番外編 リースとお茶会4
「リース様、災難でしたわね」
「いいえ、エレノア様。グルジ公爵とのことがなければ夫にも出会えなかったのです。それにグルジ公爵からは謝罪のお手紙もいただきました」
リースは申し訳なさそうに言った。
グルジ公爵のところへはマドリン公爵夫妻が謝罪と断りに行ったらしい。
グルジ公爵はリースのポスターを見て冷静さを失ってはいたが、若いリースを亡き妻の身代わりにしようとしたことを反省したそうだ。
そして何より、亡き妻に似たリースを自分の手で不幸にしてしまうところだったと恥じた。
婚約前ということもあり、この件は互いに秘匿することにした。
「エレノア様も、内緒にしてくださいませ」
「もちろんですわ。時にリース様、サフレット様にまだお気持ちを伝えていないとお伺いいたしましたが」
リースの顔はたちまちぽっと赤くなった。
「は、はい。なかなか機会がなくて」
「機会? サフレット様は愛情表現をなさらないのですか?」
リースは何を思い出したのか、その真っ赤な頬を両手で覆った
「リース様?」
「た、たくさん、していただいておりますわ」
「ではその時に愛情表現を返せば良いのでは?」
「えぇ!? で、ですがっ。どのように」
リースは口をパクパクさせている。
「愛してると言われた時に、私も愛していますとお返事なさるのはどうでしょうか」
「エレノア様は普段そんなことを?!」
「たまに、ですが」
普段は受け流していますよ。レオンの愛情表現は頻度が高すぎますからね。
「あぁ、世のご夫婦はそうなのですね」
リースは手で顔を覆ったままうつむいてしまった。
もうちょっとしたら、頭から蒸気でも出るのではないでしょうか。
「世のご夫婦が皆そうとは限りません。ただの一例ですからご無理なさらず」
「いえ!」
「?」
リースは真っ赤な顔を上げる。手はぎゅっとドレスを握りしめていた。
「私も頑張りたい。私はこの身体ゆえ、いつも与えられてばかりでした。いつも受け身の人生だった。だけど、今度は私がーー」
リースは病弱で、身の回りの物は全て与えられ、お世話を焼いてもらうことしか出来ない人生を送ってきた。
「リース様、変わられましたね」
「エレノア様のおかげです。私にも出来ることがあると教えて下さったのはエレノア様でしょう?」
そうリースが言ったところで温室に2つの影が見えた。
「エレノア! 楽しんでいますか? リース嬢もご機嫌よう」
レオンとサフレットだった。
「リース、顔が赤い。熱だろうか」
サフレットはリースの異変にいち早く気付き駆け寄ってくる。
「あ、あの、これは。ちがーー」
「じっとして」
サフレットの手がリースの額に触れる。リースは目をぎゅっと閉じた。
頑張れ、リース様!
「熱はないようですね」
そう言って、サフレットは額に当てていた手を下ろし、今度はリースの手首を握る。
「脈が速い、部屋に戻ろう。レオン殿下、エレノア様。失礼してもよろしいでしょうか」
「ち、ちがうのです!」
リースは濡れた目を開き、じっとサフレットを見つめた。
「リース?」
「あ、あの」
「一体どうしたんだ」
「だ、旦那さま。いえ、サ、サフ……」
あぁ、私まで胸がこそばゆいです!
ですがここにいてはお邪魔。
「レオン、ちょっと」
私はスマートに席を立って、レオンの腕を取る。
「サフレット、さま」
リース様!
とてもか細い声でしたが、背中越しに確かに聞こえましたよ!
名前を呼べましたね!
「ここは王宮だというのに、そんなことを言われると、抑えられなくなるじゃないか」
「は、はい。私も、です」
「リース? 一体何をーー」
「私も、抑えきれないほど、サフレット様をお慕いしております」
おぉ!
言えました! おめでとうございます!
「っ!」
「随分お待たせをいたしました。本当はもっと早くにお伝えしたかったのです」
「そんなこと、言わなくてもとっくにわかっていましたよ。貴女の体温も、鼓動も、毎日見ているのは誰だと思っているんだ」
あぁ素敵です。
サフレット様の腕に抱かれるリース様は本当に可憐で天使のよう。
「エレノア、僕たちは邪魔のようですね」
「はい、参りましょう」
私とレオンはそっと温室を後にする。
「あぁも見せつけられると、僕も我慢するのが辛いな」
「そうですね」
「エレノア! そうか、エレノアも同じ思いか! 部屋に帰って貴女を可愛がっても?」
「却下です」
「え?」
「見ましたか、あのリース様の天使のようなお姿! そしてそれを地上に留めんとするかのようなサフレット様! 眩しく美しい愛!」
「あぁ、だから僕たちもですね」
「シンリックの妖精シリーズは爆発的大ヒット。そろそろ次の商品をと考えていたのです。その名も愛の天使シリーズ!」
ピンクの衣装が印象的でしたから、ピンクトルマリンでも使おうかしら。
ルビーよりも安価で取引される石だし、これは収益を見込めます!
「エレノア?」
「アクアマリンは水の繊細なイメージで作りましたからね。今回は甘々なロマンティック路線でいきましょう」
レオンは隣で大きなため息をついた。
「レオン?」
「いえ。シンリックの工房からカラットを呼ぶ手配をしておきましょう」
「ありがとうございます。では私は早速部屋でイメージ固めと企画書の作成をいたしますわ」
「全く、そんなに楽しそうにするなんて妬けるな」
レオンはそういうと、私の顔を覗き込みそのまま口づけた。
「愛の天使シリーズ、完成したらプレゼントさせてください。僕たちの愛がずっと続くように」
「は、はい」
私は不意のことで固まってしまう。
急にキスされて、甘いマスクでそんなこと言われたら、私だって恥ずかしくなる。
「ではここで。企画書作り、頑張ってください」
「あ、あの! レオン!」
「?」
リース様に頑張らせておいて、私は何もしないなんて駄目ですよね。
「う、嬉しいです。私も、レオンとの愛が、ずっと続けばいいと思っております」
「あぁ、やっぱりだめだ」
レオンは私をふわりと持ち上げた。
「レオン?!」
ここは王宮の廊下ですよ?!
「やはり一度部屋で貴女を可愛がってからにしましょう。仕事はその後だ。いいね?」
「……はい」
私は小さく頷いた。
リース編はこれでおしまいとなります。
次回はチリオスタ&チリオスタ妃のことを書けたらと思っています★
その前に新作も少し上げたいな。
では次の番外編でお会いしましょう!




