番外編 溺愛タイム〜レオンの場合
書きたくなった。後悔はしていない。
「レオン? おかえりなさい」
レオンの部屋の窓際で星を眺めていると、レオンがぐったりした様子で帰ってきた。
「疲れました」
「ふふ、今夜は星が冴えていますよ。一緒に眺めませんか」
暖炉の火がパチパチと鳴る。
暖かな部屋だけれど、窓越しに感じる冬の冷気は冬の深まりを感じさせた。
明日は雪になるだろうか。
「エレノア、窓辺は寒いだろう」
そう言ってレオンは私を後ろから抱きしめた。
疲労を帯びた声はやけに艶かしく感じる。
「大丈夫ですよ」
「でもこのままで」
レオンは私の首すじに顔をうずめる。
温かい息がかかるたびに心臓がトクトク鳴る。
「星はいいのですか?」
「星よりも美しいものが手の中にあるというのに?」
「レオン、恥ずかしいです」
「もっと照れるといい。ほら、頬の温度が上がってきたぞ」
レオンは頬をくっつけて言った。
「お、お茶の準備をさせますから」
「いらない」
「そ、そろそろ離してもらえませんか」
「心臓の音が速い」
「だ、だって」
「エレノアも期待してるんだろ?」
窓ガラスに映る自分の姿に思わず目を背けたくなる。
目はうるみ、眉は下がり、何だかとても物欲しそうな顔をしている。
「や、やだ」
「何が?」
「もう……。こういうのは、やはり慣れないのです」
「可愛いな。そう煽られてはたまらない」
レオンは腕に力を入れ私の身じろぎを封じる。
そしてゆっくりと唇を近づける。
私はきゅっと目をつむった。
「レオン、入るぞ」
?!
「兄上?!」
「あぁ、よい。続けよ」
いやいやいや!
チリオスタ殿下の前でなど出来ませんよ!
「遠慮していただけませんか。今日の範囲は全て終わったでしょう」
レオンは私を抱いたままムスッとした声で言った。
「それとは別件なのだ」
チリオスタは何の気遣いもなくソファにもたれかかる。
「ならばあとで部屋に行きますから」
「いや、今がいい。そして続けてくれ」
何をおっしゃいますか!
「一体何なのですか」
レオンは腕をほどくと、いかにも迷惑そうにチリオスタに向き直った。
「やめてしまうのか」
「当たり前でしょう」
「それは残念だな」
「用件は何なのです」
「口づけとはどのようにするのが良いのか、教えよ」
「は?」
いや、私もレオンも目玉ポーンですよ。
「以前言っていたではないか。エレノアは口づけをすると目がとろんとなると」
うわぁーーー!!
何を言い出すのですかーーー!!
「フレデリカは石のように固まってしまったのだ。何をどうすれば良いのだ」
「フ、フレデリカ様に、口づけを?!」
わたしはあまりの驚きに思わず声を出した。
「さっき部屋に行ったら出迎えてくれたのでな。そのまま近付いて口づけをした。すると目を見開いたまま動かなくなった」
「そ、それで、置いてきたのですか」
「何と声を掛けても何も答えぬのだ。困ってここへ来た」
いやもう、どこからつっこめばいいのかわかりません。
「兄上、合意が必要ですよ」
「何? 私とフレデリカは夫婦となって長いのだぞ」
「ですがこれまでほとんど部屋には寄り付かなかったのでしょう」
「忙しかったからな」
「はぁ。泣かれなかっただけでもよかったですね」
そういえば私たちのファーストキスは、私が泣いてしまったんでしたね。
思い出すだけで顔から湯気が出そうです。
「いいですか兄上。そういうことをするのなら、合意が何より大切なのです」
「わかった。ではする前に聞けばよいのだな」
「違います」
「何だ?」
「言葉なしに合意を伝え合う。それがムードです。雰囲気です」
おぉ、レオンが逞しく見えますよ。
私は隠れてしまいたいですけどね!
「なるほど。背後から抱きしめ、顔を寄せ合うというというのはそういうことか」
ぎゃー!!
そういうことを言葉にしないでください!!
「他にもありますよ。手を握るとか、腕に触れるとか、髪を撫でるとか、目を見つめるとか、愛の言葉を囁くとか」
あぁ、普段やっていることがバレてしまうではありませんか。
「ふむ、やってみよう」
フレデリカ様、頑張ってくださいね。
明日必ずお慰めいたしますからね。
「それで相手の反応を見てください。嫌がったならそこで終わり、そうではなければ、まぁそこは兄上が考えてください」
「わかった。邪魔をしたな」
「全くですよ」
「言うではないか」
チリオスタはそう言って笑うと部屋を出て行った。
「さぁ、エレノア。仕切り直しです。寝室に行きましょうか。ここではまた兄上が来るかもしれませんから」
「え、えぇ?! この状況で続きですか?!」
いや、無理ですよ。
さっきので恥ずかしさが限界突破した上、今ので一気にしぼんでしまいましたからね。
「嫌ですか?」
「ちょっと、そのような気には」
合意できかねます。
「ならばその気にさせるしかないな」
「?!」
レオンはひょいと私をお姫様抱っこすると、寝室へと運んだ。
私は優しくベッドに下ろされる。
「僕の可愛いお姫様。愛していますよ」
「レ、レオン」
薄暗がりの寝室に、レオンの声が響く。
「ほら。僕を見てください」
私の上に覆いかぶさるようにしたレオンを見上げる。
「あ、あの」
「エレノアも言ってください」
「そ、そんな。無理です」
恥ずかしさに思わず顔を背ける。
するとレオンの手のひらが私の頬に触れ、強引に視線を戻される。
「愛している?」
「っ!」
ずるい。そんな優しい顔で聞かれたら、頷くしかない。
「はい。愛しています」
「エレノアの肌は柔らかいな」
レオンはそう言うと、手のひらで触れていない方の頬にそっと唇を落とした。
「エレノア、その目は合意と受け取っても?」
「し、知りません」
「僕は知っているよ。そのとろんとした目は合意のしるしだ」
「な、ならば聞かないでください」
レオンはほとんど触れそうな距離に顔を近づける。
「聞きたいな」
「いじわる」
「あぁ、何だか意地悪したい気分だ」
「キス、してください」
「姫のご所望とあれば」
そう言うとレオンは何度も口づけをした。
次回、フレデリカ様のご様子をお伝えいたします。




