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マーガレット妃の思い

「国王陛下、マーガレット妃殿下、ご無沙汰しておりました。昨夕、シンリックより王都へ戻りました」


 私は二人の前で淑女の礼をする。

 謁見の間はやはり威圧感があり、他所で会うより重みが増す。


「そんなに畏まらずとも良い、普段どおりでな」


 玉座に座った陛下が言う。その横でお義母様はにこにこして立っていた。

 きちんと王妃らしく飾られ陛下の横に立つと、元ランドリーメイドとは思えない気品とオーラだった。


「エレノア、シンリックは楽しめたか?」


 ええっと、何と申せばいいのでしょうか。


「とても素敵なところでしたわ。シンリック湖の景色がとても印象的でした」


 とりあえず無難に土地を褒めておく。


「また新しいことを始めるそうだな」

「はい。アクアマリンを使った商品のプロデュース及び販売、それからホテル経営の計画を進めております」


「ポスター、見せてもらったわぁ。マドリン公爵のご息女、とても素敵な方ね」


 お義母様が楽しそうに言う。


「あぁ、ポスターの噂を聞いた貴族たちが、我先にと求婚しているそうだな」

「そうなのですか? 完成はしましたが、まだ張り出してもいないのに」

「ポスターが出回ったら、もっと倍率が上がるわよ〜」


 求婚してくる男性のうち、一人くらいリース様にぴったりの方がいればいいのだけれど。


「そういえばレオンから要望書が届いていた。不要な家具を開業予定のホテルに使う許可がほしいと。好きにするがいい」

「良いのですか! ありがとうございます!」


 レオン、忘れていなかったのですね。

 何だか胸が苦しいです。


「私も一緒に見たいわ。使わなくなった家具の置き場も知っているし、案内させてちょうだい」

「そんな、妃殿下に案内させるなど出来ません」

「ふふ、私元侍女よ? 案内くらい何でもないわ」

「うむ。マーガレットは王宮勤めをしていただけあってセンスも良い。レオンも不在なのだし、一緒に見繕ったらどうだ?」


 あぁ、すごい圧。

 これはお断り出来ませんね。


「では僭越ながら、マーガレット様、よろしくお願いいたします」

「うふ、嬉しい。旅行の話も聞かせてね?」


 あぁ、この人は本当に毒気なく笑う。誠実な人にいい加減な対応は出来ません。


「はい。のちほど」


 もうこうなったら相談するくらいの勢いで話してしまいましょうか。

 はぁ。







 私とお義母様は物置となっている棟に来ていた。

 物置といっても王宮だけあって天井の高い作りで広間のようだった。

 そこに所狭しと置かれた最高級家具たち!

 ここはショールームか何かですか!


「これは、世界で一番価値のある物置ですね」

「ねぇ。どれもまだまだ使えるのにもったいないわぁ」


 最初に重厚感のある木材を利用した家具を見る。ベッドにクローゼット、鏡台。どれも緻密な彫り物がしてあり、その価値をさらに高めている。年代物のようだがよく手入れされ、表面はしっとりと手に吸い付くようで気持ちがいい。


「男性が好きそうね」

「そうですね。マスタールームに良いかもしれません」


 次は可愛らしい系の家具。

 華奢な金縁はその比率を考え抜かれたかのように、いやらしさを感じない高級感がある。

 そしてなんと言ってもピンク地に小花柄をあしらったカウチ!

 金とピンクが調和した優しい感じと優雅な曲線が女心をくすぐる。


「これ、好きです」

「エレノアちゃんは乙女なのねぇ」

「は、恥ずかしいです」

「ふふ、可愛いわよ?」

「とんでもない! お金儲けのことばかりで可愛げのない女なのです」

「あら、レオンは言わないの?」


 レオンは……こんな私を可愛いと言ってくれる。

 仕事が大好きで、色恋なんてまるで縁がなくて、妻としての期待に何一つ答えられていない私を。


「仰ってくださいます」

「シンリックで何かあった? とても悲しそうな顔してる」


 マーガレット妃は私を覗き込むようにして言った。慈愛に包まれているような不思議な感覚に、思わず縋り付いてしまいたくなる。

 国母というのはこんな人のことを言うんじゃないだろうか。


「喧嘩を、してしまったのだと思います」

「そう。あなた達も喧嘩をするようになったのね」

「申し訳ありません」


 私はぐっと唇を結んだ。けれどその唇は震えていた。


「謝らないで。私とっても嬉しいの」


 え……? 嬉しい?


「あの子が貴女に心を開いてぶつかっていること。王宮で貴女一人ではないかしら? レオンの居場所になってくれてありがとう」

「そ、そんな」


 不快な気持ちをさせてしまっているのに。安らげる居場所なんかに到底なれていないのに。


「それから、貴女があの子に本音を言えること」

「王族に向かって本音を言って怒らせるなんて」


 言語道断だ。今になって自責の念が湧く。


「王族だからよ。王族に向かって本音を言葉で表せる人なんてそういないわ。あなた達は夫婦になるのよ。何でも言い合えるのはとても大切なこと」

「そうでしょうか」

「えぇ。でないとあの子、ずっと一人ぼっちのままだわ。貴女だけはレオンを一人の人間として見てあげてね。レオンのお相手が貴女で良かった」


「泣いて、しまっても、いいでしょうか」


 こんな私でも良いと言ってもらえるのだろうか。

 レオンはこんな私をずっと愛していると言ってくれたのに、私はレオンをきちんと見ていただろうか。


「ふふ、もう泣いてるわ」


 マーガレット妃は私が泣き止むまでそっと抱きしめてくれた。



10万字が見えてきた今日このごろ。がんばろう!

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