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はじめての喧嘩

 私はシンリックでするべきことを終え、王都へ帰る馬車に揺られていた。

 正面には無言のレオン。


「あの、ご相談があるのですが」

「何ですか?」

「湖水の館なのですが、L&E商会プロデュースに当たって、内装をそれなりに高級志向に変えようと思っているのです」

「いいんじゃないですか」


 うーん、素っ気ない。


「家具やカーテンなど、一緒に見立てていただきたいのです」

「それなら王宮で使っていないものがたくさんある。それを使えば予算は0ですし、それくらいなら口添えしますよ」

「本当ですか?! 王宮で使われていた家具だなんて集客力抜群ですわ」

「ただし見立てはエレノアがしてください。僕はいいです」


 レオンはつまらなさそうに横を向いた。


「なぜです。レオンにはセンスがありますわ。私の部屋を用意してくださったでしょう? レオンが選んでくださった家具はどれもとても素敵でした」

「それは貴女のために選んだからですよ」

「では今度はお客様のために選んでーー」

「嫌ですよ。そんなつまらないこと」


 プチ。

 あ、私の中の何かが切れた音がした。


「先日から何なのです! レオンはL&E商会の人間なのですよ?! 未来のお客様に向かって何ですかその態度は! だいたいビジネスパートナーでありながら、シンリックでは全然仕事をなさらなかったではありませんか! そのような勤務態度が続くようなら解雇いたしますわよ!」


 私は狭い馬車の中にも関わらず大声を出した。クロエに聞かれていたら後でお叱りを受けそう。


「エレノアこそ何ですか。二人の婚前旅行にと思って計画したのにどうして商談が始まるんですか。なぜ男に誘拐されている」

「誘拐の件については申し訳ありませんでしたわ」

「だいたいマドリン公爵のこともそうだ。婚約者として怒っていいところなのに貴女は顔色一つ変えないし、結局デートらしいことも何一つ出来なかった」

「だ、だからって拗ねて仕事を放棄するなんて許されませんわよ。プライベートを仕事に持ち込まないでくださいませ」

「ならエレノアのプライベートはいつなのですか。これはプライベートな旅行ではなかったのか?」


 私のプライベート?

 私のプライベートって何だろう。

 思わず黙ってしまう。


 そのまま無限にも思えるような長い長い沈黙が続き、馬車は止まった。


「おかえりなさいませ。レオン殿下、エレノア様」


 王宮に馬車が着くのは決まって私室に近い棟の玄関だったのだが、今日は正面入口に着いた。

 いつ見ても威厳がある。


「レオン殿下、お疲れのところ申し訳ございませんがチリオスタ殿下がお呼びでございます」

「兄上が?」


 レオンは昇降台が置かれるのを待たずに馬車を飛び降りた。


「はい。戻られたら一番に来るようにとの仰せにございます」

「わかった、すぐに行こう。エレノアを頼む」


 そう言うと一度も私の顔を見ることなく行ってしまった。


「エレノア様、しばしお座りになってお待ちくださいませ。お部屋の近くまで車を回しますので」


 執事は深く頭を下げると馬車の扉を静かに閉めた。


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