涙
「エレノア、僕です」
夜遅くに夫婦の寝室から声がした。
私はクロエに目配せをし、今日の業務の終わりを指示する。
「すぐにまいります」
私は就寝用のナイトドレスの上にショールを一枚羽織り、寝室の扉を開けた。
「レオン、痩せましたね」
そこにはひどくやつれたレオンがいた。
まだ湯浴みも着替えもしていない、ひどくくたびれた格好をしてるレオン。
「そうですね、少し疲れました」
レオンはそう言うとソファーに沈み込む。
「ウルル様は大丈夫でしたか?」
「はい、眠りましたよ。今夜は侍医と女中が一晩中側で待機しているので安心でしょう」
「そうですか」
レオンは一緒にいなくてもいいのだろうか。
でもそんなことは聞きたくなかった。
「エレノア、僕は貴女に言わねばならぬことも、説明せねばならぬこともたくさんある。だが今は全てを言えない。まだ色々なことが不確定なのだ」
「はい」
「しばらくの間、リーディッヒ家に帰る気はないか?」
「お役目御免ということでしょうか」
「そんな怖い顔をしないでくれ。堪える」
レオンは目頭を抑えた。
疲れているレオンをもっと困らせてしまうかもしれない。でもこれが最後になるのなら、今の気持ちを伝えねば後悔すると思った。
「私は、これ以上レオンと離れたくありません」
「エレノア?」
「もう随分待ったのです。また離れるのですか? そんなの嫌です」
目に熱いものがこみ上げてくる。
最後になるかもしれないのに、レオンの姿が涙で滲んでしまう。
「嫌です。どうして私を手放すのですか。仕事ばかりでつまらない私より、可愛げがあって懐いてくれるウルル様の方が良いのですか」
もう止まらない。
私は嫉妬していたのだ。こんな醜い感情が胸の中にあるなんて自覚したくなかった。
でももう無理だ。抑えられない感情は涙となって次々零れた。
「エレノア、傷つけてすまない」
駆け寄って抱きしめてくれればいいのに。
でもソファーから立ち上がったレオンは私に背を向けながら話し出す。
「ウルル様とは決して二人にならぬように。それから、チリオスタ兄上とも」
「どうしてですか?」
「すまない、今はこれしか言えないのだ」
レオンは握った拳を震わせながら言った。
「こちらを向いてください。顔を見せてください」
「エレノアの涙を見るのは辛い」
そう言うとレオンは私室へと帰っていった。
カチャリ。
レオンの私室の内側から鍵が掛けられる音がした。
エレノア泣かせるとか何事ですかレオン様!
作者憤慨回でした




