ポスター制作
「レオン、もう少し右に傾けてくださいませ」
「このくらいですか?」
「あぁ!行き過ぎました!ほんの少し戻してください」
「あの……私は本当に眠っていてよろしいのでしょうか」
「えぇ、もちろんですわ!お気になさらずに!」
あの話し合いから数日後、私は早速ポスター制作に取り掛かっていた。
ベッドの端に横たわるリースに、ベッドの脇から傘を差し出すレオン。
「いい影が出来ましたね、ではこの構図で。傘とリース様をメインに、レオンの手は肘から下のみ描くようにしてください」
「かしこまりました」
絵師はスケッチを始めた。
「エレノア、僕たちも1枚描いてもらいませんか?」
スケッチを始めてしばらく経つと、おもむろにレオンは言った。
「先日ブックレット用に何枚も描いてもらったではありませんか」
「いえ、販売用ではなくですね。二人の旅の記念として」
「うーん、正直じっとしているより、シンリックでやりたいことがたくさんありますわ」
そう言いながら、私は宝石加工職人に応募してきた者たちの身上書に目を通していた。
カラットは肩を負傷したせいで、ひと月ほど作業が出来ないらしい。しばらくは指導と検品に回ってもらうことにした。
私はそれなりに経験があって、カラットと上手くいきそうな人物をピックアップする。
あとはカラットに実技試験をさせて最終選考としよう。
「ですがせっかくの婚前旅行なのです。思い出になるでしょう」
レオンの言葉に現実に引き戻される。
ベッド脇で傘を差し出したまま、レオンはこちらを向いて甘えた顔をしている。
それどころじゃないのに!
「シンリックの思い出の品なら、今手に持っていらっしゃるではありませんか」
「これは商品ではありませんか!二人の記念がほしいのです」
「はぁ」
次は傘とアクアマリンの見積書とにらめっこする。
傘なら原価の10倍ほどの金額が一般的な価格設定だ。
でもシンリックは高級別荘地だし、もう少し高めに設定してもいいかも。原価の15倍としましょうか。
うん、価格設定もバッチリですね。
「エレノア、聞いていますか?」
「はい?」
こちらは忙しいのですが、モデルの補助をしているレオンは暇なのでしょうか。
「僕がシンリックを旅行先に選んだのは、この素晴らしい景色をエレノアと楽しみたかったからなのです」
「十分楽しんでおりますわ。連れてきていただき心から感謝しております」
商業的な意味で。
「そうですか!では明日は出掛けませんか?」
「明日ならいいですわよ。私の行きたいところでもよろしくて?」
事務仕事も今日で目処がつくし、明日はマドリンの別荘を内見に行きたいと思っていた。
「えぇ!どこです?」
「明日のお楽しみですわ。大切なお話もございますの」
倍額で買い取った屋敷の使い道もきちんと説明しよう。
「大切な話?やはり君は僕のことを!」
「?」
何か齟齬が生じているような。
「腕がだるかろうが、僕は明日のデートのために頑張りますよ!」
「やる気を出していただくのは結構なのですが、プルプル動いてはアクアマリンが揺れてしまいますよ」
「あぁ!すまない!」
レオンの動きがぴたりと止まる。
スケッチは順調に進んでいる。
私はマドリン公爵から受け取った屋敷の間取り図に目を落とした。




