にお出かけしたり、お買い物をしたりしましょう!!」
私は聖女様のお言葉を聞いて、頬が引き攣るのを感じつつ、答えました。
「え、ええ」
私は聖女様に答えつつ、誰が聖女様を引き離してくれないかと思って周りを見たのですが、聖女様の豹変に驚き、皆様も固まっておりました。
そんな中、聖女様のお言葉を聞いた、スラウハ王国の大使の方は聖女様の「この国に住む事に決めた」発言にフラフラとしていますが、大丈夫でしょうか。
私がそんな事を考えていると、後ろから両肩を掴まれて引っ張られました。
私が一体誰が私を引っ張ったのかを見ると、それは王妃様でした。
王妃様は少し不機嫌な顔をして、聖女様に言いました。
「デナータは家族になれなかったとは言え、私の大事な娘の様な存在なのです。デナータを悲しませたら、例え聖女様でもただでは置きませんからね?」
私は王妃様のお声を聞いて、それが本気だと理解してしまった為、「え、ただでは置かないって何をするつもりですか、王妃様」と思っていました。
そんな私を他所に、聖女様は綺麗なカーテシーをして答えました。
「勿論です。お友達とは言え、私の仕えるに値する方を悲しませる様な事は致しません」
王妃様は聖女様のお言葉に満足そうに頷いていらしました。
その後は、私の元に各国の大使の方がいらして、我が国に来ないかとかなり勧誘されました。
それは国王陛下と王妃様の態度を見ていた為、元々ダメもとだったらしく、私が一度断ると特に粘る事なく去って行きました。
そして、その後は学園の卒業生の皆様が私に謝って来ました。
ただ、このタイミングでよく考えたら高位貴族のご子息やご令嬢の皆様の多くは、私を馬鹿にしたりしなかったなと思い出しました。
その件を国王陛下にそれとなく聞いたのですが、どうやら高位貴族のご子息やご令嬢の方々は、幼少期の『加護』に関する教育で、学園での番外の扱いについて少しだけ勉強するらしいです。
高位貴族の方々は、確信こそ無かったものの番外の私が、もしかしたら神クラスの『加護』を持っているのかと思い遠巻きに見ているだけだったそうです。
そして、その後は本当に何事も無く、卒業パーティーが終わったのですが、聖女様は本当にこの国に住み始めました。
これは我が国が聖女様を無理矢理、略奪したのではないかと問題になりかけましたが、各国国王会議(1年に1回、各国の王が集まり話し合う会議)にて、聖女様がきちんと説明した為、聖女様の所属を巡り少し揉めたそうですが、大きな問題にはなりませんでした。
そんなこんなで、私は今、聖女様と公爵令嬢のラーナ・エミーニ様に王妃様とお茶会をしています。
因みにラーナ様は、卒業パーティー後にある事件をきっかけに、私と聖女様と仲良くなり、今ではよくお茶会をしています。
そのある事件は、解決出来無ければ我が国の根幹を揺るがしかねない、過去最大級の事件でしたが、そのお話はまた今度としましょう。
どうでしたか?
今の所は連載、又は別話を書く予定はありません。
ただブックマーク等が伸びたり、感想で続きが気になるなどが多く来れば、書きたいと思っています。
ブックマークして下さったお陰で、日間短編ランキングにランクインしました!!
ブックマークして下さった皆様ありがとうございます!!
最後にあらすじにも書きましたが、『国と勇者達に捨てられたカードマスターと大罪級に怠惰な娘から始まる絶対者討伐!!』を絶賛連載中ですので、お読み頂けると幸いです。