別荘の使い道
シンリックの別荘は湖水に面していることに意味がある。レイクビューを楽しむのが醍醐味だからだ。
そういうわけで、この別荘地はシンリック湖を囲むようにぐるりと貴族たちの別邸が建っている。
「マドリン公爵は中古の屋敷を取得されたようですね」
私たちはマドリン公爵から買い取った屋敷に来ていた。
「もう新しく建てるだけの土地はありませんからね。中古を買うか、買ったあとに新築を建て直すかでしょう」
レオンが言った。すこし不貞腐れているのは気のせいだろうか。
「新築するほどの資金はなかったのでしょうね。ですがおかげで安く済みました」
マドリン公爵の屋敷は二棟に分かれており、渡り廊下でそれぞれを繋ぐタイプになっていた。
三階建、左右対称のおしゃれな屋敷だった。
間取り図によると、向かって左が完全なプライベートスペース。
向かって右側はパブリックスペースのようだ。
一階がダンスホールや食堂、来客用のサロン、二階が宿泊者用の貴賓室、三階が使用人の部屋。
「エレノア、これがデートですか?」
「内見ですわ。私、ここをシンリック唯一のホテルにしようと思っておりますの」
「はぁ。別に驚きませんよ。屋敷なら既に王家所有のものがあるのですから、別荘用に買ったのではないくらいは見当がつきます」
レオンはつまらなさそうに言った。
「では私が考えた図案を見てくださいますか?」
私はクロエに持たせていた図案を受け取り広げてみせる。
「まず渡り廊下を取り壊して二棟を完全に独立させます。向かって右側、一階がショップ『妖精のお気に入り』、ここでアクアマリンを中心とした雑貨を販売します。二階は工房、三階が職人やカラットの居住スペースです」
「ショップまで作るのか」
「はい。そして向かって左側がホテル『湖水の館』一棟貸し切りタイプで、最長1週間まで泊まれます」
「1週間?やけに短いな」
「ホテルの目的は新規客の流入です。いくら商品を作っても、今いる貴族に売るだけではすぐに需要は頭打ち。ホテルに新規客を呼び込み、お土産をたくさん買わせて帰らせる、このためには1ヶ月も2ヶ月も滞在されると困るのです」
「なるほどな」
「それにシンリックは高級別荘地。シンリック唯一のホテルに泊まるなら費用もそれなり。ですが1週間なら男爵クラスでも何とか手を出せる価格に抑えられます」
「ふむ、いいと思いますよ。ところでエレノア、デートは?」
「今しているではありませんか」
「では大切な話とは? 今日はエレノアの気持ちを聞かせてくれるのだろう?」
「? 大切な話なら今したではありませんか」
「ん?」
「屋敷の購入理由を話しておりませんでしたのでご説明させていただきました」
「それだけですか?」
「大事なことでございましょう!!」
そう言う私を前に、レオンは大きく肩を落とした。
「仕事モードのエレノアに、何かを求めるのが間違っていました」
というか、レオンこそいつになったらお仕事モードになってくれるのでしょう。
L&E商会のビジネスパートナーだというのに、この人ほぼ仕事していません!
「あぁ、レオン。絵師が来ましたよ」
私は門の向こうで会釈する絵師を見つけた。
「絵師? エレノアが呼んだのですか?」
「はい。私たちの絵を描いてもらいましょう」
「っ! エレノア! 嬉しいです。きちんと覚えていてくれたのですね!」
レオンは私を抱きしめた。
数日後。
「これは何ですか?」
レオンは出来上がったばかりの「湖水の館」のポスターを手にしていた。
「素敵でございましょう?」
私とレオンのツーショットに、背景は「湖水の館」、煽り文句に「ハネムーンに出掛けませんか?」
まだ工事が終わっていないから、湖水の館はあくまで完成予想図を描いてもらっている。
「僕たち二人の思い出のために描かせたのではなかったのですか?!」
「レオン、これは一石二鳥なのです。レオンは思い出が手に入り、私はホテルの宣材が手に入る。とっても効率的ではありませんか」
「エレノア? そろそろ怒りますよ」
レオンは低い声でそう言った。




