番外編 リースとお茶会2
リース視点です
「シンリックの妖精シリーズ」のポスターが完成すると、マドリン家にはたくさんの手紙や招待状が届いた。
「リース! ものすごい数の縁談だぞ!」
「まぁ、本当にたくさん。リース、こちらの方なんてどう? これほどの名家、今まで見向きもしませんでしたのに!」
父と母はひどく喜んだ。
「お父様、お母様。全てのお手紙にお断りのお返事を」
「な、なぜだ」
「私の身体のことを理由に、きちんとお断りのお手紙をお出しください」
手紙をくれた方たちは私がいかに身体が弱いかを知らない。そしてそのため療養と治療にいくらかかるのか、どれほどの期間家を空けるのか、そして跡継ぎは望めそうもないことなどを知らない。
「そんなこと言う必要はないでしょう?」
「お母様、騙し討ちのように婚姻を結ぶなど、マドリン公爵家の名に泥を塗るだけです」
ただでさえ私という存在で家に迷惑をかけているというのに、さらに家名まで汚すなど出来ない。
これは公爵令嬢としての私のプライド。
「リースがそう言うなら……」
父はしぶしぶ部屋から出て行った。
ふた月もすると求婚の手紙は落ち着いた。ただ一通を除いて。
「リース。グルジ公爵からまた手紙が届いた」
父は言いづらそうに下を向いた。
「そうですか」
「お前の身体のことも承知の上だ」
「では一度お会いしてみます」
私はベッドから外を眺めた。あちこち静養で出掛けることも多かったけれど、やはりマドリンの屋敷からの眺めが一番落ち着く。でもこの景色も見納めなのだろうか。
「いや、しかし。いいのか?」
グルジ公爵は父とさほど年齢が変わらない。
グルジ公爵には3人の子どもがいて、それぞれ立派に成長したため跡継ぎの心配もいらないそうだ。
前妻は3人目の子どもを産んだあと、産後の回復が進まずそのまま死別したが、私はその前妻に似ているらしい。
ポスターを見たグルジ公爵が是非後妻にと何度も手紙を寄越していた。
「お父様。グルジ公爵は、亡くされた奥様の面影を私に見ていらっしゃるのですよね」
「あ、あぁ」
「では婚約前に一度お会いしなくては。もしイメージが違ったとなると、がっかりさせてしまいますから」
「リース……お前はもう少し自分の幸せを考えても良いのだぞ」
「私は十分幸せに育てていただきました」
父は涙を隠すように部屋を出た。
小康状態が続いたある日、私は半日かけて馬車に揺られ、グルジ公爵家へと赴いた。
「マドリン公爵家、リースでございます」
「サーシャ! いや、すまぬ。リース嬢。遠いところ、よく来てくれた」
サーシャ様とは亡くなられた奥様の名前だろうか。
その日、グルジ公爵は何度も私をサーシャと呼んだ。
「サーシャ、いや失礼、リース嬢。お味はいかがかな?」
「とても美味しいです」
「そうか! それはサーシャが好きだったのだ」
グルジ公爵は目尻に涙を浮かべていた。
「貴女のような将来のある女性を妻に娶ろうなど、傲慢だということは重々承知している。しかし他に代わりはいないのだ」
「グルジ公爵、私はこのような身体です。将来などわかりません。もしかしたら私の方が先に……。そしてまた悲しい思いをさせてしまうかもしれません」
グルジ公爵は年だが、必ずしも私の方が長生き出来るとも限らない。
「構わない。失ったと思ったサーシャが帰ってきてくれただけで十分だ。いや、すまない。貴女はリースであったな」
「グルジ公爵。お好きなようにお呼びくださいませ」
「よいのか? サーシャ」
「はい」
私はサーシャ様の身代わりなのだから、結婚するならばきちんとサーシャ様の代わりを務めなければならない。
きっとそのうちに慣れる。その時はそう思った。
帰り道、途中で雨が降ってきた。
小さな馬車の中では雨音がやけに大きく聞こえた。それはどんどん激しくなり、次第に耳鳴りがした。
道がぬかるんでいるのか、揺れも大きくなっていった。
ひどい耳鳴りと気持ちの悪さに私は意識を失った。
「気がつきましたか? ここは僕の診療所です。横になっていてください」
「あ、あの。どちら様ですか?」
知らない場所だ。
こざっぱりとした部屋で清潔感があった。薬棚に並んだ小瓶を見ると、確かに診療所なのだろう。
「タットル子爵家の三男、サフレットと申します。きちんと資格は持っているので安心してください」
優しげな顔で微笑むサフレット様。
「ご、ご迷惑をおかけしました」
「貴女が気に病むことではありません。あぁ、まだ少し熱がありますね」
サフレット様の大きな手がおでこに優しく触れる。ひんやりとして気持ちがいい。私は思わず目を細めてしまう。
「マドリン公爵家のリースと申します」
私は小さな声で言った。
「リース様。小さい診療所で窮屈でしょうが、しばらくこちらでご静養ください」
「あ、ありがとうございます」
「白湯と煎じ薬をお持ちしましょう。少し待っていてください」
「はい」
ブラウンの瞳に見つめられると不思議と心が落ち着いた。
これが私とサフレット様の出会いだった。
早くリースに幸せになってほしいので、急いで続き書きます!
しばしお待ちを!




