四者会談1
レオンがウルルを拘束し、近衛隊長とともに地下牢へ連行した。
私はチリオスタ妃を妃殿下付きの侍女に任せ、一旦私室へと戻った。
「またここへ戻ってくるとは思わなかったわね」
私は乱れた髪を整えられながら言った。
「もう危険な真似はしないでくださいませ」
クロエには本当に苦労をかけている。今回のこともそう。シンリックでの誘拐未遂のこともだ。
リーディッヒ家に置いてくればこんなに心配ばかりかけなかったのに。
「ごめんなさい。でも私の侍女が務まるのはクロエくらいだわ」
「懐柔しようとしても無駄でございます」
「うーん、その手には乗りませんか」
「だいたいお嬢様はリーディッヒ家にいた時から伯爵令嬢としての自覚に欠けていたのです」
「はい、わかっています」
「いいえ、わかっていらっしゃいません! 今はもっとお立場が重いのですよ!」
「でも私以外に助けられなかったじゃない」
「頬を膨らしても駄目なものは駄目でございます!」
そんなやりとりをしていると、ノックの音が響いた。
「エレノア様、国王陛下がお呼びでございます。至急お越しくださいますよう」
「国王陛下が?」
「はい。チリオスタ王子とレオン王子も一緒でございます」
「わかりました、すぐに」
今回の件についてだろう。
「クロエ、もう大丈夫?」
私は鏡越しにクロエを見る。
「差し支えないかと」
うん、国王陛下に会うのに差し支えない程度には仕上がっている。
気は重いですが、国王陛下をお待たせするわけにはまいりません。
「行きましょうか」
クロエは黙って椅子を引いてくれた。
「エレノアです、ただいま参りました」
私は国王陛下、チリオスタ、レオンの待つ部屋へと入った。
見たことのない部屋で、円形の部屋に円形のテーブルが置かれている。
「座りなさい」
「失礼いたします」
私は一つだけ空いた椅子に浅く座った。
「この度は西都領主及び娘ウルルによる謀反を暴き、王太子妃の命を救ったこと、感謝する」
国王陛下はそう言うと頭を下げた。私は驚いて椅子から飛び降りると絨毯の上に伏せた。
「とんでもございません。臣民に頭を下げるなどおやめくださいませ!」
それを見たチリオスタが笑い、柄になく優しい声で言う。
「エレノア座りなさい。陛下がお困りだ。父上も頭を上げねば我が国の恩人がいつまでたってもこのままですよ」
「あぁ、すまぬ。エレノア、席についてくれ」
「は、はい」
私は恐る恐る顔を上げ、ゆっくりと席に戻った。
「今回の件について、少々整理がしたいのだ。付き合ってもらえるか」
そんなこと、私抜きですればいいのに。しかしこのメンバーの中で、そんなことは口が裂けても言えない。
「陛下の御心のままに」
私は頭を下げた。
「西都に妙な動きがあると知り、情報を探るようにチリオスタに命じたのは私だ」
陛下はゆっくりと話し始める。
「チリオスタはその件を隠し、レオンに『西都の視察』のみを命じた。相違ないか」
「はい。私はレオンに謀反の動きの件は一切伝えませんでした。謀反を企てる者がいるのなら必ず何か仕掛けてくる。そう思い、レオンを丸腰で放り込んだのです。警戒していては相手も手を出せないでしょう」
チリオスタは飄々と言った。
レオンは生き餌にされたのだ。私は怒りを思い出し、テーブルの下でぎゅっとスカートを握りしめる。
「チリオスタよ、それは褒められたことではない」
「処分はいかようにも」
「ふむ。時にレオンは西都の動きに気付いている節があったが、それはなぜだ」
レオンはチリオスタを見ることなく、陛下をただ真っ直ぐ見据えて言った。
「情報収集にあたった1ヶ月のうち、約8割を身分を隠して庶民たちの中で過ごしました」
「何?」
「コロン公国へ赴いた時にエレノアに教えてもらったのです。町の情報を得るのは領主からではなく、町の人々からが相応しいと。そこで私は庶民の服を着て、安酒場で食事をし、安宿に泊まって情報を集めました。そこで得たのはグルフレンへの批判と憎悪。そして少年兵を育成することへの激しい情熱でした」
「何と、お前がそんなことを」
陛下は身をのけぞらせて驚いた。
「最後の数日に西都領主の屋敷に国使として訪問しましたが、町であれほどグルフレンへの批判が出ているにも関わらず、好待遇で出迎えられました。これはおかしい、そう思いました」
「謀反の計画を知っていたわけではないのか?」
「そこまでは。ですが領主は娘を仕切りに王宮へ連れて行くようにと迫りました。これにも甚だ疑問でした」
無理もない。
領主の娘が王宮に行く、それも王族からの寵愛を狙ってともなれば、グルフレン嫌いな領民たちは黙っていないだろう。
それこそ領主が命を狙われかねない裏切りとも言える。
「レオンはウルル様を最初から疑っていたのですか?」
私は思わず口を挟んでしまった。陛下は許可の意を示すように小さく頷いた。
「彼女が何か目的を持っているであろうことはわかった。しかしそれが何かわからず、僕は彼女を監視するしかなかった」
レオンがウルルについてまわっていた理由は監視が目的だったのか。
「それで私を、レオンとウルル様から遠ざけようとなさったのですか」
「あぁ、その通りだ。しかし年頃の女性を、不審がらせずにずっと見張っているわけにもいかなかった。銃弾を仕込む隙きを与えてしまったのは僕だ。兄上、申し訳ない」
「お前が謝ることはない」
レオンとチリオスタの視線がようやく交わる。そこにはわだかまりのようなものは見て取れなかった。
レオンは私が怒っているほど、チリオスタに対して負の感情は持っていないのかもしれない。
「王太子妃暗殺未遂についてはエレノアが二度、阻止したのだったな」
陛下は私を見ていた。
「一度目はたまたま、ウルル様が甲冑の前で何かをしていたのを見たのです。それで胸騒ぎがして、咄嗟に身体が動きました」
「ふむ。して二度目は」
「私はレオンに暇を出されました。最後に王宮を目に焼き付けてから家に下がらせていただこうと思い、物見櫓に登りました」
「そこで私が事の顛末をエレノアに話したのですよ」
チリオスタが言う。
「エレノアはレオンが心配で我が妃の部屋へ。そこであの娘の嘘を見抜いたのです」
「何て無茶を!」
レオンが吐き捨てるように言った。私はびくっと体を震わせた。
「レオンが、殺されるかもしれないと思ったのです」
虫の鳴くような小さな声で私は言った。




