ひとりぼっちの休息
王宮に戻って半月。
レオンはまだ帰らないが、シンリックの方はだいたいの目処がたっていた。
カラットは雇った職人たちに加工技術を教えているが、新たなやりがいを見つけたと手紙に書いてあった。
祖国では虐げられていたがシンリックでは「師匠」と呼ばれ、さらにシンリックの元別荘の3階に住めるとなればもう帰る理由がない、なんて少し笑ってしまった。
マドリン公爵家のリースは貴族からの恋文や求婚が山のように来て最初は困惑したそうだが、つい先日子爵家の三男との婚約が決まったようだ。
三男ともなると手に職をつけねばならない、と勉学に励み医師になった真面目な青年で、結婚後のリースのケアも引き受けるとのことだった。
リースはもとより、マドリン公爵夫妻に感謝されたのは言うまでもない。
別荘の工事は急ピッチで進み、こちらで見繕った家具の搬出もほぼ終わった。
「することがなくなってしまいました」
私のすることは納品書にサインをするとかそれくらい。
貴族への挨拶回りをして宣伝をしたいところだが、レオン不在ではそれも出来ないし。
「少しお休みになられてはいかがですか」
まだ日が高いうちからクロエがそんなことを言った。
「そうね」
私はベッドに寝そべり、婚約記念に売り出したブックレットを開く。
婚約式前にも関わらずかなりの増刷があったそうだ。
「レオン殿下のことが気になりますか」
「え?」
私は無意識にレオンの立ち絵のページを開けていた。
凛とした顔つきは王子様そのもの。王族の纏う特有のオーラがそこにはあった。
「会いたいですか?」
「会ったところで何を話せばいいのか。私の考えも纏まっていないし、またレオンを不快にさせてしまうかもしれないわ」
「左様ですか」
クロエは香を焚いていた。リラックスする甘い香りに頭がぼーっとする。
「それでもやっぱり、会いたい」
私は虫の鳴くような声で呟くと枕に顔を伏せた。
最後に見たレオンは、馬車を降りて王宮に向かう後ろ姿だった。
「殿下がお戻りになられたら、会いたかったと仰っしゃれば良いのですよ。何を話せばよいかわからないのならば、今思ったことをお話しなさいませ」
「出来るかしら。また喧嘩になったらどうしよう」
「私もフォローいたします」
「フォロー?」
私は思わずくすりと笑った。レオンと会話するのにも侍女に手を煩わせるなんて。
「お嬢様は殿下の不在時、ブックレットの殿下を見つめては、その胸に抱いて眠っていたと」
「誇張がすぎます」
「さぁお休みなさいませ。お嬢様は仕事が一段落すると、疲れが急にきますからね」
「そうかしら」
あぁ、まぶたが重い。
レオンがいれば、その寝息が聞こえるのに。
まどろみの中、私は目を閉じた。




