番外編 リースとお茶会1
読者様大感謝企画第一弾。番外編「リース編」です。
夏も終わりにさしかかり、日の落ちる時間も早くなってきた。
まだ暑いのにどことなく物悲しく感じるこの季節は少し苦手だ。消費がちょっぴり落ち込むのもいただけない。
「クロエ、リース様は大事ないかしら?」
「はい。奥様のお心遣いに感謝しておいででした」
サフレットとリースが夕刻に到着したが、リースの体調を整えるため今日の謁見は無し。用意した部屋に案内させた。
「奥様って呼ばれるの、何だか慣れないわね」
「いつまでもお嬢様とお呼びするわけには参りませんので」
レオンとの婚約式が終わると周囲からの扱いは大きく変わった。クロエの呼び方の変化などは可愛いものだけど、やはり落ち着かない。
「エレノア。貴女のような素敵な女性を奥様に迎えられるなんで、僕は幸せですよ」
「さようでございますか」
当事者二人は通常営業なのが救いだろうか。溺愛ぶりが少し加速したことについては言及しないでおきましょう。
「私は明日サフレット様と打ち合わせをしたあと、リース様とお茶の予定なのですが、レオンはどうしますか?」
「サフレットはお茶に参加しないのか?」
「久しぶりにつもる話もあるだろうからと席を外されるそうです」
「ならば図書館にでも誘ってみますよ。勉強熱心な方のようですからね」
「よろしくお願いいたします」
翌日、午前中に私とサフレットは打ち合わせをした。
主に西都の王立学校で使う教材のチェックと、講義内容の確認だ。
「公衆衛生に関しては必修にして、出来るだけ早い段階で講義があるといいですわね」
「それがいいと思います。公衆衛生への意識が高まれば、寄宿舎での感染症予防にも大きく貢献しますから」
「応急処置などの実技と、薬学などの座学は別で開講する方がいいでしょうか」
「別で開講するのは良いのですが、薬学も最初は座学ですが、途中からはほぼ実技になりますよ」
あれこれと話を煮詰めていく。
ざっくりとしたカリキュラムを決めたところでレオンがやってきた。
「お邪魔でしたか?」
「いえ、ちょうど一息ついたところですわ」
「ならよかった。サフレット、図書館を案内したいのだが。医学に関する書物もたくさんある。東方のものなど、なかなか手に入らないものもーー」
「東方の文献があるのですか?!」
「あ、あぁ。興味が?」
「はい! 実は東方の薬学に興味がありまして。漢方というのだそうですが、リースはそれでかなり良くなったのです」
「気に入ったものがあればお貸ししますよ」
「ありがとうございます!」
サフレットは興奮気味にレオンについていった。
さて、私は温室に向かいましょう。リース様とのお茶会です。
「エレノア様、お久しゅうございます」
リースは小さな歩幅で駆け寄ってくる。
「リース様、ゆっくりで結構ですよ。それよりこちらでよかったですか?」
温かくて湿度もあって、温室は良いお茶会ポイントだと思ったのですが。
テラスなどに出て風邪をひかれても困りますからね。
「もちろんですわ。温かくて良い香りで、とても癒やされます」
ふわりと笑う顔にむしろ私が癒やされる。
リースが席につくと、クロエがお茶をカップに注いだ。
「リース様はだいぶお顔色が良くなられましたね」
以前は青白く儚げだったリース。
色白なのは健在だが、陶器のようにつるりと透明感のある肌はより健康的になったように感じた。頬もわずかに血色が感じられる。
「夫のおかげなのです。東方の煎じ薬を試したところ、体温も上がり、疲れにくくなりました」
「それはよかったですわ。良いご縁に巡りあったのですね」
「ありがとうございます」
リースは天使のように笑った。
ふわふわと飛んでいってしまいそうな危うさも健在で、これは間違いなく守ってあげたくなるタイプ。
うーん、私とは真逆ですね。
「リース様はピンクがよくお似合いですね」
ピンク色のロマンティックなドレスに身を包んだリース。
リースは恥ずかしそうに俯くと、小さな声で言った。
「夫が、好きで」
なんと!
あの勤勉な青年は、奥様にピンクのふりふりを着せるのが趣味なのですか!
そしてリース様はそれを受け入れていらっしゃるのですね?!
「仲がよろしいのですね」
「いえ、あの!」
リースは顔を赤らめてあわあわする。
「?」
「まだ、想いを伝えられていなくて」
今私の胸に何が甘いものが突き刺さりました。
効果音は「きゅーん!」でしょうか。
「サフレット様はリース様がお好きなのですよね」
「あの、ありがたいことに」
「リース様もなのですよね?」
「あ、あの。そうなのですが。私はこのような身体なので、伝えることがご迷惑になるのではないかと」
リースは口ごもりながら言った。
「詳しく聞かせてくださいませ?」
「エレノア様、嬉しそうに言わないでくださいませ……」
いけません。ニヤニヤが顔と声に出てしまったようです。
リース編、まだ続きます。




