反省会
私室に入って一刻は過ぎただろうか。
よそ行きドレスを脱ぎ、髪をほどいて洗ってもらい、リラックス出来るゆるいワンピースを着て、お茶を飲みながら髪を梳いてもらう。
そのあたりでかなり冷静になってきた。
「あぁ、やってしまいました」
思わず顔を覆う。
これはどう修復すれば良いのでしょうか。
指の隙間から鏡越しにクロエを見るが、クロエは何も言わずに櫛を上下に動かし続ける。
「クロエ、どうすればいいかしら」
「夫となる男性に、それも一国の王子殿下相手に、感情に身を任せて大声を上げるという行為をお止めになることから始められてはいかがですか」
「長いわ。いまそれだけの言葉を処理出来る余裕がーー」
「殿下を怒鳴るなんてバカですか」
「うぅ、何て端的。簡潔すぎるわ。というか、やっぱり聞こえていたのね」
私は大きなため息をついた。
「お嬢様、顔の筋肉が垂れ下がりますのでそのような顔はお止めください」
クロエの両手が私の頬を挟み、にゅーっと後頭部側へ引っ張る。
「いたい。私本当に困っているのだけど」
「夫婦喧嘩なのですから夫婦で解決なさいませ」
「クロエ〜! そんなこと言わないで〜!」
あぁだめ。すごく情けない声を出してしまった。もう頭がぐちゃぐちゃで泣きそう。
「具体的に何を困っているのですか」
「レオンの機嫌を損ねたことよ。どうしよう、勢い余って解雇なんて言ってしまったけれど、本当に辞められたらL&E商会の信頼が大きく崩れてしまうわ」
「そんなことを言っているから夫婦喧嘩に発展するのですよ!」
「え? って、いてててて」
「リンパがたまっておいでですね。痛いですが我慢なさいませ」
クロエが厳しい。
脇のリンパを流されながら私は薄っすら涙目になる。
「でもレオンが仕事をしなかったのも事実だし、仕事への温度差も悲しかったのよ。プライベートを仕事に持ち込んでサボるなんて大人のすることではないでしょう」
「お嬢様がプライベートに仕事をねじ込んだ、という見方も出来ますが」
「えぇ?! 私が悪いの?!」
衝撃のあまり思わず大声を出してしまう。
「どちらのお考えも間違いではございません。ただ、すれ違いが生じていて、歩み寄りが必要なのではないかと」
「うーん、レオンと交渉しなくてはいけませんね」
「夫婦の話し合いとおっしゃいませ。ですがその前に、お嬢様がプライベートをどのように定義するのかをきちんと整理せねばならないかと」
うーん、困りました。
だいたいプライベートって何なのですか。
商機が転がっていたら拾うのが当然かと思うのですが、あえて拾わないシチュエーションがプライベートってこと?
そんなの出来る気がしませんし、そんなプライベートいりません。
「クロエはプライベートは何をして過ごしているの?」
「お嬢様にご満足いただけるように茶葉の勉強をしたりーー」
「あ、ごめん。それきっと参考にならない」
クロエだってプライベートといいながら結局私のことばかりじゃない。
あぁ、レオンはいつ帰ってくるのだろう。
何を話せばいい?
謝罪したところで私は同じことを繰り返してしまう気がしてならないし、そんな謝罪に意味などない。
「あぁ、頭が働きません」
商談や計算なら得意なのに。
レオンは未知数だらけでだめだ。




