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嵐の帰還

 春の花が完全に散り、夏のにおいがするようになった。

 力強い葉や大地の蒸れるにおい。庭園に噴き上がる噴水は涼を感じさせた。


「お嬢様、早馬でございます。レオン殿下が数日後にもお戻りになられますよ」


 いつもはクールなクロエが声を弾ませて言った。


「そう、何だか緊張するわね」


 私もそわそわしてしまう。


 会いたかった。レオンが満足いく言葉を紡ぎ出せないかもしれないけど、それでも話を出来たらいいなと思う。


「それから西都より一人、客人を連れてくるようです」

「まぁ! 西都の方にも会えるの? それはたくさん話を聞きたいわ」


 早馬から三日。浮足立ったという表現がしっくりくるくらい、私は高揚感に包まれた日々を過ごした。







 レオンが王都に帰還した日は暑いくらいの快晴だった。

 私はいつもより念入りに磨き上げられ、いつもより豪華なドレスと大きめのジュエリーを身につける。


「気合い入ってます! って感じしないかしら?」

「気合いを入れて仕上げましたので、その評価は妥当かと」

「そうよね、ひと月ぶりなんですものね」


 あぁもう緊張する!

 婚約の挨拶に初めて王宮へ踏み入れた時よりもずっと緊張する。


 私は高鳴る鼓動を抑えられずに足早に玄関ホールへ向かう。

 遠くから馬車を引く音が聞こえた。


(ついに、会える!)


 髪型は変じゃないだろうか、ここ数日寝不足気味だけど顔に出てないだろうか。


 ギィー。

 外で待機していた使用人の手によって重い扉が開かれる。


「おかえりなさいませ! お待ちしておりました!」


 私はレオンの顔が見えた瞬間思わず叫んだ。淑女の礼も忘れる程に。


「あぁ、エレノア。ただいま」


 しかしレオンの声は低くくぐもり、どこか気まずそうな様子で目線を故意に外された。


(え……?)


 胸が掴まれたように痛くなり、喉が詰まったように吐く息が細くなる。


「レオン、あの、私ーー」


 その時だった。

 私の言葉を遮るように、幼い甲高い声が響いた。


「うっわー! これがグルフレンのお城なんだー! すっごーい!」


 レオンに遅れて切れ長の目をした少女が入ってきた。


 褐色の肌に白いロングワンピースを纏っている。日差しの強い西方の民族衣装なのだろうか、肌の露出を抑えた涼しげな衣装だった。


「わ、なにこのオネーサン。グルフレンってケバケバしくて、ゴテゴテなのが流行ってるの? 趣味わるーい」


 ガーン。

 オネーサンって、間違いなく私のことよね?


「ウルル様、彼女は僕の妻になる女性です。エレノア、彼女は西都領主のご息女、ウルル様だ」


 レオンがさっとフォローしてくれる。私ははっとして淑女の礼をする。


「エレノアと申します。西都より遠路ご苦労さまでございました。お部屋を用意させますわ」

「えぇー! そんなことより旦那様! 庭を案内してくださらない? さっき珍しい花が咲いていたわ」


 ウルルはレオンの腰に抱きつくと上目遣いで言った。


「ね? ウルルのお願い!」

「わかりました。参りましょう」

「わぁ嬉しい! それじゃあ皆様ごきげんよう」


 ウルルはケラケラ笑いながらレオンを連れて出ていってしまった。




高気圧娘爆誕回でした

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