番外編 チリオスタの嫉妬1
ご無沙汰しております!
「HJ小説大賞2021」の1次選考を通過いたしました!皆様と一緒に喜べたらなぁと思って番外編を書いてみました!
「レオン! お帰りなさい!」
「ただいまエレノア。会いたかったよ」
「私もです」
国内の視察に出掛けていたレオンを出迎える。
王太子就任にあたり、リーフレット以外であまり顔の知られていないレオンは顔見せがてら有力諸侯たちの領地へ視察に行っていた。
私は王妃教育のため城にとどまっていたので、会うのはひと月ぶりだ。
「エレノアは無理していませんか?」
レオンは私の脇腹を持って軽々と抱き上げた。レオンを見下ろすなんて普段ないので新鮮だ。
「レオン、皆の前です」
私は小さな声で諫めたが、久しぶりに会うレオンに胸が高鳴っていたのも事実だった。
「何だか痩せたような気がするな」
「少し。でも心配いりませんわ」
元々は伯爵令嬢なので、それなりの教養はあるが王妃教育ともなると別格だった。このひと月の間、レオンがいない寂しさを勉強することで忘れようと必死になっていたことは認める。そのせいで食が落ち、少し体重が減ったのも本当だ。
「心配だな。今夜は僕が食事を食べさせよう」
「もう、自分で食べられます」
「いや、僕が」
「くすくす、レオンったら」
レオンは私の明るい笑い声を聞いて微笑むと、ふわりと私を床に下ろした。
「帰ったか」
「兄上、ただいま戻りました」
レオンの長兄、チリオスタ殿下が不意に柱の影から現れた。
私は手を重ねてお辞儀をしようとすると、手でそれを制された。
「国内の領地を巡るのは初めてだろう。どうだった」
「皆活気に溢れて美しい町でした」
「そうか、これがお前の国だ」
「守ります。いえ、それ以上に豊かにしてみせます。エレノアとともに」
レオンが私の腰をぐっと引き寄せた。その柔らかな瞳は私を見て優しく微笑んだ。
「私もお約束いたします。レオンとともにこの国をよりよいものに」
国王陛下がレオンの王太子就任を言い渡した時、陛下は「何事も二人で乗り越えよ」と仰った。あの時の言葉は今も胸に刻まれている。
「しかしお前たちは本当に仲が良いのだな」
「当然ではないですか。何です兄上、嫉妬ですか」
「そうだな、お前たち夫婦に嫉妬しているのかもしれん」
チリオスタ殿下はにやりと口角を上げた。レオンはあからさまに「しまった」という顔をした。全く、藪蛇ですよこれは。
私、レオン、チリオスタ殿下はサロンでお茶をすることになった。
せっかく二人の時間が取れると思ったのに、何ですかこれは。
「して、どうすればお前たちのように打ち解けられる?」
あぁ、出ました。
チリオスタ殿下はこういう答えにくいことをさらりと聞くのです。そんなのフレデリカ様と話し合えばよいではないですか!
「兄上は打ち解けていないのですか?」
レオンはめんどくさそうにしながらも、根が優しいのできちんと話を聞く。そういうところは嫌いではないですが、どうして私まで同席せねばならぬのでしょうか!?
「そうだな、フレデリカは今も昔もあまり変わらん。私を殿下と呼び、砕けた話し方は決してしない。話も、そうだな、圧倒的に聞き役でいることが多い。それも批判も意見もせず、ただ静かに聞いているだけだ」
フレデリカ様は元々そういう方ですからね。
「お前も話せと言っても、天気や今日あった出来事など、客観的な事実を述べることが多いな」
「兄上はもっと打ち解けて仲良くなりたいと?」
「そうだ。お前たちはどのように打ち解けた」
えぇっと、どのようにと言われましても。
私は初対面で「ビジネスパートナーになろう」と持ち掛けるような慎ましさの欠片もない人間でしたので、手本にはまるでならないような。
「そうですね、あれは僕らが初めて寝た日の翌朝のことでしょうか」
は!? 何を言い出すのですか!?
初めて「寝た」って何!? どれ!?
「あれは公国コロンへ向かう道中のこと。目を覚まして隣にいたエレノアをこの手に掴んだ時、ぐっと距離が近付いて、エレノアも明らかに僕を異性として認識して――」
目を細めて語り出さないでください!!
「私たちは『ビジネスパートナー』でしたので、最初から互いに気を遣うことはございませんでした。提案があれば提案し、意見もし、初めからそういう関係だっただけのことですわ!」
私は鼻息荒く一気に言い切った。レオンはポカンと口を開けていた。
はい、そのまま口を固定してそれ以上恥ずかしいことを暴露しないでくださいませ!
「それではフレデリカとの関係を深めるアドバイスになっていないではないか」
知りませんよ!
「レオンも長旅で疲れているのです。今日はこのへんで――」
「それだ」
「?」
「名前だ。うん、名前を呼び合うのはいかにも打ち解けている感じがするな」
何を一人で納得していらっしゃる?
「ご苦労だった。ではな」
チリオスタ殿下は私たちに碌な説明もせず、さっさと行ってしまった。
***
「フレデリカ、入るぞ」
「殿下、今お茶のご用意を」
フレデリカは読んでいた本を侍女に渡すと、チリオスタの前で礼をした。
「そうではない」
「? お茶ではなくお酒をお召しになられますか?」
「チリオスタ! おかえりなさい!、だ」
チリオスタはレオン帰城の際のエレノアの姿を思い出しながら言った。
フレデリカは一瞬固まって、しばらく息をするのを忘れた。
「……え?」
声にならない声が喉の奥で小さく震えた。
『月影耽美譚~月子の物語』連載中です。
『悪役令嬢、閉ざされた旧校舎で悪霊さえも虐げてしまう。』夏のホラー企画で書き上げた新作(完結済)です。
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