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チリオスタの暴露

「亡国ザグールのことはどれくらい知っている」


 亡国ザグール、現在の西都だ。


「先帝が統一された国ですね。砂漠が国土の半分を占める貧しい国で、金属加工が主な産業であったと聞いています」


 現在でもその優れた金属加工技術は健在で、リーディッヒも銀食器などを仕入れたことがある。


「統一と言えば聞こえはいいが、要は戦争だ」

「政治の事情は存じませんが、貧しい国を手に入れるなど割に合わぬことをしたのです。何か理由があったのでしょう」


 私なら半分砂地の貧しい土地なんて、タダであげると言われても躊躇するけど。

 でも政治は商売とは違う。利益を上げれば良いというものではない。


「ザグールの金属加工で最も生産量の多かったものは何か知っているか?」

「そこまでは」


 教科書には「貧国を統一し、豊かにした」ということのみが書かれている。

 グルフレンによる統一がいかにザグールに恩恵をもたらしたかが綴られ、統一は必要不可欠なものだったと締めくくられる。

 歴史は勝者が都合良く語るものだ。


「金属加工の主たるものは武器だった。それも殺傷能力の極めて高い銃火器」

「存じませんでした」

「そしてそれを使っていたのは少年兵だった」

「っ!」


 絶句した。

 少年兵など道義的に許されるものではない。


「ザグールは前線に少年兵を置き、グルフレンに攻め入る計画を立てていた。祖父はザグールに交渉に行ったが決裂、そして間もなく開戦となった」


 私の知らぬ歴史に、それもほんの最近に、悲しい過去があったなんて。


「祖父はザグールの王を殺し、早期に決着はした。だがその時に負った傷で、王都に帰還してひと月で亡くなった」

「先帝が早くにお亡くなりになったのはそれが理由だったのですね」


 現国王陛下が若くして即位したのは知っていたが、先帝の死については秘匿されていた。

 そのような晩年があったとは知りもしなかった。


「そして当時少年兵だった者たちの生き残りはグルフレンに対して憎しみを抱えたまま大人になった。そして今、秘密裏に武器の製造を再開し、新たな少年兵の育成を始めたとの情報が入ったのだ」


 何という悲劇だろうか。


 確かに当時の少年兵にしてみれば、グルフレンは倒すべき悪。

 そして開戦後は宿敵であるグルフレン兵に次々と仲間を目の前で殺されるのだ。

 憎しみが育たぬはずがない。


「レオンの仕事は情報収集だと伺いましたが、その件の調査だったのですね」

「表向きはそうだな」

「表向きは?」

「元少年兵の残党はグルフレンの王族に憎しみを持っている。王族を丸腰で放り込めば何かしらのアクションがあると思ったのだ」


 嫌な予感が胸をよぎる。


 ーレオンという釣針を投げてみたー


 夜会でチリオスタはそう言った。


「殿下はレオンが殺されるかもしれないと思っていたのですか」

「あぁ。拉致監禁、暗殺。そのくらいは想定していた。そうなれば制圧の大義名分になる」

「レオンはそれを知っていたのですか?」

「言っていない。西都を視察し報告せよとだけ命じた」

「な! 殿下はレオンの命を何だと思っておいでですか! そんな非道、許されると思っているのですか!」


 ありえない。腹違いとはいえ実の弟を、殺されるかもしれないという地に放り込むなど人間のすることではない。

 そして、あの喧嘩別れした日が最期になっていたかもしれないという事実に背筋が凍った。


「王族とは国のためだけに生きる存在。その命など、国の安寧のためなら捨てて当然だ」


 私はその冷たい瞳に正妃オリヴィアを思い出した。

 チリオスタの生母であり、出産の際に自分の腹を裂いてでもチリオスタを第一王子にせよと命じた人物。

 国のためならば自分の命さえ惜しくない。そう思える人間こそが、正妃であり次期国王となる者の素質なのだろうか。

 私はただただぞっとした。


「昨夜暴発した銃は、本来銃弾が入っていないものだった」

「そういえば、あの銃を持った甲冑の前で、ウルル様が一人何かをなさっていたのを見ました。夜会前のことです」


 だから嫌な予感がして、ウルルに飛びついたのだった。


「やはりそうか。おそらくあの娘が銃弾を入れたのだろう。そして故意に撃とうとした」

「故意に?」

「あの安全装置は銃の扱いを知っている者でなければ外せない」


「ちょっと待ってください」


 ポツポツと雨が降り出す。


 新たに育成された少年兵。王族を憎む存在。空の銃槍に銃弾を装填し、その扱いを心得、故意に撃ったウルル。 

 胸がざわつく。鼓動が速くなる。そんな最悪の事態、考えたくもない。


「それなら今、レオンが危ないのでは?」

「レオンはあの女を見張っているつもりだろうが、相手がプロなら殺られるのはレオンだ」

「! なぜこんなところにいるのですか! レオンが殺されるのを待っているのですか?!」

「確証がない限り動くことは出来ない。それが国というものだ」

「私はレオンを探します。絶対に死なせません」


 私は階段に繋がる扉へ手をかけた。


「闇雲に探すのか? この広い王宮を?」

「はい。それしか方法がないのなら」

「私がなぜここにいると思う? 王宮が見渡せるからだ」


 そう。ここは王宮で一番高い物見櫓。


「やつらはあそこにいる」


 二人は廊下にいた。その廊下の先にはチリオスタ妃の私室があるはず。


「昨夜の無礼を侘びに行くとでも言ったのだろう」


 なぜこの人はこんなにも冷静なのだろう。

 王族の命を狙っているのなら、チリオスタ妃だって例外ではない。現に昨日事故を装って狙われたのはチリオスタ妃だ。


「人でなし。そんな人間が次期国王なんて信じられません。レオンの方がよっぽど勇敢で優しい。こんなところで何か起こるのを眺めているあなたとは違う」


 私はそう言うと一目散に階段を駆け下りた。

 クロエの心配する声を背中に聞きながら。


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― 新着の感想 ―
[一言] 割とゲスいけど王としては正しいのかな 自分自身も躊躇なく囮に出来るなら正しい人と言えるけど、レオンが死ねば自身を囮にとか言えなくなるんだよね
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