夜会後の騒動
「あぁ、すっごく楽しい! あらエレノア様、戻ってたの」
踊り疲れたウルルがドリンクを片手にやってきた。
「ウルル様、ダンスがお上手ですのね。お食事はどれがお好みでしたか? 西都ではどのような味が好まれるのでしょう」
私は営業用スマイルを貼り付けて言った。
「余裕ぶってどういうつもりかしら? 戻ってこなくてよかったのに。興がそがれました」
ウルルはグラスの水を一気に飲み干す。あまり令嬢らしいとは言えぬ振る舞いだ。
「これは失礼いたしました」
私がその場を離れようとするとレオンが足早にやってきた。
「何の話を?」
レオンは私とウルルの間に入る。
「いえ、私がいては主賓のウルル様の興がそがれてしまうので、部屋に戻ろうかと」
「ふふ、何だか悪いわね」
「ならば送りましょう。そろそろ宴も終わりのようです」
ウルルの舞が終わったせいか、確かに雰囲気がまどろみ始めていた。
「旦那様、嫌です。ウルルを置いていかないでくださいませ! それに私、今日一日王宮で過ごして思いましたの、ずっとここに住みたいと」
「貴女は客人ですよ。貴女のお父上に頼まれ連れて来ましたが、ずっとというわけにはいきません」
「もう、女の口から言わせるのですか? あるではないの、ここにずっといられる方法!」
それは婚姻を結ぶということに他ならない。
私は思わず口を挟む。
「ウルル様は王都に来たばかりで興奮してらっしゃるのですよ。しばらくすれば故郷が恋しくなります」
「あら、エレノア様は故郷が恋しいんですって! ならばさっさと帰ればどう? 私がいれば、もうここにあなたなんていらないし」
「そんなことは申しておりません」
「ねぇ、旦那様はどう思う? エレノア様を実家に返しちゃいましょうよ」
「検討しよう」
レオンは顔色を変えずに言った。
前にレオンは言ってくれたのに。私の意思で出て行ったとしても、必ず探し出すと。
もうレオンは私を見てくれないのだ。
仕方ない、私が仕事に夢中でレオンをきちんと見ていなかったせいで始まった喧嘩だ。
因果応報。ここで泣くのは筋違いというもの。
「あぁ! みんな帰って行くわ! 旦那様、私たちも行きましょう?」
立ち尽くす私など歯牙にもかけず、ウルルは王宮に戻る人の波に乗る。
レオンは追いかけざまに私に耳打ちをした。
「部屋についたら決して出ないように。あとで行きますから起きていてください」
そしてほんの一瞬、誰にもわからないように髪にそっと口づけをした。
レオンの後ろ姿を見ながら涙をこらえる。そして王宮に戻る人たちの最後尾を歩いた。
屋内に入ると、前方でウルル、レオン、チリオスタ、チリオスタ妃が足を止めていた。
追い付いた方がいいのだろうか、それとも遠回りして部屋に戻る?
「わぁ、こんなの見たことなぁい!」
ウルルの甲高い声がする。
(あれ? ウルルが見ているのはさっきの甲冑?)
「かたいし重そう〜、ホントにこんなの着れるんですかぁ?」
胸騒ぎがする。
さっきウルルは一人で甲冑の前で何かしていた。そして誰にも気付かれぬようさっと身を隠した。
何か細工をしたのだろうか。でもまさか。あんな少女に何が出来る?
それでも私は彼らの元まで走る。
「手に持ってるのって本物ですかぁ? きゃっ、重〜い!」
「飾りとはいえ、銃など女性が持つものではありませんよ」
ウルルは甲冑の手から銃を抜き取っていた。
それを嗜めるチリオスタ妃。
「そうですね、すみません。あれ? これどうなってるんだろ。え?」
ガチャリ。
金属の嫌な音が響く。
私は咄嗟にウルルに飛びついた。
ドンッ!!!!
銃が暴発する。
銃口は天井に向いていた。
私がウルルを押し倒していなければ、銃弾はチリオスタ妃に当たっていただろう。
「キャー!!」
チリオスタ妃の悲鳴がつんざく。
チリオスタはものすごい速さで銃を奪い取った。
「エレノア!!」
そしてレオンは倒れた私のそばに跪いた。
「大丈夫です。レオン、ウルル様を侍医にお見せください。腰を強く打ったかもしれません」
「エレノアは何ともないのか?」
「えぇ」
銃声を聞きつけた兵が集まる。
「銃が暴発した。大事はないが部屋に近衛長を呼べ」
チリオスタは銃を兵に預けると妃を抱えて行ってしまった。
「レオン、私は歩けますからウルル様を」
私は震える足を気取られぬよう真っ直ぐに立った。
「さっきのこと、守ってください」
部屋から出るな、起きていろ、の2つのことだろう。
「わかりました」
騒然とする中、レオンはウルルを抱えて階段を登って行った。
ウルルは泣きも喚きもせず、じっと何かを考えるような顔をしていた。




