番外編 カオカオ酒にご用心!?
「奥様、今年も届きましたよ」
「ほんと?! どこにあるの?!」
夕日が落ちる頃、私は出来るだけテンションを抑えて報告した。
でも奥様のテンションは見事に打ち上がった。
今日は年に一度、コロン公国よりカオカオが届く日。
奥様が言うには「返済日」だそうですが。
奥様は朝からそわそわしていたので、侍女の私は何度も荷受け場に足を運びました。
「先程、荷受け場に到着したところです」
「行きたい!」
「ご無理をおっしゃらないでください」
次期国王妃たるエレノア様が荷受け場に足を運ぶなど、何を言われるかわかったものではありません。しかもカオカオ欲しさに。
「明日のご朝食はカオカオ尽くしにするよう伝えておりますので」
「すぐそばにあるのに明日までお預けなんて……酷よ……」
大袈裟です。
「ではこちらはいかがですか? 一緒に荷馬車に積まれていた加工品なのですが、拝借して参りました」
「クロエ! 好き! 大好き!」
「大好きなのはカオカオでしょう」
「どっちもよ!」
私への好きは食べ物と同じですか。
まぁ主人が喜んでいるので良しとしましょう。
「カオカオを煮詰めて、アルコールを加えたシロップだそうです。お湯で割って飲むのがオススメだとか」
「お酒?! 初めてのお酒がカオカオだなんて、何て素晴らしいの!」
「お酒を飲むようになるなんて、お嬢様とお呼びしていた頃が懐かしゅうございますね」
私はお湯を用意しながら言った。
「あら、ついこの間のことじゃない」
そういう奥様はダイニングセットに座り、カオカオ酒の到着を姿勢を正して待っていた。
おかしくて思わず笑みがこぼれそうになる。
「お夕食もこちらに運ばせますね。くれぐれも飲みすぎにはご注意くださいませ。今夜は旦那様が出張から戻られますので」
「レオンが戻るのね。ひと月会わなかっただけなのに、何だかとっても久しぶりな感じがするわ」
「エレノア、ただいま。エ、エレノア?!」
旦那様が驚くのも無理はありません。
帰るなりべったりくっつかれては困ってしまいますよね。
手の置き場にも困って、両手を挙げて降参のポーズをしているではありませんか。
「おかえりなさいましぇ」
「クロエ、何事だ」
旦那様は私を見た。
私は深く頭を下げて返事をする。
「本日カオカオ酒が届いたのですが、お止めしても聞かず。申し訳ございません」
「あぁ、カオカオか」
旦那様は色々と察したようで、奥様の背中をポンポンと撫でた。
「レオン。さみしかったです」
「あ、あぁ。すみません」
「レオンは私と会えなくて寂しくなかったのですか?」
「そんなに潤んだ目で見つめられると、困るな」
奥様は旦那様の胸に両手を当て、上目遣いでその顔を見つめていた。
「はぁ。レオンはいつも素敵ですね」
熱っぽい視線に甘ったるい声、そんな武器どこに隠し持っていたのですか。
「エレノア、少し離れましょう。少し酔っているのですよ。水でも――」
「嫌です! どうか離れないでくださいませ」
細腕で力いっぱいのハグをする奥様。
もう見ていられません。
「僕の理性にも限界というものがあるのですよ」
「レオン。私はこのところ、とてもさみしかったのです」
「エレノア?」
「レオンが立派になって、公務でもたくさん成果を上げられて、誇らしく思っております」
「まだまだですよ」
「でもレオンには私だけの王子様でいてほしい。私だけを見てほしい。みんなの王子様になんてならないでほしい。なんて思ってしまうことがあるのです。駄目な妻でごめんなさい」
旦那様はふっと笑って優しく頭に手を置いた。
「僕の心はエレノアだけのものですよ」
「本当に?」
「あぁ」
「キスは?」
「え?」
「キスは、してくださらないのですか」
旦那様が私の方を見たので、私は静かに一礼して退出した。
「頭が痛い」
かなり朝寝坊をした奥様は、げっそりした顔で上体を起こした。
「飲みすぎです」
「お酒ってこわい。何も覚えてないわ」
私は昨夜のうちに作った一連のやり取りを書いた紙を渡した。
「そう思い、自戒を促すためにも記録させていただきました」
「なっ!? こ、これ!」
奥様の手はぷるぷる震えた。
「う、嘘よね?」
「お父上もそうなのです。お酒をお召しになると、理性的でなくなり、記憶をなくされることもしばしば」
「あ、あぁっ!」
奥様は再びベッドにもぐりこんだ。
「これに懲りたらお酒は嗜む程度になさいませ」
「はい」
「まぁ、旦那様は喜んでおいでのようでしたが」
「っ!! 寝ます、もう一度寝ます!」
「駄目ですよ」
「現実逃避くらいさせてください」
させてあげられたら良いのですが、お生憎でした。
「ですがお約束されていたではございませんか。今日は旦那様の仕事が終わり次第、一日中二人きりで過ごすと」
「えぇ!?」
奥様は高い声で叫ぶと同時に布団から転げ落ちた。
「旦那様は大変やる気に満ち溢れ、早朝から執務室にこもられてらっしゃいますよ。昼食までには全て片付けると」
「い、今何時?」
「もう昼を過ぎたところでございます。間もなくお戻りになられるのでは?」
「あぁ~」
両手で赤い顔を覆う奥様に水桶を持っていく。
「朝食は下げさせましたが、ご昼食はカオカオ尽くしですよ」
「カオカオ……おそろしい食べ物ですわ」
奥様はそう言うと、待ち遠しいような、その時が来てほしくないような、複雑な顔で準備を始めた。
いつもしっかり者のエレノアの本音が少し垣間見れる回にしました。
これにて一旦「完結」に戻させていただきます。最後までお付き合いいただきありがとうございました!
評価まだお済みでない方がいらっしゃいましたら、この機会にいただけると嬉しいです。
感想もいつでも楽しみにお待ちしております!(リクエストありましたら気軽に書いてみてください。いつか二人の物語がまた紡げたらいいなと思っています。)
新作「悪役令嬢はパラ萌えされる」も連載中ですので、よろしければご覧いただけると嬉しいです。
こちらとは結構テイストが違うのですが、もしお気に入りいただけたら嬉しいです。
ではまたお会いしましょう!本当にありがとうございました!




